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137 待ち合わせ

 そこからさらに一ヶ月ほどの時が流れ……。

 ヨリシロの言が正しいかどうか、証明される時が来た。


「しかし……、僕たちはなんでここに?」


 今僕たちが立っているのは、毎度おなじみ光都アポロンシティではない。その外へ出て、遠く離れた何もない野原だ。

 全国規模から言うとアポロンシティとイシュタルブレストの中間地点に当たるだろうか。

 そもそもアポロンシティから見て、イシュタルブレストこそがもっとも離れた都市になるので、その中間点もかなり離れた距離にある。


 しかも、その場所に何かあるわけでもなく。実際目的地に到達した僕が見渡しても、あるのは背の低い草ばかり。

 乾燥地帯なのか大きな樹木も育たず、地形的にも真っ平らで地平線まで見渡せる。


 そこにとりあえず僕、カレンさん、ヨリシロ。それにヨリシロお付きのドラハで計四人。

 ちょっと離れたところに極光騎士団百人ほどが屯っている。教主のお供、もしくは護衛と言ったところか。


「なあヨリシロ、そろそろ教えてくれないか?」


 本当にこんなところで待っていたら、風の教団の使者がやってくるのか?

 と、言うことを続けて問いかけてみたら……。


「あら、わたくしはそんなこと一言も言っておりませんわよ」

「えぇ~?」


 じゃあなんで僕らをこんなところまで連れてきたのか。


「申し訳ありません。ハイネ様」


 といきなりドラハが膝を折って傅いた。


「本日の予定は、ハイネ様に対しては一切漏らしてはならないとヨリシロ様より厳命されておりますので」

「えっ? なんで!?」

「なんでもビックリさせたいからだとか」


 オイこの教主。

 僕が刺すような視線で見ると、ヨリシロは涼しい顔をするのみだった。


「……カレンさんは?」

「すみません……。私はもうこれから何が起こるのか聞いています」


 僕だけか何も知らないのは!


「一応私は、勇者として他教団との外交にも関わらないといけませんから。それに……、ねえヨリシロ様?」

「ええ、カレンさん」

「「好きな人にはサプライズを仕掛けたくなりますから!」」


 ハモるな。可愛いとか絶対思ったりしないぞ!

 この二人は意気投合してから輪をかけて僕のことを振り回すようになりやがって。

 他に第三者がいる時は自粛するけど、僕たち三人オンリーになった時はもう本当に止める者ない暴走車両だ。

 何度それに轢き潰されたことか。


 ……アレ? でも今は正確に三人ぼっちではなく、もう一人。

 僕の注意が四人目。黒肌の少女へと向く。

 闇都ヨミノクニから千年の時を越えて帰還せし、影の勇者ドラハ。記憶喪失である彼女は、最古の勇者という威名にも拘らず少女のように純朴だが……。


「申し訳ありませんハイネ様。先ほども申しましたようにきつく口止めされていますので」

「ああ、いいよ気にしなくて。どうせもう何時間もしないうちにわかるんでしょう?」


 しかし何故僕に対してここまで低姿勢なんだろう?

 元々記憶喪失とは思えないぐらい礼儀正しい子であるが、――最近の勇者たちにも見習ってほしいぐらい――、肩書き的には勇者補佐でしかない僕に過剰なまでにご丁寧に?


「アナタだって、一度ぐらい崇め立てられてもいいでしょう?」


 ヨリシロが背後から小声で囁きかけてきた。

 コイツまさか、ドラハが記憶ないのをいいことに変な教育を施してないか?


「あの、ハイネ様!」


 ドラハが何か言い出す。


「もしもご不満でしたら、私のおっぱいを揉んで気をお鎮めください!」

「オイこら教育者ァァァァァァァァァ!!」


 ヨリシロにドラハを任せておくことが一気に不安になってきた!

 勇者や従者の見ている前と言えども、さすがに教主の襟首を掴みあげないわけにはいかない。


「お前この子に何を吹き込んだ!? この子の純白の心を黒く汚そうとしているんだ!?」

「うふふ、だってドラハが、アナタが喜ぶことは何か? と聞いてくるものですから……」

「それならなおさらウソ教えるな!!」


 いや、別におっぱい触れて嬉しくないとか、そういう話ではないんだが。

 話のマターがね? 色々ね?


「ハイネ様、ヨリシロ様」


 そんな風に僕らが乳繰り合っていると、ドラハが一人冷静に知らせてくる。


「来ました」


 え? 何? 来たって何が?

 もしかして、風の教団の使者か?


「使者は来ません。風の教団はわたくしたちの下に何人たりとも寄越しはしません」


 ドラハが指差し、ヨリシロが見詰める方向。

 そこに大きな土煙が挙がっていた。


 ……イヤ違う。一瞬土煙かと思ったけど、アレは違う。

 雲だ。

 雷雲のようにモクモクと質量感のある黒雲が、地面に触れるほど低い位置に広がっていて、しかも強風に煽られているのか、常に流動しながら形を変える。

 あんな自然現象。見たことも聞いたこともない。


「あれが……、『風の結界』なのですかヨリシロ様?」


 カレンさんが不安交じりにヨリシロに尋ねる。

『風の結界』?


「そうです、風の教団が本拠を隠すために、風の神力で張った障壁。視覚ばかりでなく物理的にも侵入者を遮断する。排他的なあの方たちを象徴するような術ですわ」

「え? ちょっと待って。そんなものが僕たちの目の前に広がってくるって……」

「風の教団は使者など送っては来ません。誰も寄こしません。…………都市そのものがやってくるのです」


 で、その黒雲の塊が、どんどんこっちに近づいているんですが。

 壁のような黒雲が眼前まで迫ってきて、視界が黒とグレーの斑模様いっぱいになったその時。

 接近が止まった。


 そして唐突に。

『風の結界』が晴れた。

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