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116 勇者一行

 数日後……。


「うわー! おっきいー!」


 私たちの目の前には大きな大樹が広がっていた。

『大きい樹』と書いて大樹に、さらに大きいと形容詞を掛けあわせたくなるほど大きい。

 それでもまだまだ遠方で、まず私たちの眼前には雄々しく連なる山脈が並んでいて、大樹はその山隔てた向こう側にチラリと頭を覗かせているだけ。

 つまり、あの大樹は山より高くそびえ立っているということだ。


「あれが地の教団が誇るという大樹『御柱様』……!!」


 ヨリシロ様のお許しが出て小型飛空機を飛ばすこと数日。こんなに遠出したことは初めてだ。

 本来ならモンスターから信徒を守るため、各教団の勇者は本拠地から動くことは許されない。

 しかしエーテリアル機械が発達し、徒歩数日の道のりを数時間で飛び回れる小型飛空機のおかげで私たちの行動範囲は劇的に広がり、多少の不在もお目こぼししてもらえるようになった。

 それでも今回のイシュタルブレスト行きは、小型飛空機をもってしても何日がかりの長旅。

 いくらなんでも許されない、というところを教主ヨリシロ様の特別な配慮と、ドラハさんという光都防衛のピンチヒッターがいてくれたことで、ここまで来れた。


「ササエちゃん! ここがアナタの故郷なんだね」

「もう勘弁してくれだす……! いっそ殺してほしいだす……!」


 何やらいきなりササエちゃんが最終ステージなのは、ここまで小型飛空機に乗ってきたせい。

 私の後ろに掴まって二ケツで来たササエちゃんだが、やはり小型飛空機の飛翔高度とスピードは、初めての人にはキツいらしい。

 距離が進むごとに反比例で体力消費しているササエちゃんのためにただ今休憩中なのだった。


「こげな恐ろしい乗り物があるなんて、都会恐ろしいだす……!! 行きは野宿を繰り返して一ヶ月かけた道のりを、たった何日かで戻ってくるなんて……!!」


 初めて会った頃のハイネさんを見ている気分だ。

 ハイネさんはすぐに慣れたけど、この子の場合はどうかな?



「まったく情けないことだな、勇者がこの程度で音を上げるなど」

「だよねー。でもまあ、このこと自体がアポロンシティで暴れたお仕置きになるからいいんじゃない?」


 と、同行するミラクちゃんシルティスちゃんが揃って言う。

 ……ちょっと待って。


「あの、もっと早くに聞くべきだったんだけど……」

「ん?」「何さ?」

「なんで二人まで一緒に来ているの?」


 火の勇者ミラクちゃんと水の勇者シルティスちゃん。

 他教団の勇者であるお二人は本来、この件には関わりない。それに彼女たちだって自分らの本拠の守りがあるから迂闊に遠出もできないはずだ。

 二人とも各自の教団カラーに塗られた小型飛空機に搭乗しているものの、仮にここで本拠にモンスター発生の報が来ても戻るまで何日もかかってしまう。


「何を言うのだカレン。オレたちはもはや仲間。どこへ行くにも一蓮托生だろう」

「アタシも、いずれ行われる全世界ライブツアー実現のために、五大都市は一通り見ときたいと思ってたのよ。光の教主さんのご厚意で、あの影っ子ちゃんにアタシらのシマも守ってもらえる話になってるしね」


 そういう取り決めに……。

 そんなに負担かけて大丈夫かなあドラハさん?

 大丈夫か、あの強さなら。


「それにカレン。我々他教団にとっても今回の事例は看過できないものだぞ」

「え?」

「この子がアポロンシティで暴れたことで、地の教団の特異性が浮き彫りになったからね。本来敵であるモンスターを自在に操るわ、神託で特定の人物の抹殺指令出すわ。しかもその理由が、相手が闇の神の化身だからって……」

「存在自体、半信半疑だった闇の神がこれでますます実在性を濃くしたしな。今世界で何が起ころうとしているのか。それを正しく把握することも教団にとっては必要だ」


 それで火と水の教団も、勇者派遣を認めたと?


「うう……、なんかオラたちが極悪人みたいだす」

「それをたしかめるために、これからアンタの本拠に乗り込むんでしょう? ま、安心なさいよ。アタシらはヒトん家で暴れたりしないから。アタシらは」


 シルティスちゃんがしつこくササエちゃんをいびってる。

 でも、よくよく考えると凄い光景だなあ。

 勇者四人で旅しているなんて、これから何を倒しに行くんだろう?


「でも、何を確かめるにしてもハイネさんが先行して調べているはずだから。合流を最優先しよう」

「でも……」


 その沈んだ声を発したのはササエちゃんだった。


「そのクロミヤ=ハイネは本当にいいヤツなんだすか? やっぱりオラ信じられないだす」


 この四人の中で唯一、直にハイネさんに会ったことのないササエちゃん。

 彼女が唯一もっているのは地母神マントルからの神託であるだけに不安げだ。しかもその討伐対象が、みずからの故郷に乗り込んだとあっては。


「大丈夫だよササエちゃん」


 私は優しく彼女の肩に手を置く。


「ハイネさんは誰より強くて賢くて優しいんだから、ササエちゃんもきっと好きになるよ」

「誰より強くて賢くて優しいのは、カレン姉ちゃんだすよー」


 不安に駆りたてられたのだろう、ササエちゃんは私に抱きついてきた。


「おーおー、光の大聖堂で助けられてこっち、ササエッちはカレンッちに懐きまくりですなあ」

「あの小娘の表面焙ったらダメかな」

「嫉妬するなよ火の勇者」


 こうして私たちは、互いの親睦を深め合いながら地都イシュタルブレストを目指した。

 そうして現地に到着し、私たちが見たものは。


『御柱様』を破壊しようとするハイネさんの姿だった。

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