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133 仕切り直し

「はーい、皆さん正気に戻りましたかー?」

「……えー? 何です?」「頭がズキズキする……」「アタシたち何やってたの……?」「記憶が抜け落ちとるだす……!」


 よかった。

 全員都合よくアルコールによって記憶が消去されていた。

 本当によいことだ。もし記憶が残っていたら四人中四人が、そっちの窓からダイブすることになりかねない。

 ひょっとしたら、実際は記憶が残っていて、そこをあえて覚えていないふりをしているのかもしれないが、だとしたら一層そっとしておこう。


「ところでハイネ兄ちゃん」

「何だいササエ?」

「なんでハイネ兄ちゃんは顔中キスマークだらけなんだす?」

「お黙りなさい」


 とにかく!!

 今日ここに勇者が四人も集った理由はちゃんとある。

 これから僕たちがやるべきことについて、話し合いをするためだ。


 マザーモンスター討伐。


 この世界を覆うもっとも具体的な災厄、モンスターは、ある存在を通して何千何万と現れている。

 その『ある存在』というのがマザーモンスター。『モンスターを生みだすモンスター』だ。

 地水火風の四属性を割り当てられた計四体のマザーモンスターは今もどこかでモンスターを産み出し続け、そしてモンスターは人を襲う。

 この不毛な連鎖を断ち切るためには、モンスターの供給元たるマザーモンスターを断ち切る以外にない。


 その事実を知った僕は、世界からモンスターをすべて消し去るために、マザーモンスターを全滅させることにした。

 マザーモンスターは全部で四体。

 計画は既に行動に移され、地のマザーモンスター、グランマウッドは討伐されてこの世にない。

 しかしそれは第一歩。地上のどこかにはまだ水火風三体ものマザーモンスターがいて、形ある災厄を振り撒きまくっている。


 僕の当面の目的は、残りのマザーモンスターを見つけ出して、一体ずつきっちり消し去っていくこと。

 首尾よく一体目を片付け、順調に滑り出したと言えなくもない状況。

 しかしそこに新たな突発的事態が発生し……?


「そうです! マザーモンスターを倒すんです!」


 カレンさんが勇ましく唸る。


「私たち勇者同盟と、ハイネさんが力を合わせて!」


 …………。

 ……そう、僕の計画に、押しかけ協力者が現れたのだ。

 それがカレンさんとゆかいな仲間たち。彼女たちは全員が勇者という職業柄、モンスターの存亡と世界の平和には密接な関わりがあり、一枚噛みたくなる気持ちもわかるが……。

 僕は最初、マザーモンスター討伐という事業を自分一人だけで行おうとした。

 モンスターは神が生みだした災厄。それを滅ぼすことは、闇の神エントロピーの転生者である僕ことクロミヤ=ハイネの責任だと思ったからだ。

 他にもこまごま理由はあったけど。


 しかしカレンさんを筆頭とする少女たちは、僕の拘りを越えて押し寄せてきて、結局僕の窮地を救ってくれた。

 だからこれ以上、彼女たちを爪弾きにすることはできまい。


「今日皆で集まったのは他でもありません!」


 カレンさんが僕に代わって司会進行役にのし上がる。


「会議をするためです! 残り三体のマザーモンスター。それをどうやって倒すか! イシュタルブレストで戦った巨大樹を思い出せば、これから戦う三体も一筋縄でいかないのは必定。ここは一度知恵を絞って、どうやって戦っていくか計画を綿密に練ることが肝心です!」

「まあ、そういうことだな」

「腕が鳴るよねー。アイドル勇者シルたんに相応しい絶頂ステージになりそう!」


 ミラクとシルティスもなんか乗り気だ。


「……そう言えばササエちゃん?」

「はいだす?」


 僕はかねてから気になっていたことを尋ねてみる。


「ササエちゃんは、ここに来てていいの?」


 ササエちゃんの本拠である地都イシュタルブレストは、ここ光都アポロンシティから遥か遠方。

 歩いて約数ヶ月。エーテリアル動力で動く小型飛空機でも数日かかる距離だ。

 もし向こうでモンスター騒ぎが起きたら……。


「心配かたじけないだすが、安心だす!」


 ササエちゃんは、薄く小さい胸を張りながら答えた。


「新しく教主になった祖母ちゃんが言ってくれたんだす。皆さんには『御柱様』のことでたいそー世話になっただすから、今度はオラたちが皆さんの助けになってやらねばと! イシュタルブレストには焦土殲滅団のおにーさんや、ゴーレムの在庫がたくさん残っとるだす! 彼らに任せておけばけっこう強力なモンスターが現れたとしても、勇者ナシでやってけるだす!」

「それはそれで悲しくない?」

「シルティスちゃんそれ以上いけない!」


 横でカレンさんがシルティスのことを嗜めていた。


「そんなわけで、この地の勇者ゴンベエ=ササエも、モンスターのおふくろさんを倒すのに、是非とも助太刀させてほしいだす! この通りだす!」


 そう言って僕の前でササエちゃんは、両手の平と両膝を床に付き、さらに額まで床に擦りつけた。

 一目見てわかった。この子、土下座し慣れている。


「……ササエちゃんの身柄は、しばらくこのアポロンシティで預かることに決まったんですよ」


 助け舟を出すように、カレンさんが言う。


「地の教主のお婆様からも、お願いされてるんです。お孫さんであるササエちゃんに勇者としての修練を積ませてあげたいんですって」

「そうなんだす! オラ、前回の『御柱様』の一件で痛感したんだす! オラにはまだまだ勇者としての実力実績、いずれも足りないと! オラ、自分にないものを尊敬するカレン姉ちゃんの下で養っていきたいだすよ!」

「お前にもっとも足りないのは観察力と判断力だと思うがな。過去お前の暴走が何度大惨事を引き起こしたことか……!」

「ミラクちゃんそれ以上いけない!!」


 横でカレンさんがミラクのことを嗜めていた。


「……とにかく、ササエちゃんの光の教団受け入れはヨリシロ様も承認くださりましたし、だからこそ勇者全員でハイネさんを助け、マザーモンスターを滅殺したいところですよ! ハイネさん、一緒に頑張りましょう!」


 結局そこに行きつくんだよなあ。

 しかし僕も、前回『御柱様』ことグランマウッドとの戦いで彼女たちに助けられた事実を忘れてはいない。

 この戦いは人類の命運を左右するものだ。だからこそ人類を代表する勇者たちが手に手を取って戦わねばならないのではないか。

 障害は、乗り越えることが大切なんじゃない。障害を乗り越えるために協力することが大切なんじゃないか。


「……わかりました。一緒に頑張りましょう」

「はい!」「当り前だ!」「アタシ抜きでやろうって考えがそもそも間違いなのよ」「だすー!」


 勇者の少女たちは一人の例外もなく、やる気に胸を躍らせていた。


「……ですが、その前に問題があります」

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