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127 他力真実

 カレンさんが、チームの下に到着する。


『遅いぞカレン! 待ちわびた!!』

『糸口は見えてきたけど問題も山積みよ!! アタシとササエッちの複合属性で根を縛るには、ある程度目標に接近しないといけない! でもそのためにはあのゴーレムどもがどう考えても邪魔よ!!』

『どうする!? 手すきのオレとカレンで先行し、蹴散らしながら進むか!?』


 四人が結集し、勇者たちの士気は格段に上がる。

 全員で力を合わせて、この窮地を乗り越えようという意志に溢れている。


『……ううん、それじゃあ多分間に合わない。もうすぐハイネさんは準備を終えてしまう』


 地表から、カレンさんの視線を感じた。


『ハイネさんは、一度放出した暗黒物質を物凄い力で圧縮している。恐らく圧縮が終わるのはもうすぐ。根を一つ一つ回って縛りつけている余裕は、きっとない。だから……、最後の可能性に懸ける』

『最後の可能性?』

『そう、まだ試していない組み合わせが、一つだけ残っているでしょう?』


 その言葉にピンとくる音がいくつも、無線機越しに聞こえてきた。


『わかった! ならオレとシルティスはゴーレムを食い止める!』

『ササエッち! 頑張んなさいよ! ここは地都イシュタルブレスト! 地の勇者であるアンタのメインステージなんだから!』


 無線から聞こえる激闘の音。

 でもわかる。その中に一区画、とても静かな場所が保たれている。


『行くよササエちゃん。光と地の複合属性。そこに活路を見出す』

『わかっただす。さっきから揉みくちゃにされまくって、いい加減要領を得てきただすよ……!』


 そして合わさる、二種異類の神気。それが混ざり合わさって一種の新しい神気に変わる。


『……ッ!? なんだ!?』

『ゴーレムが……ッ!?』


 最初に異変に気付いたのは、前線となって戦うミラクとシルティスだった。


『ゴーレムの動きが止まったぞ! 何かあったのか!?』

『油断するんじゃないわよミラクッち! あの大木野郎が、さらにエグイ新手を仕掛けてくる前兆かもしれないんだから!』


 しかしそうではなかった。

 いったん動きが止まったゴーレムが再び動き出す時、その標的はもはや勇者たちではなかった。

 グランマウッドの根だった。

 ゴーレムたちは巨体ながらもジャンプしたり、互いを踏み台にして巨大根にしがみつき、大地に引き下ろそうとしている。

 勇者たちを包囲しようとしながら、それでも大半のゴーレムが大樹の周囲に散らばっていたため、逆攻勢はすべての主根に対し一斉に起こった。

 表面に取り込まれた人々を傷つけぬよう、優しく、しかししっかりと、根を地面に押さえつける。

 それはつまり、ゴーレムたちが僕たちの意を完全に酌んでいるということじゃないか。

 何故今更、ゴーレムが再び人間の味方に?


『まさか……、カレンとササエの仕業か?』


 ミラクが真っ先に、その結論に辿りついた。


『光は、熱を与えるエネルギーとしてだけでなく、情報を伝える手段としても利用される。オレたちがモノを見るのは、反射した光を目が感じ取るからだし、あらゆる情報を光は伝えてくれる』

『たしかササエッちって、ゴーレムに命令する時、地の神気を流し込んでたわよね? 光と地の神気が合成された時、空間を伝わる光に地の神気が乗って、広範囲にいる複数のゴーレムに同時に届いたってこと? それが光と地の複合属性?』


 シルティスも推理に加わる。

 それが正しいとしても、今ゴーレムたちは彼らを支配する最高権限の保持者、地母神マントルの直接の命令で動いているはずだ。

 その支配力を打ち消したというのか? 人間が?


『オラ……、やっぱり信じられねえだすよぅ』


 無線から聞こえてくる、小さなか細い声。

 ササエちゃんの声。


『ゴーレムは、オラが生まれた時からずっと一緒にいただす。ずっと一緒に生きてきただす。助けてくれて、守ってくれて。イシュタルブレストの人たちみんなの友だちだっただすよぅ。だから、敵になったなんてやっぱり信じられないだすよ!!』


 この地で生きて、この地のことを誰より知っている勇者が、激情と共に声を上げる。

 その声を、光が乗せて世界の隅々にまで運ぶ。


『ササエちゃん、いいよ、もっと叫んで。もっと……!!』

『お願いだすゴーレム!! オラたちを助けてくれだすよ!!』


 ゴーレムたちが互いに重なって巨大ゴーレムへと合体する。

 これまで見たどのゴーレムよりも巨大で。たとえば炎牛ファラリスやヒュドラサーペントとも正面からやりあえそうな超大型だ。それが何体も。

 その充分な体躯でグランマウッドの巨根を押さえつける。表面の人たちも無事だ。

 全体重をかけて、まるで暴れ狂う巨魚を押し留めるかのようだった。


 ゴーレムが再び人間を助けてくれている。

 これまで頼りに頼り切って、その末に裏切られて、もはや誰もが信じなくなった相手を、ササエちゃんだけが愚直なまでに信じて、その信じる心が事実を変えた。


 幼い勇者。田舎者の勇者。ものを知らず愚かで他人に迷惑ばかりかける勇者。

 しかしその愚かさは、ある一つのことを最初から最後まで信じ抜くことによって徹底される愚かさだった。

 生まれ、物心ついた時から共にいる相手、ゴーレムを。

 ゴーレムを信じているから、それを生み出すグランマウッドを信じた。

 ゴーレムを信じているから、それを遣わしてくれたとされる地母神マントルを信じた。

 その両方を信じられなくなっても、最後にゴーレムだけは信じることをやめられなかった。

 幼いがゆえに、いずれ忘れてしまう偉大なる愚か。


 ササエちゃんの声が、届くべき場所に届いたのだ。


『まったく……、勇者が他に助けを求めて状況を好転させるとは……』

『いいじゃん。ササエッちって、なんかかまってあげたくなるオーラ出してるのよね。それも結構な勇者の資質でしょう?』


 ミラクやシルティスまで、ササエちゃんがなした間抜けな奇跡に苦笑する。

 でもそれでいい。

 僕はこの奇跡をなした、大信へと続く大愚を愛する。

 常々人間を愛するとのたまう僕が、人間の一部だけを選り好みして愛しては、ウソになってしまうだろうから。


 そして今、僕の手の中でちょうど完成した。暗黒物質を限界以上に圧縮して作り出す『マイクロ・ブラック・ホール』が。

 本当は使いたくなかった。

 闇の神たる僕が使いうる最大最強の破壊手段。本来は意に添わなくなった世界をリセットするために使われるはずのものだ。

 その力を何千億分の一、イヤ何千兆分の一にまで縮小し、撃ち出すのがこの技。

 しかしそれでも、人の体に限定された今の状態で扱うのはキツイ。


「……それでも、お前の半分を消し去るには充分だぞ!!」


 大樹よ!

 勇者たちのおかげで望まぬ被害が出る恐れは完全に消えた。

 もはや気がかりなく、この手に押さえつけているものを狙いへ向けて解き放つ。


「待って!!」


 しかしその狙いの先、視界を覆い尽くすほど大きなグランマウッドの茶色の幹に、一点だけ明るい蛍光色の輝きを見つけた。

 その輝きは、人の形をしていた。


 それは地母神マントルの『フェアリー』だった。


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