135 風の吹く方へ
「風の……」
「……マザーモンスター?」
「だす?」
カレンさんが言い出すことにミラク、シルティス、ササエちゃんの三人も目をパチクリさせる。当然僕も。
「……たしかに火、水の二体を見つけ出すことは相当困難って結論に達した以上、残る一つに着目するのは順当と言えなくもないですが……」
「だからって最後の選択肢として風のマザーモンスターを探すったって、情報がないのは他と一緒よ? と言うかさらに情報は少ないわよ? だからこそ話題に上らなかったわけで、安易にソイツを探し出そうって言っても……」
シルティスが反論を述べる途中で、カレンさんが遮る。
「いいえ、風のマザーモンスターの情報を得る手段はあるわシルティスちゃん。正確には、その希望があるって程度だけど……」
「希望?」
「風の勇者に会いに行くの。そして風の勇者にも私たちの仲間になってもらうの!」
な、何を言い出すんだカレンさんは!?
これまでマザーモンスターの話をしていたというのに、何故急きょ勇者の話に?
「……アレ? これもしかして」
「……例の勇者同盟の話か!」
「え? 何だす? 何なんだすだす?」
何故ミラクとシルティスは訳知り顔になっているの?
僕にはまったく話が見えてこないんですが。ニューフェイスのササエちゃんはともかく、僕はこの中じゃ一、二を争うほどカレンさんと付き合いが長いはずなのに。疎外感!
「ハイネさんがイシュタルブレストに行っている間に、皆で話し合ったんです。ハイネさんがイシュタルブレストに、一人で、行っている間に」
あっ、カレンさんいまだに根に持っている。
「せっかく光、火、水の三勇者が友だちになれたんです。残り二人の勇者とも手を結び、五大勇者の協力体制を実現させようって!」
「そ、そんな計画を……!?」
「そして前回図らずも、その地の勇者ササエちゃんとも仲良くなれました。残るは風の教団、風の勇者ただ一人。彼女を迎えることができれば、勇者同盟は完成です!」
「わーい、オラもカレン姉ちゃん大好きだすー」
「……コイツ、両面焼きで外はパリッと中はモチモチにできないかな?」
「いい加減にしろ火の勇者」
なんか芸風が固定されて来たなこの四人。
「……あー、カレンッちの言うことには多少夢見がちな面が入ってるけども」
シルティスが、カレンさんのことを擁護するように言う。
「たしかに現状、まったく情報がない中で、新しい情報がありそうなところを掘り出してみるのは悪いことじゃないと思う。アタシもミラクッちも、自分と同属性のマザーモンスターに関して情報を提供したり推測を立てたりすることはできたし」
「風の教団もしくは風の勇者を訪ねれば、風のマザーモンスターに関する情報を聞き出せる可能性は高いということか?」
「ひょっとしたら、アタシらよりクリティカルな情報持ってるかもね。すべては推測の域を出ないけど。他にやるべきこともないなら試してみる価値はあるかも」
「……あのあのだす!」
シュビパッ! とササエちゃんが手を挙げた。
「オラも喋ってええだすか!?」
僕、しばし沈思黙考する。
そしてシルティスの目を見て、ミラクの目を見て……。
「「「……………………どうぞ」」」
「ヒィーッ!? 口調から少しも信頼感が伝わってこないだす! でもいいだす! これから述べる意見で充分に汚名挽回してやるだす!」
もはやツッコまない。
「我々の目的は、マザーモンスターを見つけ出すことではなく、マザーモンスターを倒すことだす! よって無事発見まで漕ぎつけたとしても、その後に激しい戦いが待ち受けていることは必定だす!」
「それは、まあ……」
「ここまでは、まあ間違ったことは言っていないな……」
シルティス、ミラクも慎重に耳を傾けている。
「その状況下において、戦力増強は益こそあれ損には絶対ならないだす! 風の勇者を我が同志と迎えることで、我々の戦いは有利に! 大は小を兼ねるだす!」
うわ困った。
ササエちゃんの言ってることが反論の余地ない。
たしかにこれからマザーモンスターと戦うのに、味方は多ければ多いほど助かる。
無論ただ倒すだけなら闇の神の転生者たる僕ならどうにでもなるのだが、グランマウッドとの戦いでもカレンさんたちの助けがなければ、一般市民にどれだけの被害が出たことか。
そしてそれ以上に、やっぱりササエちゃんから正論を言われたというのが。いまだショックから抜け切れず……。
「カレン姉ちゃん、今のでいいだすか?」
「うん、長いセリフをよく覚えたねササエちゃん」
あ、カレンさんの入れ知恵だったのか。
よかった一安心。
「だが……たしかにカレンさんもといササエちゃんの言う通りでもあるな。他に取れる手段もないし、風のマザーモンスターの情報を得られる淡い期待を持ちつつ、勇者同盟の完成を目指す。それがいいのかも知れない」
「さすがハイネさん! 私やっぱりハイネさん大好きです!!」
とカレンさんは大喜びだ。
……でもあまり人前で開けっ広げに言われると照れるというか困るな。
特にあの火の勇者が聞いてるところだと、即座に嫉妬してきかねないし。
「ハイネ。お前を焼く」
「ササエちゃんに対する時ほどオブラートに包んでくれないんですか!?」
ミラク怖い。
とにかく方針は決まった。これから風の教団本部へと赴き、教団及び勇者とコンタクトを取ろう。
風の教団本部がある都市は……、待て、昔どこかで聞いたような記憶がある。風都ルドラステイツ、だったっけか?
「で、風都ルドラステイツはどこにあるんですかね?」
「……」「……」「……」「……だす」
ん?
「「「「知りません」」」だす」
話が振出しに戻った。




