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134 マザーモンスター考

 マザーモンスター討伐の前にかかる問題。

 それは……。


「マザーモンスターの居場所がわからない」

「えっ?」「はっ?」「もっ?」「だすー?」


 そう。グランマウッドを下し、残り三体となったマザーモンスター。

 ソイツらの居場所が、まったくもってわからない。

 どこにいるかわからないヤツを訪ねてブッ殺すことなど不可能なのだ。


「結局またこの問題に帰り着くんだよなー」


 前にも同じようなことで頭を悩ませた記憶が……。


「えー? アタシら、そういう情報全部アンタが押さえていると思って期待してたんだけどー? 役に立たない男ねー?」

「僕だってそこまで万能じゃありませんよ……」


 イチャモンつけてくるシルティスに力なく言い返す。


「まったく期待させるだけさせておいてロクデナシめ」

「ヘタレだす」


 ここぞとばかりにボロクソ言ってくるな。


「まあまあ、……でもハイネさん、それなら地のマザーモンスターである『御柱様』はどうやって所在を知ったんですか?」

「それは、その、とある情報筋から……」


 まさかマザーモンスターを生みだした張本人である四元素の神から直接聞きだしたなんて言えないよなあ。

 しかもその神当人である火の神ノヴァは、ウシ型のモンスターに転生して現在堕落を極めているとも……。

 ……………………あっ。


「そう言えばある筋からの情報がもう一つあったんだ。火のマザーモンスター。ソイツの名前と外見特徴だけは判明してる」

「ほう、オレの担当か?」


 火の……、と聞いてミラクが早速食いつきだす。


「火のマザーモンスターの名前は不死鳥フェニックス。巨大な鳥型のモンスターで、身にまとう炎で常に自分の体を焼き、その灰の中から無数の火属性モンスターを生みだすんだとか……」

「火の鳥か……。……ん? …………あッ!?」


 ミラクがまさに何かに気付いたと言わんばかりに声を上げる。


「もしかしてアイツか!? ……言われてみればたしかに。だがしかし……!」

「知っているのミラクッち!? だったら勿体ぶらずに発表しなさいよ!」


 シルティスに促され、ミラクはとつとつと語り出す。


「我が本拠、火都ムスッペルハイムの周辺では、度々不思議な怪鳥の目撃情報があるのだ。その特徴は、今コイツが言った通りの、全身を炎で包まれた火の鳥。しかも余程巨大なのか、目撃者はいずれもかなり遠くでソイツが飛んでいるのに気付く」

「うんうん、それで!?」

「その外見の異常さから、目撃者はただちにモンスターだと判断するのだがな。しかし相手は鳥。ムスッペルハイムに通報が入り、火の勇者や業炎闘士団たちが駆けつける頃には、とっくに余所へ飛び去っている」


 だから火の教団にとっても、その火の鳥については目撃情報があるだけで交戦した記録などは一切ないそうだ。

 やはり空中を自由に飛び回る翼を持てば、その所在は融通無碍。

 一ヶ所に根を張って動くことのないグランマウッドとはあまりに違いすぎる。


「だが、この火の鳥に関する情報にはもう少し続きがあってな。しかもここからは、与太話の類になるが……」

「いいからさっさと話しなさいよ。マザーモンスター自体まだ与太話の域を出るか出ないかって段階なんだし」

「……その火の鳥に関して、確証のないオカルトめいた話があってな。曰く、火の鳥が目撃された地点では、近いうちに必ず大きなモンスター災害が起こるという」


 !?


「因果関係は解明されていないがな。そのおかげであの鳥は『凶事を知らせる鳥』『災いの前触れ』などと忌まれてきた。だがもしハイネの言う通り、あの鳥が『モンスターを生みだすモンスター』と言うなら……」

「腑に落ちまくりじゃないの!」


 たしかに。

 フェニックスが通ったあと必ずモンスター災害が起こるというなら、それはフェニックス自身が火属性モンスターを産み落としていったからだ。

 火の鳥は『災いの前触れ』どころではなく『災いを運んできた』者自身だったのだ。


「……クソッ! あの鳥! そうだとわかっていたら最優先で討伐したものを!」

「でも、鳥類だからこそ一ヶ所に留まらないで。だからこそ、これまで交戦すらしなかったんでしょう? 今その重要さに気付いたとしても……」

「仕留めるのは至難の業だろうな。仮に目撃報告があって、受けた瞬間小型飛空機で全速飛ばしたとしても、到着までそこにいてくれるかは微妙な線だ。しかも目撃例自体、数年に一度のペースだし……」


 やはり不死鳥フェニックスを捕まえるのは不可能ということか。

 そしてミラクが語っているうちに、横でどんどん深刻そうな顔つきになっていたシルティスが……。


「ねえ、水のマザーモンスターについては、何の情報もないのよね?」

「あ、ああ……、居場所どころか、形態や習性も……」


 まったくもって謎のままだ。


「アタシ思ったんだけど……。水のマザーモンスターは海の中にいるんじゃないかと思う」

「え?」

「水属性モンスターは、そのすべてが水棲生物を模したもので、出現場所も水辺もしくは水中そのもの。さらにその大半は一番デカい水溜り、海で遭遇するわ。水のマザーモンスターが海の中にいると仮定して、ソイツがばら撒くモンスターが海、さらに川を伝って世界中に散らばっているとすれば……」


 話は通る、か。


「それにね、火の鳥や巨大樹といったヤツらにはまがりなりにも目撃情報はあったけど。アタシの記憶にはそれと同じぐらい巨大な水属性モンスターが目撃されたって心当たりはないのよ。唯一あるとすればこないだ戦った大海竜だけど、アイツはマザーモンスターじゃないんでしょう?」

「ああ、違う。それだけは確信をもって言える」

「だとすればやっぱり、水のマザーモンスターと思しきヤツには目撃例が皆無と言っていい。地と火にはあるものが水にはない理由として、もっとも考えられるのが……」

「海の中に隠れている、か」

「そう、海っていうのはそれぐらい遠大なの。仮に水のマザーモンスターがあの巨大樹並みの大きさを持っていたとしても、海は余裕で全部を飲み込める。そして何百年にも渡って人間の目から隠し通すことができる」


 参ったな。シルティスの推測には物凄い説得力がある。

 かつて水の神コアセルベートも言った。『海は偉大。あらゆるものを、その内に収めることができる』だったか。水のマザーモンスターを生みだした張本人が、あの卑劣神であるなら、たしかに海の偉大さを最大限利用していることもありうる。


 だが、それらの推測の下に導き出される結論は……。


「水のマザーモンスターを見つけ出すのは、火の鳥を見つけるよりさらに難しいってことか……」


 何しろ地上よりずっと広大な海面を深く潜りながら探さなければいけないというのだから、想像するだけで気が遠くなりそうだ。

 僕のクロミヤ=ハイネとしての人生を何十回分つぎ込んだとしても、探し当てられる自信が得られない。


 火のマザーモンスター、不死鳥フェニックスを見つけ出すのは困難。

 名前すらわからない水のマザーモンスターを見つけ出すのは不可能。


 薄々勘付いてはいたが、八方塞がりではないか。

 人間にそこまで害を加えていないグランマウッドを倒しただけで、僕たちの計画は頓挫してしまうのか?


「ならば残る最後の一つに賭けてみるしかありません」


 唐突にカレンさんが言った。


「風のマザーモンスターです」

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