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107 凶神託

 一瞬、耳を疑った。


「えっ? あの……、すみませんもう一度……?」

「だすから、邪悪な闇の神エントロピーの化身、クロミヤ=ハイネを抹消せよ! と地母神様からの神託を預かったんだす!」


 やはり聞き間違いではなかった。

 それでも到底理解することはできなかった。

 今日初めて会ったササエちゃんの口から出た名の、なんと聞き慣れたことか。


「…………!?」


 振り向くと、ミラクちゃんシルティスちゃんも、困惑の表情をしていた。


「どういうことだ?」

「わからない。まずはもっとその子から詳しい話を聞きだすべきでしょう」


 シルティスちゃんの言う通りだ。

 私たちは今しばらく、ササエちゃんの話に耳を傾けることにした。


「んだば、お話します。オラ教主様に呼ばれて、言われたんだす」


 ササエちゃんから聞いた話を要約すると。

 その日、地の教団教主様は地母神マントル様からの神託を受けたらしい。

 そしてその神託こそ闇の神エントロピー、そしてハイネさんを抹殺せよという指令だった。


「神託によりますれば、エントロピーは何とも危険な恐ろしい神なんだそうだす。そしてその神は今、一人の人間に化けて世界に紛れ込んでいるそうなんだす」


 それを放置しておけば、必ずや世界の災いになるだろう。

 そう言って地母神は、教主を通じてササエちゃんに、闇の神エントロピーであるところのハイネさんを討伐せよとの指令を出した。


「そこでオラは、大任を背負ってイシュタルブレストを旅立ったのだす! クロミヤ=ハイネという人は、アポロンシティにいると神託にあったので、まっすぐここさ目指しましただす!」


 ササエちゃんは雄弁と語る。


「外の人さ会うのは怖かったんで、人里は徹底的に避けましだす! 道なき道を進み、木の皮を剥ぎ、草を煮て食べ、苦節一ヶ月してようやくアポロンシティさ辿りつけただす!」

「なんという野生児……!」

「そうまでして人を避ける意味あるの……!?」


 ササエちゃんの旅路の過酷さにミラクちゃんもシルティスちゃんも絶句する。

 しかし私は、それどころじゃなかった。


「ようやく目的地さ着いて、そっからどうやってクロミヤ=ハイネさ探そうかと途方に暮れとったところだすよ。でも、よかっただす。こんな親切な人たちに出会えて、よかったら手伝って……」

「ウソです!!」


 私の出した大声に、ササエちゃんはビクリと身をすくませる。


「アナタが言ったことは全部ウソです! エントロピー様が邪悪な神なんて! ハイネさんが悪いことを企んでいるなんて! デタラメに決まっています! アナタはそんな世迷言を広めるために、わざわざイシュタルブレストから来たんですか!? そんなの迷惑すぎます!」

「待てカレン! 落ち着け……!」


 ミラクちゃんに抑えられてようやく言葉が途切れる。

 しかしその時には当然のように、ササエちゃんの表情は凍り付いていた。


「ちょっカレンッち、初対面の子にいきなり取り乱さないでよ。まあアンタの気持ちもわからないでもないけどさ」

「ごめんなさい……! でも、ハイネさんが世界の敵なんて、そんなこと絶対にないよ。ミラクちゃんもシルティスちゃんもわかるでしょう?」


 二人は実際のハイネさんを知っている。

 あの人がいかにして多くの人々を守り救ってきたか、わかっているはずだ。


「安心しろカレン。オレたちだって、まさかアイツがそんな悪者だと思いはしない」

「そうよねー、アタシだって一応勇者として、人を見る目にはそこそこ自信あるつもりだしね。多少サドッ気はあるけどハイネッちは基本善人でしょう」


 二人の言葉に少しだけ安心できて、落ち着きを取り戻す。


「しかし、ならば何故地の教団に、そんな神託が下されたのか? ということが問題だ」

「そうよね、闇の神エントロピーの名が出ている以上、神託を騙ったデタラメだとは到底思えないし……。ハイネッちが闇の神の化身とか言う壮大なツッコミどころは置くとしても……」


 神託は、五大教団を神聖たらしめる核というべき要素だ。

 神の言葉が直接人へと伝えられる。それを受け取ることができるのは各教団の教主のみ。

 神託が伝えられえる手段は各教団で様々らしいが、その内容も様々。

 未来を言い当てたり、人間にはどうしようもできない災害の対処法や、戦争では敵軍の弱点まで教えることもあったという。

 歴史の前期、五大教団が勢力を拡大できた理由は神託によって情報を制することができたから。それゆえに教団にとって、神との直接の繋がりを証明できるという点から見ても、神託は絶対的なものだった。


「でもさあ、もし地の教団に下された神託が事実だとして、気になることがあるのよね」

「それは?」


 シルティスちゃんが何かに気づいたらしい。私はそれに縋るように尋ねる。


「神託が言うように、ハイネッちが世界に危険極まりない存在だとしてよ。じゃあなんでその危険性を警告するのがマントルだけなの?」

「あっ?」

「世界を窮地に陥れるほど邪悪な存在なら、他の神様たちだって警告を下してしかるべきだわ。でも、少なくともアタシの水の教団には、そんな神託入ったって話はまったく聞かない。アンタたちはどう?」


 シルティスちゃんの視線が、私とミラクちゃんの交互に配られる。


「オレも聞かんな。教主の性格上、隠し事をするとも思えんし」

「ウチの光の教団だって! ヨリシロ様は、思わせぶりなことをよく言う人だけど……。でもハイネさんに関することだけはウソ偽りなんかない!」


 で、ですよねヨリシロ様?


「だとすると、やっぱり地の教団のみに神託があったのはおかしいってことになる。……ねえササエちゃん? もう少し詳しく話を聞かせてくれない? まずは、その神託があったのは具体的にいつ頃……?」


 シルティスちゃんが話を振って、その時点で違和感に気が付いた。

 ササエちゃんの発する空気が、それまでとはまったく色を変えている。


「……ウソつきだす」

「え?」

「やっぱり都会モンはウソつきだす! 優しい言葉ですり寄って。信じられる人だと思ったから教主様からのお話を教えてあげたのに、オラのことさウソつき呼ばわりするなんて!! やっぱり都会モンは怖いだす! 信じられねえだす!! こんなとこもういたくねえ!!」


 そう言って駆け出し、タックルするようにドアを押しのけ出ていくササエちゃん。


「ササエちゃん!?」

「しまった! 追うぞ!!」

「それしかないわね、まったくもう!!」


 私とミラクちゃんとシルティスちゃん、それぞれ同時にササエちゃんの後を追った。

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