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11 モンスター襲来

「ぐおぉ……!」


 ものの数分程度だったが、小型飛空機とやらの猛スピード飛行は僕の気力体力を著しく奪った。


「こんな恐ろしいものが存在するなんて……! 都会マジ恐ろしい……!」


 着陸した小型飛空機から転がり落ちるようにして、地面の感触を懐かしむ。


「ハイネさん、気を引き締めてください。ここはもう目的地、というより敵地です。何が起きてもおかしくありません」


 同じ乗り物に乗ってきたというのにカレンさんは少しも消耗した様子がない。


「光の騎士団本隊が到着するのは早くとも五時間後。その間私たちは周囲を偵察し、モンスターの様子を調べます」

「……あの、カレンさん。ちょっと……!」

「戦闘は避けたいところですが、やむを得ない場合は覚悟してください。でもその時は私が矢面に立ちますので、ハイネさんを命の危険にさらすことは絶対にしません」

「カレンさん……! カレンさんッ!!」

「ッ!? はいッ?」


 僕が急に大声を出したため、カレンさんはビックリしたようだ。

 でも、そうでもしなければ話を聞いてくれないのだから仕方がない。


「……僕、何も知らないんですけど」

「え?」

「何で連れてこられたのか。ここ何処なのか。ここで何が起こっているのか。何をすればいいのか。……カレンさん、まだ一言も説明してない」

「えッ!? ……あぁッ!?」


 やっと気づいてくれたのか、カレンさんは「すみません! すみません!」と平身低頭しながら、これまでの経緯を説明してくれた。


「まず、ここは光都アポロンシティの南東にあるテリシェアの森の、一区画です」


 カレンさんの語るところでは、そのテリシェアの森からモンスター発見の報が届いたらしい。


「モンスター」

「そうです、モンスターです。モンスター討伐は極光騎士団の最主要任務。それで大急ぎでやってきたんです」

「……まあ、そこまではわかりますけど。何でそれに僕を連れてきたんです?」

「うっ」

「騎士団の人たちがたくさんいるんでしょう。その人たちを引き連れてくればいいのに、何でよりにもよってズブの新人の、しかも入隊試験に弾かれた僕を……?」


 別に働くのが嫌というわけではないが、カレンさんの一連の行動は腑に落ちない点が多すぎる。

 カレンさんは、いかにも苦々しい表情をして、呻くように答える。


「……騎士団は来ません」

「は?」

「さっきも言ったように、来るまでに最低五時間はかかります。集合に一時間、準備に一時間、ここまで移動するのに三時間といったところです」


 うわぁ……。


「ですが! そんなのを待っていたらすべてが手遅れになってしまいます! モンスターがこの森のどこかで発生しているのは事実。それを速やかに排除しなければ、私が光の勇者である意味はありません」


 改めてカレンさんが、改めて僕に向けて頭を下げた。


「教団に入ったばかりのハイネさんに、こんなことをさせるのはおかしいと充分に承知しています。でも、ここは何も言わず、私に力を貸してください!

「カレンさん……」

「この森には、まだモンスター発生を知らずに迷い込んでしまった人がいるかもしれない。そういう人を見つけて避難させるには、私ひとりじゃ絶対足りないんです!」


 僕らの周囲の森は、いまだ静謐で風に木の葉がそよぐ音ぐらいしかしない。

 しかしこの中に危険は既に潜んでいるのだ。


「…………」


 僕はくるりと踵を返した。


「二手に分かれて行動しましょう。逃げ遅れた人を探すなら、その方が効率いい」

「で、でも! もしハイネさんが単独行動中にモンスターと遭遇したら!」

「これでも猟師の息子です。初めて入る場所でも森なら庭みたいなものですよ。モンスター相手でも逃げ切って見せます」


 カレンさんを背にして駆け出していく僕だった。


「さて、モンスターか」


 実のところ、僕は過去モンスターと戦ったことがある。

 闇の神としてではなく、クロミヤ=ハイネとして生きている頃にだ。

 僕が生まれ育った村でもごくたまに、獣に混じって現れることがあり、そうした場合、退治するのは村の猟師である父さんと僕の仕事になるのだが、獣と違ってモンスターは殺すと雲散霧消してしまうため一文の得にもならない。

「出てくるだけ損にしかならない相手だ」と父さんに愚痴を言わせる稀有な厄介者、それがモンスターだった。


 人や獣や草木のように、神の恩寵を受けて生まれたものとは明らかに違う。

 って言うか僕、闇の神だった頃にモンスターなんて作った覚えがないんだが。

 作ったはずのないものが存在する。千六百年の空白に隠れた謎がまた一つ増えてしまった。


「まあ、それはともかく……」


 足を止め、カレンさんとの距離が充分に離れたのを確認してから呼吸を整え、意識を集中させる。

 こんな森の中だ、逃げ遅れが本当にいたとして、闇雲に探しても見つかるはずがない。

 我、闇の神の転生者。

 人の身に宿ったとしても、自在に振るうことのできる闇の神力で、人間が放つ『闇の波動』を感じ取る。

 さっきの属性の話で少し触れたが、人間とは創世の六人の神全員によって創造されたものだ。

 地水火風光闇。そのすべてが合わさっているために全部の属性を備え、人によって得意な属性や不得意な属性も出てくる。

 だから、人間の中には必ず闇の属性も含まれている。当人たちが気づいていないだけで。

 闇の神の転生者たる僕は、その部分を感じ取る。

 ……………………反応は、あった。


「……本当にいたのか逃げ遅れ!?」


 反応の合った方向へ、全力疾走する。

 すると程なく、木の幹に寄り掛かるようにして倒れている老婆と少女の二人。

 祖母と孫娘、と言ったところだろうか

 とにかく駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」


 お婆さんは、真っ赤に腫れた自分の足を痛そうにさすっていた。転んでくじいたのが一目でわかる。


「ああ……。アナタ、どなたですか? ここは危険なんです。モンスターが現れて……」

「わかっています。僕はその報を受けてやってきた光の教団の者です」


 って言っていいんだよな?


「ああ、よかった……! 孫を連れて山菜取りに森に入ったのですが……。まさかあんな恐ろしいものにであってしまうなんて……! 慌てて逃げようとしたら転んでしまって……!」


 動転しているのだろう。

 ありあわせの布などで応急処置を済ませてから、背中に背負う。


「おばあちゃん、おばあちゃん……!」

「キミも一緒に来て。このまま森の外へ出ます。できれば案内してくれると……」


 その時だった。

 静かにそよぐだけだった森の枝葉がバッと轟音をたて、多くの木の葉を舞い散らせながらヤツが姿を現した。

 ついに来たのだ。

 モンスターが。

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