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143 会議開始

 そうしている間にもリムジンは、僕たちを五教主会談の会場へと運ぶ。

 ……ええと、僕がいるから六教主会談の方がいいのか?

 ややこしいから五教主会談のままで。とにかく僕たちが通されたのは風の教団本部、風の大工房。

 その会議室へ通されるまでに、一応その内部を通過したが、不思議なことにその間誰かと擦れ違うことは一度としてなかった。

 一応人の気配はするものの、僕らの視界に入ることは一切ない。

 風の教団の徹底された秘密主義を、ここでもまた垣間見せられた気分だった。


              *    *    *


 用意された円卓に、五人の教主+どこの馬の骨ともわからない一名が座る。

 肩身の狭いことと言ったら!


 勇者たちも、それぞれの教主の背後を守るように立って、会談の形が出来上がる。


「それではまず、わたくしの求めに応じてお集まりいただいた教主の皆様方に、発令者としてお礼申し上げます」


 とヨリシロが口火を切った。


 中略。


 マザーモンスターの基本的な説明が語られながら、五教主会談は進む。


「……つまり、そのマザーモンスターさえ倒せば、地上からモンスターは全滅する、ということですな?」


 水の教主が、商人出身らしい抜け目のなさを口の端に漂わせる。


「たいへん結構なことですなあ。あんな連中がいるばかりに船は積み荷ごと沈められるし、船乗りたちの危険手当もかさみます。本当に出てくるだけで損にしかならないヤツらですよ」


 田舎にいる僕の父さんと同じことを言っている。


「漢たるもの熱血たれ」

「え?」


 火の教主の発言に、僕は興味を引かれる。


「漢たるもの熱血たれ」

「……ええ、そうですけれど。では火の教団が全体で?」

「漢たるもの熱血たれ」

「まさか、そこまでしてくれるんですか?」

「漢たるもの熱血たれ」

「そんなことないです! ありがとうございます!!」


 火の教主の話によると、ミラクを通して不死鳥フェニックスの情報を受け取った火の教団は、専用の捜査網を展開。

 以後、フェニックスらしき怪鳥を目撃した際は早急に報告するよう全土に通達し、報告が届き次第急行できるシステムを構築中なのだとか。


「オラどもの地都イシュタルブレストでは『御柱様』いう木があってな。ゴーレムっつう便利なものを生み出して、人々から慕われとったさ。でもそれがある日突然人を襲いだしてよ。ソイツがマザーモンスターだとわかったんは、戦って倒した後さね」

「つまり地のマザーモンスターは既に滅び、残るは水火風の三体のみ。これらを殲滅せしめれば、人は永遠にモンスターから決別できる」


 ヨリシロが、意気を見せつけるように椅子を尻で弾いて立ち上がる。

 両手でバンと円卓を叩く。


「それは様々な面から意義があります。先ほど水の教主様が仰られたように、モンスターによってもたらされる経済的損失は、どれほどのものになるでしょうか? それはすなわち人類の発展の遅れそのものです」


 他の教主たちは黙って耳を傾ける。


「わたくしたちは、モンスターとの戦いによってどれほど余計なエネルギーを浪費したのでしょう? そのエネルギーを別の建設的なものへ向けられたら、どれほど大きく発展できたでしょう? そしてモンスターのせいで何より尊い人命が損なわれるのは言うまでもありません。モンスターは、わたくしたちにとって……」


 ここで一旦言葉を区切る。


「……百害あって一利ない存在です。彼らを滅ぼすことに誰もが異存ないはず。今こそ五教団が手を取り合い、世界を大きく変える時です!」

「漢たるもの熱血たれ!」

「ああ、その通りだねえ」

「利があれば、それに乗るのが商人です」


 教主たちがすんなりとヨリシロに賛同したのは少し意外だった。

 神々にとってモンスターが人気取りの道具であるように。教団にとってもモンスターはある意味必要なものではないかと思っていたから。

 人々の脅威であるモンスターを、教団が討伐する。

 それによって人々は教団に感謝する。存在価値を認められる

 それは彼らにとって手放しがたい恩寵……、というわけでもないようだ。


「正直、世界中の誰もが、あのバケモノにウンザリしておりますからなあ。教団がモンスターから人々を守ると言っても、百年前ならともかく今ではすっかり新鮮味もないですし『守って当たり前』みたいな空気になっております。にも拘らずモンスターが強敵であるのは百年前から変わらず。言うなれば対費用効果がね、とっくに許容量を超えていましてね」


 人と神とでは事情もまた異なるようだ。

 それを水の教主のビジネス然とした理屈が簡潔に表していた。


「なので吾輩といたしましてもモンスター根絶、大賛成でありますとも! 吾輩らと属性を同じくする水のマザーモンスターについては我が娘……、おっと、我が勇者から聞き及んでいます。情報が少ないのが歯がゆいところながら、少しずつ調査していきたく存じます」

「よしなに」


 なんやかやで議長ポジションにあるヨリシロが言葉を掛ける。

 会議は、今のところ順調だ。


「それでは……」


 ヨリシロの視線が、これまで向いていなかった方向へ向く。

 教主の席に座りながら、会談が始まってまだ一言も発していない、まるで空気のような男へ。


「風の教主様。アナタのご意見を伺いとうございます」

「………………」


 沈黙はまだ続く。


「教主ともなれば、多くの有益な情報を蔵していたとしても、何ら不思議はありません。アナタであれば、同じ属性たる風のマザーモンスターに関する何かを知っておられるのではありませんか? せめて手掛かりとなるようなことでも……?」


 執拗に迫ろうとするヨリシロを、シバの手が制した。

 謎のヴェールに包まれ続けてきた風。

 神も、教団も、都市も、教主も、勇者も。

 すべてが透明不可視だった、その正体が見えてくる……?


「まずは、聞きたいことがある」

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