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130 温泉

「あー、生き返る」


 地の教団仮本部での式典を済ませたあとは、寛がせてもらうことになった。

 露天の浴場に僕ただ一人。

 温かい湯に体を沈め、ここ数日溜まった疲れを洗い流す。


「しかし地面からお湯が出てくるとはなー。そんなの全然知らんかった」


 温泉と言うらしい。

 イシュタルブレスト名物として、地面から湧き出す適温の温水。都市内では、これを掘り起こして提供する施設が何十ヶ所と点在するのだそうな。

 これもまた地よりの恵みということか。

 グランマウッドが暴れたことで地下の構造が変わることが危ぶまれたが、湧出量に陰りが出ることもなく、利用に問題はないとか。

 街を救った英雄を歓待するために今は施設一つを丸々貸し切り、何だか悪い気もするが……。


「そんな気分も蕩けるほどに気持ちいいー、温泉サイコー」

「ホントに気持ちいいですねー。ヨリシロ様も来てくれれば本当によかったのに」

「アイツがいたら寛ぐどころじゃないですよー。熾烈な貞操の攻防戦に……、ん?」


 なんか気づいたら、隣でカレンさんが湯に浸かっていた。


「うえぇぇぇぇぇぇーーーッ!?」


 何故カレンさんが!? ここ男性だけが入れるスペースじゃないの!?


「何で!? 何でいるんですかカレンさん!? マズいですよ! お風呂の中にいるってことは裸ですよね!? また僕の理性を破壊しようって目論見ですか!?」

「安心してくださいハイネさん」


 カレンさんはザパッとお湯を鳴らし、座った状態から立ち上がる。

 当然お湯の中に隠れていた体の大半は外に出て、そのあられもない裸体を僕の目に晒すと思いきや……。


「ん?」

「湯帷子っていうらしいです。男女が混じって温泉に入りたい時に、これを着たままお湯をいただくんだそうです」


 たしかに今のカレンさんは、見慣れないゆったりした衣類を着て、限度を超えたハレンチさは回避できていた。

 しかしこれはこれで……、白い生地がお湯に濡れて、肌に張り付いてしかも透けて……、えも言えないセーフの中のアウト感が……。


「私を見損なわないでください。私がハイネさんに貞操を捧げる時は、友だちであるヨリシロ様と一緒にと決めています。一人抜け駆けするような女ではありませんから」

「さ、さいですか……!」

「そしてハイネさん」


 ザブンと再びお湯が鳴って、カレンさんが僕に迫ってきた。

 僕は彼女と違って、普通に単独の入浴を想定していたため湯帷子なるものを着ていない。

 だから逃げられない。逃げようとしてお湯から出ると、色々無様なものをカレンさんに晒してしまう。


「やっと追及するタイミングを得られましたが。今回、なんで私を置いていったんです?」

「あの……!」


 そういやそうだった。今回僕が単独行動をとったことを凄い怒ってたっけカレンさん。

 でも仕方ないじゃないか。カレンさんにはカレンさんの勇者のお勤めがあるし、マザーモンスター討伐は大っぴらにはできないから、教団を代表する勇者は極力関わらせたくない。

 そりゃ今回土壇場でカレンさんたちが来てくれたのは助かったが、でもそのきっかけはカレンさんがアポロンシティにいてササエちゃんを迎えられたからで、だから結果論的にはやっぱり残ってくれて助かったかなとなるのが……。


「…………」

「…………?」


 なんだか、沈黙が、重苦しい。


「……心配したんですから」

「え?」

「ハイネさんがいなくて、私の知らないどこかで一人戦ってると想像するだけで、夜も眠れなくなるんです。もしもハイネさんがピンチになって、そこに私がいて救えたとしたら。それなのに私がいなかったら。そう思うと凄く胸が痛いんです。……ハイネさん、私、思い上がっているでしょうか?」

「あ、あの……!」

「私ごときがハイネさんを助けられるなんて、おこがましいって思いますか!?」


 カレンさんの気迫に押される……!!

 反論どころか、弁解すらできない。


「マザーモンスターはあと三体。もちろんハイネさんは全部倒すつもりなんでしょう? その時は私も同行します。ダメだと言われても同行します。いいですね?」

「は、はい……!」


 としか言えなかった。

 他の返答が許されなかった。

 これはもう勇者の気迫ではなく、女の気迫だ。前々から言われてはいたが、カレンさんにここまで激しい情念があったとは。


「よろしい、です」


 僕の返答に満足したのか、カレンさんはニッコリと笑った。


「さ、これで難しい話はお仕舞です。ここからは楽しい話をしましょう。……皆、入ってきていいよー!」

「は!?」


 僕に理解する暇も与えず、緊急事態が押し寄せてきた。

 なんとミラク、シルティス、ササエちゃんまでが男湯に侵入してきたのだ。


「やっと終わったかカレン」

「待たせすぎよー。服着てたからよかったものの、裸で入浴待機してたら寒くて確実に凍えてたわ」

「久々の温泉だすー」


 全員湯帷子を着て肌を隠しているからまだいいが。

 ……いいんですか!?

 男の入浴中にお嬢様方が大挙して押し寄せていいんですか!?

 仮にも勇者でしょうアナタたち全員!? 世間体とか大丈夫なんですか!?


「いーじゃーん? 今回大活躍の英雄様に美女たちが総出でご奉仕しても。って言うか何です、あの超必殺技? あんなの使えてたら大海竜だってワンパンだったじゃん?」

「オレのことは監視役と思ってくれればいい。アイドル痴女などはともかくカレンに不埒な視線でも送ったら即座にへし折るからな」


 シルティスもミラクもムチャすぎる!

 そして最後の一人、ニューフェイスのササエちゃんはと言うと……。


「まことにすみませんだす!」


 いきなり湯船の中で土下座した!?

 いいの!? 頭部が思いっきりお湯の中に突っ込んでますが息できるの!?

 そして何より何が「すみません」なの!?


「アンタさは邪悪な闇の神じゃなかっただす! 命を張ってオラどもの街を救ってくれたのに、オラ分別もなく襲い掛かっちまって、まことに申し訳ないだす!」


 ザバッと湯の中から面を上げて話すササエちゃん。


「ああ、そういう……」

「きっとあの神託も、何かの間違いに違いないだす! これからは皆様と一緒に微力を尽くす所存だす!」


 と再び湯の中に頭ツッコんで土下座した。

 しかし、やはり思い込んだら没頭しがちな子だな。


「さ、堅苦しいのはその辺にしましょうよ。で、何する? この英雄さんにどんなおもてなしする?」

「皆で体を洗ってあげるのはどうかな? 風呂ならではだし、ハイネさんも王様気分で喜んでくれると思うな」

「かしこまっただす! オラ全力で、皮がベロンと剥けるまで擦らせてもらうだす!」

「反応したらわかっているだろうな? へし折るぞ」


 ちょっと待って!

 何をそんな僕を倒錯的な快楽に引き込もうとしているの!?

 だから僕はキミらと違って湯帷子すら着ていないから湯船から上がると色々無様なものが見えるんだって!

 引っ張るな! 四人がかりで引っ張るな!

 なんで風呂に入りにきて網にかかった魚の気分を味あわなきゃ……!


 あああああああ~~~~~~~~ッ!?


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