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145 王にして英雄

「兼任、か……!?」


 教主であり勇者、それが風の教団を仕切るトルドレイド=シバ。

 本来なら教団最強の武力として先頭に立つべき勇者と、教団最高の指導者として頂点にいるべき教主。

 二つの職域は決して重なりがたく、ゆえに一人がすべてを取り仕切ることは不可能。

 だからこそここには地の教主と地の勇者、水の教主と水の勇者、火の教主と火の勇者、そして光の教主と光の勇者が揃っている。

 しかし風の陣営は一人のみ。

 それがヤツの、トルドレイド=シバの異常性を際立たせている。


「……え? 本当? 勇者って女性がなるものじゃないの?」

「アタシもてっきり、風の勇者も女だとばかり思ってた……」


 後ろで勇者たちも戸惑いの声を上げていた。


「これで納得してくれたか? 風の最高権力にして最強武力、それがこの俺だ。遠慮はいらん、好きに殴りかかってくるがいい」

「そこまで言うなら……」


 元々挑まれたのはこちらの方だ。

 堂々と受けて立つべきじゃないか。


             *    *    *


 そして僕たちは会議室から再び移動し、闘技場と思しき場所へとやって来た。

 風の教団本部一区画であることは変わりないが屋根がなく、黒雲たちこめる空の直下に、円盤状のリングが広がっている。


「ここは普段、風間忍の実戦訓練に使われている区画だ。戦いは一対一の試合形式。神気や神具の使用も許される何でもありルールだ。異存は?」

「ありません」


 僕とシバの間で火花が散った。戦いは既に始まっている。


「よかろう。では俺は戦いの装束に替えてくるのでしばらくお待ち願おう」


 そう言ってシバは、再び建物の中へと消えていく。

 場には僕と勇者一同及び教主一同。そしてそれらの案内役――、と見せかけて実は監視役なのだろう風の教徒が数人いるだけで、他には誰もいない。

 訓練場と説明されたこの区画にも、肝心の訓練している戦士たちは一人も見当たらず、秘密主義の徹底ぶりを窺わせる。


「あの……、ここで訓練している人たちは、今は何をしているんでしょう?」


 ダメ元で案内役の人に尋ねても、無言で頭を下げるだけだった。

 その案内役すら覆面で顔を隠しているし、ここまでくると清々しすぎて怪しさも感じない。

 そしてその一方で、我が陣営に目を向けてみると……。


「……どうしたんですかカレンさん?」


 何やらカレンさんがムスッとしていた。

 何故? ここまでの短いやり取りでカレンさんのご機嫌を損ねる要素があったかしら?


「勇者同盟計画、終了です!」

「ええええええええ?」


 なんか高らかに宣言された?


「だってそうでしょう!? 風の勇者が男の人だなんて聞いてませんよ! 誰ですか勇者は全員女性だってふかしたのは!?」

「仕方ないでしょう。風の連中は秘密主義で、勇者も正体不明だったんだから。……でも男勇者とかないわー。マジないわ」


 一緒になってシルティスまでぼやき出した。

 何なんだろうこの噴出感は。不満の噴出感は。


「風の勇者を仲間に加え、勇者同盟を完成させる計画ですが、このたび白紙撤回することとあいなりました。皆さんのご理解をいただきたく存じます」

「賛成! シルたん賛成!」


 シルティスが勢いよく挙手する。


「な、何故そこまでダメなんだすか男勇者?」


 仕方がないのでササエちゃんがツッコミ役に回っている。


「当り前よ! 勇者五人を集めてユニット組んで踊るのがアタシの密かな目的だったのに、あの野郎のおかげで台無しじゃない! 契約不履行で訴訟したいレベルよ!」

「そんな野望を隠しもっとんだんだすか!? オラ盆踊りぐらいしかできないだすよ!?」


 思い違いを契約不履行扱いされても、風の教団はただひたすら困るだろう。


「あっ、そうだ。最初は男に見えて、実はお前女だったのか……!? ってパターンないかな?」

「そういうのはミラクちゃんだけで充分だよ、シルティスちゃん……」

「オレは性別詐称したこと一度もないが!?」


 どこででも勇者たちは賑やかなものだ。

 まあ、風の教主兼勇者のシバに関しては骨格的に男であることは間違いないし、むしろあれで女だったら気持ち悪さがMAXだ。


「漢たるもの熱血たれ」


 姦しい勇者組に対して、教主様たちはさすがに礼儀正しく沈黙をもって戦いの始まりを待っていた。

 そして……。


             *    *    *


「待たせたな」


 お色直しを済ませたシバが闘技場に舞い戻ってきた。

 教主として威厳と神聖さを示すゆったりした礼服から、動きやすさを重視した戦闘服へ。

 軽装で、体のラインも割と克明に出る。


「あの胸板……、間違いなく男性だね……!」

「ホッとしたような、ムカつくような……!」


 カレンさんとシルティスはまだ言っていた。


「んだす? 見るだす、あの両腰に差したナイフ。あれが風の神具なんだしょうか?」

「しかしナイフというには妙な形をしているな?」


 一方他の二人は冷静な分析を行っていた。

 たしかにミラクの言う通り、奇妙な形のナイフが左右の腰に一振りずつ、鞘に収まりベルトからぶら下がっている。

 あれを使うとすれば得意は格闘主体の超接近戦か。油断したら瞬く間に膾切りにされそうだな。

 僕も円盤闘技場に降り、二人の男が対峙する。


「……ではじっくりと見せてもらおうではないか。すべての教主が賞賛する、闇の男の実力を」

「そっちこそ。人を試すことは、同時に人から試されてるってことを、ちゃんとわかってますよね?」


 しかし意外と初めてだな。こうして人vs人で真剣にやりあうのは。


 勇者と教主の一団は、闘技場の外延から観戦している。


「誰でもいい、開始の合図をしてくれないか」


 シバの呼びかけに、火の教主がスッと立ち上がり、言った。


「漢たるもの熱血たれ!」


 戦いの火ぶたが切って落とされた。

 同時にシバの両腰から、例のナイフが抜き放たれる。

 ……ん? ナイフ? ……じゃない。ナイフとは似ても似つかない形態の……、なんだアレ? 筒?


「それではとくと味わってもらおう。我が風の神具、風双銃フウマコタロウの弾丸の味をな!」

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