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122 もてあまされる勇者

 今この時に勇者登場?

 ゴンベエ=ササエと名乗る小柄な少女は見た目からして十二、三歳。今まで出会ったどの勇者よりも幼く、それゆえに頼りなげ。

 しかし気を抜くことはできなかった。

 目が据わっていたから。


「許さないだす……! イシュタルブレストを、よくも、よくも……!」


 イヤ待って。もしかしてこの子、この混乱の元凶が僕だと思っている?


「やっぱりお前は邪悪な闇の神の化身だったんだすな! こうなれば初志貫徹あるのみだす! 行くだす! 『ゴーレムのお父さん』『ゴーレムのお母さん』『ゴーレムの坊や』ッ!!」


 ササエちゃんとやらは背負っているリュックサックから何かを放り出すような素振りを見せたが、その中には何もなく、ただ虚しい静寂だけが展開された。


「そうだっただす! アポロンシティでライフブロックを全部壊されていたんだす!! ……それでもオラにはまだ地鎌シーターがあるだす! タマ取ったりゃーーーす!!」


 言い終わるか否かで襲い掛かってくるササエちゃんとやら。

 地鎌シーターとか言うのは、あの大鎌で、恐らく地の教団を代表する神具なのだろう。

 これまで勇者が獲物としてきた神具の中でもダントツの大物で、かつ地の神力を通わせたその刃は、当たれば鋼鉄でも両断できそうな危険な代物だったが、そこまで脅威ではなかった。


 彼女は言うほどあの大鎌を使いこなせてはいず、大振りな動きは先読みしやすくて避けるのは容易い。

 年齢相応に、他の勇者よりも練度が不足しているが、それでも今は厄介だ。

 何せ他方ではグランマウッドの人間収穫が進行中。ササエちゃんに手間取る分だけ被害者の数は加速的に増える。

 かといって、彼女は勘違いながらも自分の生まれ故郷を傷つけられて怒っているんだ。

 無碍に一撃必殺するわけにもいかないし……。


「ちょこまか逃げるなだすーッ!! 疾く一刀両断されて、『御柱様』をお鎮めするだすーーッ!!」

「待て落ち付け! 僕を倒してもグランマウッドが止まったりはしない!」


 何とか諭そうとするも、ササエちゃんは聞く耳もたない。


「いいからとっとと殺られろだす!! 大鎌ブーメランッ!!」


 あの大鎌をブン投げてブーメラン代わりにでもしようとしたのか。しかし……。


「……ととッ?」


 ただでさえ身に余る巨大武器。投げる瞬間バランスを崩して、大鎌は高速回転しながらあらぬ方へ飛んでいく。


「ああ、やっちまっただす!!」

「……ッ!? オイ待てッ!!」


 大鎌の飛んでいく先には、グランマウッドの木の根が。それは既に表面に、何十人も取り込まれている。

 あの中の誰かに鎌が当たったら……!


「ダークマター・セット!!」


 今手元にある暗黒物質を斥力に設定し、その反動で飛ぶ。

 あの大鎌に追いつくほどの速度で。


「ぐあッ!?」


 僕自身を弾丸にして体当たり。見事に大鎌を根に届く前に叩き落とした。

 だが……。


「ぐっ……!」


 腹部に走る猛烈な痛み。

 大鎌の刃部分に当たったか、脇腹に真っ直ぐ走る切り傷。

 まあ、あれだけ大きな刃に激突して切断されなかっただけ幸運と見るべきか。


「やっただす! 自分から当たりにいったアホだす! 今こそ好機! とどめ刺したるだすーーッ!!」


 落ちた大鎌を拾って、ササエちゃんが迫ってくる。

 しかしこっちは傷の痛みに体が強張って、まともに立つこともできない。

 これはマズい。

 大鎌が僕の首めがけて振り下ろされる寸前……。


「このバカッ!!」

「うぎゃーーす!?」


 大きな水流がササエちゃんに命中して、凄まじい水圧で押し流す。

 これはまさか!?


「アポロンシティでも思い込みが極まって大迷惑かけたのに。ここでもまた同じパターンで暴れようっていうの!? 反省が何の意味もないわね!!」

「シルティス!?」


 水の勇者である彼女が何故ここに!?


「おっひさー、大ケガで男前が上がってるじゃないの。ちょっと待ってなさい体液調節で傷を塞ぐから」


 そう言って、パックリ割れた傷口に水絹モーセをかざす。

 すると自然治癒ではありえないスピードで見る見るうちに傷が塞がっていく。

 さすがにすぐさま全快とはいかないが、応用力は全属性中最高の水属性ならではだ。


「……イヤイヤ、なんでキミがここに!?」

「アタシだけじゃないわよ。ほら」


 と、シルティスの指さす方向につられて視線を伸ばすと……。


「『聖光斬』!」

「『フレイム・ハーケン』!!」


 遠くから巻き起こる閃光と轟炎。

 あれぞまさしく……。


「……カレンさんとミラク?」

「オゥ、イェス」


 シルティスから肯定された。


「二人とも即座に状況判断して散ったわよ。あの木の根? ……から住民を守るために防戦しつつ避難誘導中。ただ一人状況を把握できずに明後日の方向に突っ込んだのは、地元勇者のアンタだけだわ」


 とシルティスはササエちゃんの脳天をグリグリするのだった。


「かく言うアタシは属性の相性上、あの木の根とは正面切って戦えないからこっちに回されたんだけどね。暴走娘の子守りというか」


 ああ。

 向こう地属性だもんね。水属性のシルティスには辛いか。


「でもなんで勇者四人が揃いも揃って? 本拠の守りはどうしたの?」

「その辺これまでの愚痴の含めて説いて聞かせたいところだけど、今はそんな場合じゃないってことはアンタもわかるでしょう? 聞きたいのはむしろこっちよ。今がどういう状況で、アタシたちは何をすればいいか、よ。とっとと詳しく簡潔に、できるだけ早口でかつ聞き取りやすく話なさい!」


 無茶言わんでください。

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