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119 白状

 ゴーレムが何体も現れた!

 僕の攻撃。

 ゴーレムは全滅した。


「さて……、と」


 まあ基本、僕の暗黒物質の前では神力及び物質は無力だからな。

 塵一つ残さないのも可哀想なので、手とか足だけは残したけど、ライフブロックを失ったせいなのか、すぐにグズグズの土くれになって部屋に散らばった。


「ひぃぃッ!? うへぇぇぇぇッ!?」


 戦いの一部始終を見ていた地の教祖は、驚きだか恐怖だかに悲鳴を上げていた。

 腰を抜かして、その場から動けずにいる。


「では教主殿、説明してくれますね? この暴挙の理由を?」

「ななななな、何という異形の力……!! やややや、やはり貴様は、地母神様の神託通り、邪悪なる闇の神の化身……!?」

「なっ」


 僕の正体を知っている?

 しかも地母神からの神託だと!?


「どういうことだ、マントル!?」


 僕は頭上へ向かって叫ぶが、変化は足元から起こった。

 いつの間にか一本の根が、建物の窓から入り込み、波打ちながら僕の足元まで這い寄っているではないか。

 何かと思って地の教主へ視線を向けると、物凄い勢いで首を左右に振られた。

 彼の仕業ではないらしい。

 すると誰が……? と考える暇もなく、根から一塊の何かが盛り上がってきた。

 握り拳みたいな……、花の蕾? それが見る見る花開き、その中から例の蛍光色の全裸巨女が。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃーーーーッ!!」

「ぎゃああーーッ!! 出たァァーーーーッッ!?」


 例によって猛烈な謝罪攻勢で、ヒトのことを押し潰してくるコイツ。

 謝るのはいいけど、同時に縋りついてくるな。その巨豊満体で。


 謝罪で人を殺せる女――、地母神マントルの登場である。


 本来神として実体はなく、僕などのように転生して肉の器をもっているわけではない彼女は、地上に用があるごとに手近な植物から『フェアリー』なる仮初の肉体を作りだして、それを通して意思疎通する。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ~~~ッッ!!」

「出てくるたび謝罪せずにはいられんのか!? とにかく落ち着け! 僕が求めているのは謝罪ではなく説明だ!!」


 とにかく、この謝罪魔を落ち着かせて話を聞きだすのに相当な体力と気力を浪費した。

 …………そして。

 聞いた話をまとめると、こういうことらしい。

 地母神マントルは、自分を奉じる地の教団に神託を下した。

『邪悪なり闇の神エントロピーの化身、クロミヤ=ハイネを抹殺せよ』と。

 つまり僕だ。

 その神託を受け取った地の教主は、戸惑いながらも討伐指令を地の勇者に出し、標的――、つまり僕のいるというアポロンシティへと向かわせた。


 道理で、いつもだったらいの一番に登場するご当地勇者が今もって影も形も見えないわけだ。

 まさか僕を狙って入れ違いになってしまっていたとは。

 それでは指令を出した教主本人も慌てるのは当然だ。

 そして、それらの事情が分かってまず最初に思ったことは……。


「なんでそんな神託出したの?」


 現在、地母神マントルの『フェアリー』は、その無駄にデカい体を縮こまらせて正座中。

 正座なのに、直立の僕と視線の高さがあんまり変わらないという、やはり巨女だ。


「…………………………………………ごめんなさい」

「説明! 僕が求めているのは謝罪じゃなく説明って言ったでしょ!!」


 僕がややキレ気味で追及を強めると、巨女はビクリと肩を震わせた。

 いかん、コイツもう一押しで泣く。

 しかし命を狙われた以上は、僕も有耶無耶で済ますことはできない。


「もしかして、こないだも物凄い勢いで謝ってきたのって、このことで?」

「……(ポロポロ)」


 ついに泣いた。

 ああもう、やりにくいなあ。五神の中でこの子がダントツでやりにくい。


「……………………コアセルベートさんが」

「ん?」


 コアセルベート?

 水の神コアセルベートか?


「いきなりワタシのところにやって来て……。エントロピーさんが復活したから手を打たないと大変だって。ワタシたちが滅ぼされることになるって……!」


 お馴染みの『黒幕はアイツ』か。

 コアセルベートは策士ぶって裏で策謀するのが大好きなヤツだからな。

 しかも先日の水都ハイドラヴィレッジの騒動でノリノリ巡らせていた陰謀を僕に潰されて、相当頭にきていることだろう。


「エントロピーさんの弱点は、人間を溺愛していることだから。上手くして人間と敵対させれば物凄く困るだろうって……! だからワタシに、神託を下せって……!」

「話としては筋が通るが……。しかしコアセルベートのヤツはなんでキミに?」


 アイツだって水の教団から信奉されているんだから、自分の勇者を敵対させればいいじゃないかと思ったけど、思う途中ですぐにわかった。

 策士気取りのアイツは本来、自分の手は絶対に汚さず、他人を利用して謀略を楽しむクズだ。

 ついこの間、そのセオリーを破って僕に倒されたばかりだから、反省して益々陰に徹するのは自明。


 自分の手を汚さないなら他人を利用する以外ないわけだが……。光の女神インフレーションとはヨミノクニの一件以来限りなく敵対に近い絶縁状態。

 一番思想の似通った火の神ノヴァはモンスターの体に幽閉状態で、風の神クェーサーは探そうと思って捕まえることが絶対できないヤツだ。

 畢竟、利用できるのはこの地母神マントルしかいないということになる。性格上、利用してくださいと言わんばかりのヤツでもあるし。


「……だから、結局断りきれなくて。ごめんなさい、ごめんなさいぃ」


 とマントルの『フェアリー』はいまだに泣いていた。


「……そういうことなら責めるわけにもいかないな」

「ふぇ?」

「何度も言ってるがな。お前はもっと自信を持っていいんだよ。ちゃんと人間のことを考えながら神として振る舞っているし。能力だって別に劣っているわけじゃない。むしろ強いんじゃないか? ゴーレムのおかげで人からの祈りを他神より多く確保できてるわけだし」


 だからコアセルベートが何か言ってきても、嫌なら突っぱねればいいんだ。

 お前にはそれだけの意志と能力があるんだから。


「……ふぇ~~ん!! エントロピーさんやっぱり優しいです~~!!」

「もう泣くなよ。僕はもう怒っていないから」


 しかしコイツは、なんで神でありながらここまで気弱でいられるんだろうか?

 千六百年前からこんなヤツだったっけ?


「……ありがとうございます。ワタシ、エントロピーさんのおかげでとっても自信が湧いてきました。こんなに清々しい気分は何百年ぶりでしょう!」

「ん?」

「今なら何でもできそうな気がします。私、やっぱり実行することにします。ずっと前から考えていた。人々を幸せにする究極幸福計画を!!」

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