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106 頑固者

「地母神の……、神託?」


 ササエちゃんが口を滑らせたフレーズに、私の興味が引き寄せられる。


「アナタは、それが理由でアポロンシティに来たんですか? 地母神様は、アナタに何をやらせようとしているの?」

「ふっふっふ。それはだすなー。地の勇者だけが成し遂げられる重要任務だす」


 なんか自慢げに語り出した。

 口元にケーキのクリームをつけたままで。可愛い。


「そう、アレはいつも通りの朝。雄鶏のハナコの鳴き声で目が覚めて、畑仕事に向かおうとしていた時のことだす。随分雑草が茂ってきたから、そろそろ草刈りでもしようと思ってただすよ」

「かなり最初の方から語り出したわね……」


 横で聞いているシルティスちゃんが、もどかしそうに髪の毛を弄り出した。


「そもそも我ら地の教団は、自然と共に生きることをモットーにするだす! 地を耕し、地の上で寝起きする。それが人間にとってもっとも基本的で、幸多き生き方だと地母神様は言われているだす!」

「さらに根本的なところに戻ったぞ!?」


 しかしそのアホ可愛さに益々メロメロになるミラクちゃん。


「だから、地の勇者であるオラも畑仕事は欠かしちゃいけないんだす! 一振り一振り、クワを振り下ろすたびに地母神へ感謝して、畑さ労わり整えてやれば、地に実る作物としてお返しは現れるんだす!」

「あ、あの、それはわかったから、地母神様がアナタに与えたっていう神託を……」

「そうだっただすな! オラは教主様に呼ばれて野良仕事着のまま地の大紅宮へ出頭しただすよ! そこで言われたことは…………!」

「……?」


 あれ?

 肝心なところでこの娘止まった。


「……ッ! 危ねえ! 危うく誘導尋問さ引っかかるところだったよ! 都会の人はホントに人を騙すのが巧みだすよ! でも大丈夫! オラ大事なことは一言も漏らさないだす!」


 気付いてしまったか……!

 でも私たち誘導らしいことは一つもしていないんだけど。手強いこの田舎っ子。なんでもベラベラ漏らすクセに、本当に聞きたいところは狙いすましたようにガードが堅い。


「……そうは言うけどね、アンタ」


 ここでついに痺れを切らしたシルティスちゃんが話に加わった。


「地の勇者であるアンタが、他の教団の本拠地に足を踏み入れてる。無断で。その重大さがわかっているの? 勇者というのは基本的に教団の顔で、かつ最高武力。剣の切っ先のようなものよ。それが勝手に相手のテリトリーに入ってきたら最悪、宣戦布告と受け取られても仕方ないわ」


 そう言われると、私ってとんでもないことしてきたのかなー? と過去の我が所業を振り返って思う光の勇者カレンです。


「しかもアンタは、街中でちょっとした騒ぎまで引き起こしている。敵意がないと弁明するためにも、何しにここまで来たか理由を説明する必要はあるんじゃない? ……もっとも、本当にケンカ売りに来たんなら何も言うことはないだろうけれど」

「そういうおめえ様は、どちらさんだすか?」


 ここまで剣呑な物言いで凄まれても、ササエちゃんはマイペース。


「ぐっ。……仕方ないわね。さすがのアイドル、シルたんでもド田舎まで人気は浸透していないか。……いいわ名乗ってあげる。アタシは水の勇者シルティス。ついでに言うとそっちの筋肉レズが火の勇者ミラクよ」

「ことのついでにオレのこと物凄く罵倒しなかった?」


 ミラクちゃんの苦情を誰もが無視した。


「ほへー、じゃあ、皆さん全員勇者なんだすか? オラ、よそ様の勇者を見たの初めてだすよ」

「アタシも初見で驚いてるわよ。地の勇者がこんなに会話に難儀するロリッ娘だとはね」


 シルティスちゃん、冷静さを失わないでね。

 相手はまだ子供なんだから。


「でもでも、ここは光の教団さんの街なんだすな? 何で水の勇者さんと火の勇者さんがいるんだす?」

「ぬぐッ!?」

「オラもここじゃよそ者だけど、水も火も同じじゃないだすか。何故いるんだす? ケンカしに来ただすか?」


 ササエちゃんって、話を理解していないようで鋭いところを突いてくるなあ。


「その点は、オレが説明してやろう」


 とミラクちゃんがバトンタッチ。


「オレとシルティスの二人は、光の勇者であるカレンから招かれて来ているのだ。だからまったく問題ない」

「ごしょーたいされたんだすか!?」

「その通りだ。我々三人は、色々あったのだが今は協力関係を結び、非常に仲良しなのだ。なので相手のテリトリーにお邪魔してもケンカにはならないのだ!」

「凄いだす! 感動的だす! 勇者ってお友だち同士になれるんだすか!?」

「もちろんだとも、お前にもその気があるなら、地の勇者として喜んで我ら勇者同盟の仲間に加えよう!」

「マジだすか!? 勇者同盟よくわからないけど響きからしてカッケーだす! 是非ともお仲間に加えてほしいだす!!」

「よかろう、来る者は拒まず!!」


 こうしてササエちゃんは私たちのお仲間となった。

 ……ん?


「それなら、お友だちに隠し事をしてはいかんだすな! オラが何故ここへ来たのか、お話するだす!!」


 えぇー?

 これまで聞き出すのに相当苦労しながら、それでも聞き出せなかったところを、こうもアッサリ?

 ミラクちゃんが私たちの方を振り返ってグッと親指を立てる。

 自慢気なのも無理はない。私がさっき話題にした勇者同盟までことのついでに進めたわけだし。


「ミラクっちが何、見事に状況を打開しているのよ? キモい」

「手柄を立てたのにこの仕打ち!?」


 シルティスちゃんもそろそろやさぐれるのやめませんか?


「では、よそ様の勇者の皆々様! 改めまして地の勇者ゴンベエ=ササエと申しますだす! 若輩者ながらよろしくお願いいたしますだ!」

「おう、困ったことがあれば何でも相談するがよいぞ!」

「はあ……、仕方ないわね。可愛い子だから大歓迎しますか」


 ミラクちゃんもシルティスちゃんも、急転直下のこの状況を受け入れた。

 そして私は……。


「ササエちゃん。私からも改めまして、このアポロンシティを守る光の勇者コーリーン=カレンです」

「はいなす! 光の勇者さんは凄い別嬪さんだすな!」


 軽い握手を交わす。


「それで、最初の話題に戻りますがササエちゃんはどうしてアポロンシティへ来たんです? 地の教団から光の教団に、何か伝えることでもあるんですか?」

「そうだす! こうなったらカレンさぁにも是非ともご協力お願いしたいだす! 地母神様から頂いた使命の遂行を!」


 そしてササエちゃんは、アポロンシティへ来た目的を明かした。


「邪悪なる闇の神エントロピーの化身、クロミヤ=ハイネを討伐するんだす!」

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