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146 ファントムバレット

 それは、僕にとって生まれて初めて見る物体だった。

 柄より上は鞘の中に納まって見えず、それゆえ鞘自体の長さからナイフと錯覚したもの。

 しかし一度鞘から抜き放たれれば、現れたのはナイフとは似ても似つかない代物。

 筒、とでも言うべきか。

 ナイフの柄と思われた部分は本体? からほぼ直角に折れ曲がり、全体的にL字のような形をしている。

 一体何なんだあれは? あんなものでどうやって攻撃するんだ?

 戸惑うばかりの僕に、その筒の、穴の部分が向けられた。

 直感的にヤバいと感じた。


 ズドンッ!! と。


 筒からつんざくような轟音が放たれるのと、僕が上体を捩じったのはほぼ同時だった。

 片方の耳に、鋭い痛みが走る。

 僕とシバとの距離は、闘技場の端と端と言っていいほどに離れているのに、その距離から攻撃された。


「ハイネさん!?」

「何が起こった!?」


 外から観戦しているカレンさんたちも、驚きに騒めいている。

 僕は反射的に痛みが走った方の耳を触ったが、幸い耳はちゃんとあった。

 丸ごとフッ飛ばされたかと思うような衝撃だったから、無事を確認してホッとしたが、同時に血の滑りも感じた。

 一部抉り取られた、といった感じか。


「反射で回避したか。それぐらいやってくれなければ面白くない」


 とシバは、依然としてあの筒の穴を、僕の方へ向けていた。

 考える前に感じ取った。

 あの穴の見える位置にいるのは非常にマズい!


 ズドン! ズドン! ズドン! ズドン! ズドン! ズドン!


 轟音と共に、やはりまた何かが猛スピードで僕の周囲を通り過ぎていく気配がした。

 もっともそれは、僕が危険を察知して体を倒さなければ、確実に僕の体の中を通過していたことだろう。

 わかったことは一つ。

 シバは僕に向かって何かを飛ばしている。あの筒の穴から。


「くっそ!!」


 とにかく動き回らなければ。一ヶ所に留まっていたらそれだけで危ない。

 そして遠距離にいては向うから一方的に攻撃されるだけだ。まず全速で駆けだし、シバへ反撃できる位置まで接近する。


「そう来たか。……そう来るしかなかろうな」


 意外と簡単に接近を許したシバ。

 僕の繰り出すパンチを、例の筒で受け止める。


「……なんだ、それは?」


 間近で改めて見る。その不可思議な筒。

 全体を覆う鈍い輝きは、それが金属製であることを示し、全長はやはりナイフ程度の小さな武器だ。

 武器と呼んでいいのかどうか、まだわからないが……。

 しかし、その表面に浮かぶいかにも複雑そうな構造は、あるものを連想させる。


「……エーテリアル機械か?」


 もしやその武器は、エーテリアルを武器に利用したものか?


「バカな!?」


 観戦席から、誰かの声が聞こえた。


「エーテリアルの兵器利用は、五大教団の総意で固く禁じられているではないですか! それを教主の立場にある者が率先して破るのですか!?」

「早合点するな。この風双銃フウマコタロウは、紛れもない風の神具だ」


 風双、銃……?


「機構こそはエーテリアル機器を参考にさせてもらったが、動力は紛れもなく風の神力によるもの。風の神力を共鳴増幅させる聖別鉱物をグリップに誂え、使用者の手を通じて神力を送り込む。銃身に入った神力は一度薬室に入って急激に圧縮。その状態で引き金を引き、撃針が降りると、圧縮空気化した風の神力が一気に爆発し、細い銃口を通って方向を整えつつ、発射される。それこそ風双銃フウマコタロウが撃ち出すものだ」


 何を言っているのか全然わからない。


「放たれるのは空気と言えども、その速度は音の速さと同じ。生み出す衝撃波だけでも相当な威力。まして風の神力が混じったものだから、命中すれば人間の体ぐらい簡単に弾け飛ぶ。貴様が回避できたのは、ひとえに勘のよさで先読みできたからだ。その一事だけでも、教主どもから誉めそやされるに納得できるが……」


 拳と銃で鍔迫り合いしていた体勢から、いきなり蹴り飛ばされる。

 まずい。間合いが開くとあの銃が……!


 ズドン! ズドン! ズドン! ズドン! ズドン! ズドン!


「苦し紛れの回避がいつまで続くかな!? 同じ飛び道具でも、この風双銃と弓矢の最大の違いは、空気と神気を混ぜ合わせて弾とする以上、尽きることがないということだ! 逃げ続けても迎える終わりは変わらんぞ! お前の死という結末はな!」


 っていうか殺す気なのかよ!?

 たしかにシバの言う通り、同じ飛び道具でもあの銃とやらは弓矢とは格段に違う。

 僕自身猟師の息子として弓矢に慣れ親しんできたから尚更わかる。その違いは、無尽蔵に放てるという以上に恐ろしい違いは、あの連射性能だ。

 弓矢で一矢放てる間に、あの銃は少なくとも五、六回は連続で撃ってくる。

 しかもそれが右手左手に一つずつ。

 ついでながら弓矢では両手を使ってつがえなければならないところ、あの銃とやらは片手で扱えて、だからこそ同時に二つ扱える。

 それだけで一度に撃てる数も二倍だ。


 忙しすぎて逃げ切るにも限度がある。


「どうした!? 教主どものお気に入りよ、これで終わりか? ならば俺を失望させた報いをくれてやらばねばな!!」


 ここに来てシバの連射速度がさらに上がる。

 今度は弾のバラ撒き方も手堅く、簡単には接近させない構えだ。

 この状態から逆転できる唯一の方法が、懐に潜り込むことなのに、一定の間合いで釘づけにされては……!


「遅い! これで俺の勝ちだ!!」


 回避に回避を重ね、体勢が崩れまくったところに何発も重ねられて飛ぶ空気の弾丸。

 絶対に回避不能。

 では、出来ることはただ一つ。


「ダークマター・セット!」


 横へ振り薙ぐ腕の挙動に合わせ、暗黒物質の障壁が形成される。

 風の神力と混じり合せて作られたという空気弾は、その黒い障壁にたやすく遮られて霧散した。

 闇の力の前では、地水火風の力はいずれも無力。


「…………それは」

「…………」


 遺憾だ。人間相手に暗黒物質を使わされるとは。

 それだけシバの実力が凄まじいということでもあるが、あまりにも強力過ぎるこの力を人間には使いたくなかった。

 元から命のないモンスターや、ムカつくノヴァやコアセルベートならまだしも。

 神でもモンスターでもない、人間相手に。


「……やはり貴様だったか」

「何?」


 シバが何か喋りだす。小声だったので、思わず前のめりに耳をつきだす。


「とぼけるなよ。貴様なのだろうエントロピー。貴様以外にその暗黒物質、誰が操ることができる?」

「なっ……!?」


 暗黒物質を知っている!? しかも僕の神の名を!?

 お前は一体……!?


「俺だよ、闇の神エントロピー」


 風の教主であり、風の勇者であるシバは言った。


「俺は、風の神クェーサーだ」

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