109 傀儡回し
計三体。
私たちの目の前に、今まで見たこともないタイプのモンスターが現れた。
土くれの人形である点は皆同じだが……。
「『ゴーレムの坊や』!」
一番最初に現れた土人形。
今となってはもっとも小柄。しかしそれでも成人男性の背丈より余裕で大きい。
「『ゴーレムのお母さん』!」
その小柄のものを軽く越えた背丈の、しかし細身な土人形。
「そんで『ゴーレムのお父さん』!!」
最後に三体の中でもっとも大きく、体格までがっしりとした最重量型。
「『ゴーレム一家』!! 都会の怖い人たちさ蹴散らしてやるだす!!」
ササエちゃんの命令に従うように、土人形たちは私たちに向けて身構える。
その様子を見て、戸惑わずにはいられない。
「おい……! オレたちは夢でも見ているのか……!?」
「モンスターを操る勇者ってこと!? 何ソレわけわかんない!!」
ミラクちゃんやシルティスちゃんと同じ動揺が、私の中にもあった。
勇者は本来、モンスターを倒すための存在。
人を襲うモンスターと戦い、倒し、人々を守ることが勤め、存在意義と言ってもいい。
その勇者が、根本的な敵であるモンスターを使役するなんて。
しかも今の私たちには、そうやって取り乱していられる余裕なんてなかった。
今まさに、現れたモンスターが私たちに襲いかかってきたからだ。
「うわっ!?」
「とにかく応戦しろ! 周りにいる光騎士ども!! お前たちでは手に負えん、近づくなよ!!」
元々ここは極光騎士団の訓練場であったため、偶然か必然か多くの光騎士たちが居合せていた。
ミラクちゃんは彼らに指示を与え、混乱を未然に防いだのだ。
襲い掛かってくる土人形は三体
私たち側の勇者も三人。
数はちょうど同じだが、だからと言ってこの状況が好ましいとは全然思わない。
「ササエちゃん!!」
自然、一人につき一体の土人形を相手にすることが余儀なくされる。
私の担当は中型の細身人形。その手刀をかわしながら私はササエちゃんに訴えかける。
「これは何!? どういうこと!? 何故勇者がモンスターを自在に……!?」
「なんだすか? 都会っ子のクセにゴーレムを知らないだすか?」
ゴーレム!?
「ゴーレムは、地母神マントル様からのお恵みだす! 何でも助けてくれる人間の友だちだす! アンタたちみたいにオラのこと騙したりしない、信頼できるヤツらだす!!」
「うっ……!?」
その言葉が棘となって私の胸に突き刺さった。
力の限り弁解したいところだが、状況がそれを許してくれない。
「カレン!!」
同じく戦闘の最中にあるミラクちゃんが、私に背中を合わせてきた。
日頃から最強を自負しているミラクちゃんには、一番強そうな『お父さん』を担当してもらっている。
「まずいぞカレン! シルティスのヤツが押されている!」
「えっ!?」
見てみると、シルティスちゃんは三体の中では一番小さい『坊や』と戦っていたが、それでも戦況は不利だ。
「『水の怒り』!」
水絹モーセから放たれる水弾はゴーレムに直撃するものの、だからと言って何かしら効果があるわけでもなく、ゴーレムの固い体躯の前に虚しく飛沫となって散り、水は土に吸いこまれるだけ。
「『水の怒り』! 『水の怒り』! 『水の怒り』! ……ひぇ~、やっぱりまったく効かないぃ~~!?」
神気の相性で言えば、地は水にとって最悪の相手。
その法則はやはり絶対らしい。
「オレが援護する! カレン、前の二体を抑えてくれ!」
「了解!」
私とミラクちゃんは背中を合わせたままクルリと回る。
するとミラクちゃんの視線の先に小型ゴーレムとシルティスちゃん。私の面前に他ゴーレム二体と、上手い位置関係が出来上がった。
「『聖光斬』!」
「飛ぶ『フレイム・ナックル』!!」
力を抑えた『聖光斬』が、私の前方の二体――、ゴーレム夫妻をまとめて薙ぐ。それによって相手は、こちらの計算通りに動きを止めた。
一方、ミラクちゃんの炎拳バルバロッサから放たれた炎弾も小さなゴーレムに命中し、吹っ飛ばしてシルティスちゃんのピンチを救う。
「めんご! 助かった!」
小型ゴーレムをふっとばしてもらったことで距離を稼いだシルティスちゃん。守りを固めるために私たちの下へ駆け寄る。
「本当にお前は役に立たんな! 相性ぐらい克服できんのか!?」
「うっさい! その言葉、大海竜戦のアンタにそっくりそのまま返してやるわ!」
ミラクちゃんにとってはあの際の仕返しの意図が多分にあるんだろう。
あの時シルティスちゃんから言われ放題だったし……。
「とにかく相性ならアレよ。こっちも地に強い属性をぶつけてやればいいのよ! 何だっけ!?」
「風属性だな! いないな!!」
土を乾かし、砂と朽ちさせる風属性こそ地の勇者及び地のモンスター双方の天敵。
しかしその属性を持つお方は、私たちの中にはいらっしゃいません!
「あーもー! 何でアタシたちは順調に頭数揃えながらピンポイントに有効属性持ちがいないのよ!? あのチビだって大海竜の時にいれば随分助かったのに!」
今は敵対中のササエちゃんのことを言っているのか。
「うるさいな! お前だって炎牛ファラリス戦の時にいれば大活躍だったんだよアイドル!」
そしてミラクちゃんが噛みつき返す。
でも違う。
たしかに今の状況は破壊的だが、もっと目を向けるべき事実がある。
「ササエちゃん!」
ゴーレムたちの向こうにいる、あの子の名を呼んだ。




