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114 シャドウスキル

「そんな……! 『ゴーレムの坊や』が親より早く先立っちゃっただす……!?」


 そういう言い方やめて、心苦しくなるから。


「弱く小さなものから死んでいく。自然の理に適っている」


 ドラハさんもドライな言い方やめて!


「……許さないだす! それにその黒くて悪そうな戦い方。わかっただすよ! アンタさがクロミヤ=ハイネだすな!?」


 そう言ってドラハさんを指さす。


「? 何を言っている……?」

「皆まで言うなだすよ! 邪悪なる闇の神エントロピーの化身。ここで会ったが百年目だす! 事ここに至っては、全身全霊で地母神様からの使命を果たすだすよ!!」


 ササエちゃんが地鎌シーターを掲げる。

 その刃から放たれる黄金の光に反応し、その石突部分にくっついていた鎖が外れ、人型の形になる。

 あの鎖は元々、三体のうちの中型ゴーレムが変質したもの。


「ッ! 私が切断した両腕も復元されてる!?」


 たしかにゴーレムは、核が無事である限り何度でも再生可能なようだ。


「『ゴーレムのお父さん』『ゴーレムのお母さん』! 夫妻合体!!」


 何か物凄く問題のあるようなフレーズを口走るササエちゃん。

 その命令に従って、ゴーレム夫妻は互いの身体を合わさって、土くれとなって混ざり合う。

 足元の土をさらに取り込み。互いを掛け合わせたよりさらに大きくなり、雲を掴まんばかりの巨体となる。


「二つのゴーレムを掛け合わせて、ここまで巨大になるのか……!?」


 ミラクちゃんも驚きとともに見上げる。


「ゼェゼェ……! どっ、どうだすか!? ゴーレムは地の神力を注入することで、通常よりもより強力になるんだす! ちょっと負担が大きいだすが……。闇の化身クロミヤ=ハイネ! 観念するんだすよ!」


 だからあの人はドラハさんであってハイネさんでは……!

 そう指摘する余裕もない。あの合体超巨大ゴーレムは、ちょっと躓いて転んだだけでも光の大聖堂を崩壊させてしまいそうだ。


「闇の化身……」

「え?」

「……何故だろう。そう言われることに漠然と懐かしさを感じる」


 そんな巨人と相対しながらも、ドラハさんは微塵も動揺していない。

 その悠然さはそろそろ風格というべきものになってきた。


「私の心には何もない、過去もない。ただ私を拾ってくださったヨリシロ様の慈悲だけが我を満たすのみ。しかしそれでも失ったはずの何かを刺激する、いくつかの言葉がある」


 ……アレ? 何?

 何か急に周囲が暗くなった。太陽が雲に隠れたかと思って見上げてみても、今日は快晴で雲一つなかった。

 なのに暗くなっている。

 晴天が曇り空に、曇り空が夕暮れに目まぐるしく変わるかのように、どんどん暗くなっていく。


「汚らわしい四元素の神々。ヤツらの名は最たるもの。ヤツらの名を聞くたび理由のわからぬ怒りが込み上げる。ヤツらが私に敵対するというのなら。ワレもまた喜んで闇の神エントロピーとなり、望み通り、引き千切り殺してやろう」

「いけない!」

「えッ!? ……うわッ!?」


 ヨリシロ様の叫びと共に、私も驚いた。

 足元の地面が黒一色に染まっていたのだ。

 影が、地面を追うほどに広がっていた。

 さっきから周囲が暗くなっていたのは、ドラハさんが光を吸収していたからだ。

 光を吸収して影の力に変えていたのだ。


「何だす? 何そんなシリアスに……? ぎょえわッ!?」


 際限なく広がった影が盛り上がり、超巨大ゴーレムを飲んだ。

 相手は抵抗する暇もなかった。足から一気に胸辺りまで影に沈み、そのままズルズルと吸い込まれる。


「ひぃーーーーッ!? オラの必殺ゴーレムが!? ほぼ瞬殺!?」


 もうコアとかまったく関係なしに一切合財、塵も残さず消え去った。

 これでもう完全に、ササエちゃんは孤立無援。


「ワレは、闇の神エントロピーなり」


 あのセリフを唱えながらドラハさんは、ササエちゃんに迫る。


「助けてぇーーッ!? おばあちゃーーーんッ!!」


 ササエちゃんは完全に心折られていた。

 これはもう傍観している段階ではない。


「ドラハさん! 待って!」


 私は駆け出し、ドラハさんとササエちゃんの間に割って入った。

 背中をササエちゃんに、顔をドラハさんに向けて、立ちはだかる体勢。


「ふぇッ!?」

「ドラハさんもう勝負は着きました。ササエちゃんには抵抗する力も意志も残っていません!」


 というか確実にトラウマが残る段階に至っている。


「どうかもう許してあげてください! 必要以上の争いを避けることも勇者の務めです!」


 しかしどうやら私の声はドラハさんには届いていなかった。

 彼女の表面までさらなる漆黒に染まり、あの黒影へと変貌しそうになっている。


「ワレは、闇の神エントロピー……」

「はい、そこまで」


 そんなドラハさんを背後から、ヨリシロ様が抱き留めた。

 その大いに豊かなるお胸に、ドラハさんの後頭部が埋まる。


「あうー」

「だから言ったでしょう。アナタはまだ不安定だと。興奮すると影に囚われやすくなる傾向は、早めに対策を打たないといけませんね」


 ヨリシロ様に抱きしめられたことで、ビックリするほど簡単にドラハさんの暴走は止まった。

 その鬼気迫る表情はすぐさま氷解し、地を覆っていた影も縮小する。


「ふふ……、さすがですね我が勇者」

「え?」


 そうヨリシロ様から言われて、戸惑うしかない。

 凄いのはヨリシロ様の方だと思いますけど。こんなに簡単にドラハさんの暴走を止めるなんて。


「そちらの小さな勇者さんの危機に、一瞬も躊躇わずに飛び出したのはさすがです。アナタは既に、アナタの能力がドラハには完全に効かないとわかっているのに、それでも止まりませんでした」

「いえ、あの……」

「その行動こそ勇気より出でしもの。そして勇気あるからこそ勇者は、勇者と呼ばれるのです」


 そんなこと言われても……。

 何だか照れる。


「勇気は、もっとも広きに伝わる高潔さです。アナタの心が早速、一人の子どもに届いたようですね」

「えッ?」


 その時、突如として腰に重みを感じた。

 見下ろしてみると、背後から抱きしめてきたササエちゃんの姿が。


「うえぇぇ~~! 怖かっただす~~ッ!!」


 両腕を私の腰に回し、しっかりと抱きついてきた。余程怖い思いをしたのだろう。

 こうしてアポロンシティで起きた一連のゴーレム騒動は、収束したのだった。

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