10 勇者出動
「ん? 属性値の上限か? 大体行って400だな」
「ウソ!? じゃあオレの風属性309ってホントに高いんじゃね!? クッソ―、風の教団に行っておけばーー!!」
「だがな、何事にも例外は存在する。たとえばそう、我らが光の勇者カレン様だ」
カレン。
僕を光の教団にいざなった張本人というべき少女。
入団試験の際別れてきりだが、何をしているのだろうか?
「聞いて驚け。カレン様の光属性値は、約700だそうだ」
「ななひゃくッッ!?」
400が上限と言われている属性値が700!?
バカな、そんなに属性が偏ったら生命活動に支障が出るレベルだぞ。僕みたいに神の魂が宿っているならともかく。
「教団内でもな、ややこしい儀式で一週間ぐらいかければ詳しく属性値が計れる。カレン様は、その強い属性値ゆえに光の勇者に選ばれたのだ。そしてオレ様ら騎士団の仕事は勇者様のサポートってわけよ!!」
なるほど。つまり勇者というのは騎士団の中で一番強い者ということか。
数値にして700もの光属性への適性があれば、他の追随など受けまい。
その勇者を中心にした戦闘集団。それが極光騎士団。
でも、戦闘集団ということは当然何かと戦うわけだよな?
何を相手に戦うんだろう……、と考えていた矢先、
「こんなところにいたんですね……!」
「ん? ……えッ!?」
気づいたら目の前に白い甲冑に身を包んだ美少女が立っていた。
「勇者様!?」「勇者カレン様!?」
グレーツ隊長もフラストも、予想だにしない勇者登場に目を見開く。
「グレーツ中隊長もいたんですか。……私言いましたよね? ハイネさんは即戦力になるから、属性に関わらず通しておくようにって。それが何で厨房の雑用なんかしてるんです!?」
「イヤ、あのあの……! 一応仕事なんで。オレ様だって何でもできるわけじゃないんで……!」
「『厨房の雑用なんか』とか言わないでください! レジーネ姐さんが聞いたら血を見ます!」
二人ともビビりまくり。
「カレンさん? 何故こんなところに?」
「アナタを探しに来たに決まってるでしょう! 緊急事態です! 早速ですがハイネさんの力が必要になりました!」
カレンさんは僕の手を取ると、強引に引っ張る。
「グレーツ中隊長も早く詰め所に戻って騎士たちを指揮してください! 私はハイネさんと一緒に先行します! 騎士団長にそう伝えておいてください、ついでに!!」
「は!?」
何が何やらわからないうちに、僕はカレンさんに引っ張られて場所移動。
そして行き着いた先には、なんかよくわからないものが置いてあった。
「……あの、何ですコレ?」
「エーテリアル動力のバイクタイプ小型飛空機です」
「?」
「フラップター社製で一人乗りですが、その分スピードが出ます。特にこの子は私専用にチューンしてもらってますからトップスピードは店頭モデルの一.三七倍。カタログスペックですけど」
「??????」
彼女が何を言っているのか僕にはまったくわからない。
僕の目の前にあるのは、街中で見たエーテリアル車とか、グレーツ中隊長の持っていた属性計測器と同じ、機械の一種かと思われる。
何というか揺り籠を流線形にした感じで、何かとても速そうだ。そして左右の両端から翼が出ていて、なんか飛びそうだ。あと人が乗れそうだ。
「二人乗りは推奨されてませんが、この際仕方ありません。ハイネさん、私の後ろに掴まってください」
言いながらカレンさんは、小型飛空機とやらにまたがる。さながら馬にでも乗るかのように。
「さあ! ハイネさんも!」
「は、はい……!?」
カレンさんに倣って、僕も小型飛空機の後ろの方にまたがり、彼女の体に両手を回す。
だって彼女がそうしろって言うんだもん。有無を言わせない雰囲気あるし。
「もっと力を込めて! 振り落とされますよ!」
「え、こう……!?」
「……おっぱいを掴めとは言ってません」
「すみませんっ!?」
何となく、先の展開が読めてきた。
「発進します! 全速力で行きますよ!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーッ!?」
僕たちの乗る小型飛空機は、本当に飛んだ。
しかも物凄いスピードで。空気が凄まじい密度でぶつかってきて、たしかに振り落とされそうになる。
「か、カレンさん! カレンさーーーんッ!!」
「何ですか!? 喋ってると舌噛みますよ!?」
「あの僕、まったく状況が飲み込めないんですけど!? というかどこに向かってるんですか空飛んでまで!?」
大聖堂はもはや遥か後方。
小型飛空機を駆るカレンさんは、こちらを振り向かずに言う。
「だから緊急事態です! ヤツらが現れたんですよ!」
「ヤツら……!?」
「私たち極光騎士団の敵。そして私たち人間の脅威。……モンスターです!」




