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124 古強者

 それは僕が知っている人だった。

 僕がイシュタルブレストに入って一番最初に出会ったお婆さんだ。

 ゴーレムに乗せて都市中心部まで運んでくれたり、その後も狩猟の依頼を受けたりと親交があったが。

 何故そのお婆さんが、地鎌シーターを持って大暴れしている!?


「ばあちゃん!! 無事だっただすか!? っていうかいつの間にオラから地鎌シーター抜き取っただす?」


 ササエちゃんが嬉しげにお婆さんに駆け寄る。

 そんなササエちゃんの脳天に、お婆さんのゲンコツが急転直下。ゴンッ。


「あいだッ!? 何するだす、ばあちゃん!?」

「こんバカ孫! こげな非常時に勇者が何ボサッと突っ立っとるね!!」


 え、ばあちゃん? え、孫?


「すまねえな、お客さん。ウチのバカ孫がケガさせちまってよ」


 と僕に対して頭を下げるお婆さん。


「勇者に任命されて、ちったあ分別も付くかと思ったが、そんなことねえ。バカガキはバカガキのままだよ。先代のヨネコが嫁さ行くの、もう少し待ってもらった方がよかったさ。まだまだコイツは勇者の器さ足りてねえ」

「でもばあちゃん! アイツは闇の神の化身なんだすよ! 『御柱様』がお怒りなのもきっとコイツの……、あだッ!?」


 またゲンコツされた。


「ササエ。お前さと教主の若僧が、なんかコソコソしてるのは気づいとった。お前さもな、勇者として色々考えることがあるだろう。何が正しいかわからんまま行動するのは怖かろう。でもな、それでも誰より最初に一歩を踏み出すんが勇者なんよ。勇者はな、勇気があるから勇者なんよ」


 お婆さんが、地鎌シーターを振りかざす。

 そして飛び出す。


「神託に耳を傾けるのも必要だ。それでもな、今起こっとること目の前にして、すべきことは決まりきっとるだろうがよ!!」


 虚空を踊り狂う三ヶ月。

 そうとしか見えない光景が、僕の目前で展開された。

 お婆さんの操る地鎌シーターは、大型武器としての重みなど感じさせないほど軽やかに舞い、その上変幻自在に、周囲の根に襲い掛かる。

 その巨竜のごとき根の中に刃を潜り込ませて、そのまま切断する。

 腕力ではない。大鎌がもつ重量だけで斬り付けており、お婆さんは手を添えているだけ。

 ……いや、それだけじゃない。お婆さんは、あの大鎌に絶えず地の神力を注ぐことで、その質量や硬度を目まぐるしく変えている。

 時に風船のように軽く、時に鋼鉄のように重く、刹那の単位で質量が切り替わり続けるからこそ、あの大鎌は生き物のように暴れ狂うんだ。

 それを操るお婆さんは、さながら大鎌という猛獣を取り回す猛獣使い。

 それだけ技術が巧みということだ。

 少なくとも大鎌本来の持ち主であるササエちゃんよりも。

 お陰で僕らを襲おうとした根は、瞬く間に一掃できた。それに囚われた人たちも速やかに救出される。


「強い……! 強すぎるあのお婆さん……!?」


 そう言えば最初の遭遇の時、僕を杖で殴り飛ばした時も老婆とは思えない打撃力だったが、一体何なんだ!?


「当り前だす!! なんせばあちゃんはレジェンドなんだすから!」

「えッ?」


 ササエちゃんが嬉しげに叫ぶ


「地の教団史上最強と呼ばれる先々々々々々々代地の勇者、通称『根こそぎシャカルマ』! それがウチのばあちゃんだす!!」

「自分のことでもないものを自慢してんじゃないよ」

「あいだッ!?」


 またしてもゲンコツがササエちゃんに降る。


「恥ずかしい限りさ。昔のヤンチャは皺と同じで一度刻まれたら死ぬまで消えねぇ。お陰で七光りができちまって、孫がこんな未熟なうちから勇者就任だ。その上周囲から甘やかされまくって、成長もままならねえ」

「うぅ……」


 バツが悪そうに唸るササエちゃんに、お婆さんは大鎌を差し出す。


「さぁ、返すよ。今のコイツの持ち主は、オラさでなくてお前さだ。お前さが今の地の勇者なんだよ」

「でもばあちゃん。オラじゃ……!」

「アタシも歳でね。全力なんて一分ももちゃしねえよ。息が上がってもう動けねえさ」


 その言葉通り、お婆さんは息が切れて汗びっしょりだ。


「ササエ。お前さはゴーレム使いばっかり巧みで、体術が身につかんかったけど、今はそんなこと言ってられんよ。今日の敵は『御柱様』だ。だからゴーレムももう味方じゃねえ」


 お婆さんの言う通り、ゴーレムは今やマントルのコントロール下にあって人々を捕え、大樹に差し出そうとしている。

 それを阻止しようと各地からカレンさんミラクの光火がほとばしる。


「いいかい。地の神力の真骨頂は、固体の性質変化だ。お前さが真剣に祈れば、この大鎌は綿より軽く、鉛より重く、紙よりも薄く、盾よりも厚く、鋼よりも硬くて泥よりも粘る。そのすべての性質を一挙に持つこともできる。火も水も風も光も、何だって斬り裂ける。それが大地の鎌だ」

「わ、わかっただす、ばあちゃん!」

「怖がるでね。お前さならできるからな」


 ササエちゃんが決意の表情で地鎌シーターを受け取る。

 その一部始終を傍から見守ってきた僕とシルティス。


「あのさあ、何やかんや言ってあのお婆さんも、あの子のこと甘やかしまくりだと思うんだけど」

「うん。これでもかってくらい丁寧に言い含めてるしね」


 ああやって大勢の人から珠のように大事に育てられたんだろうなあ。

 それが地の勇者ゴンベエ=ササエ。


「さあさササエ言ってごらん! 地の教団の武力、焦土殲滅団のモットーは!?」

「『殴ってから謝れ』だす!」

「許してもらえなかったら!?」

「『たくさん殴ってから謝れ』だす!!」


 そのモットー、ダメじゃない?

 しかし効果はあった。

 大好きなお祖母ちゃんに背中を押され、勇者は元気百倍だ。


「今こそ決断の時だす! 勇者の使命を果たすため! 多くの人々を守るため! 地の勇者ゴンベエ=ササエ! 今は『御柱様』にお手向かいいたしますだ!」


 そして彼女も、大鎌を振りかざして飛び出した。

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