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105 小さき勇者

※地鎌と書いて「ちれん」と読みます。

それでは本編をお楽しみに下さい。

 地の勇者ゴンベエ=ササエ。


 女の子はたしかにそう名乗った。

 創世の五大神、地母神マントル様を崇拝する地の教団を代表する勇者。はるか遠き地都イシュタルブレストにいるはずの地の勇者が、何故ここに?


「間違いないわ」


 私は、彼女が携帯していた大鎌と、本に載ってある挿絵を見比べながら言った。


「この大鎌は、地鎌シーター。地の教団が所有する神具で、最上位に位置するもの」


 私の聖剣サンジョルジュ。ミラクちゃんの炎拳バルバロッサ。シルティスちゃんの水絹モーセに並ぶ代物だ。

 この光の大図書館から借りてきた『遥かなる秘境、イシュタルブレストの謎に迫る~温泉編~』に書いてあることだから間違いない。


「それほどのものを下賜される、という者であれば、たしかに地の勇者以外にありえないが……!」


 私とミラクちゃん、それにシルティスちゃんが揃って注目する。

 不審人物として街中から連行してきた、小さな女の子に。


「うめうめうめうめうめうめうめうめ……。うめえだす」


 ここは、元々私たちがお茶会をしていた光の大聖堂の談話室。

 一応、アポロンシティの街中での騒ぎを収めた私たちは、その騒ぎの中心にいたこの子――、ゴンベエ=ササエちゃんをそのままにするわけにもいかず、ここまで連れてきた。

 他のエリアを探索していたベサージュ小隊長などにも連絡を入れ、不審者騒ぎそのものは一件落着している。

 ただ単に事件が次の段階に進んだとも言えなくはないが。

 元々女の子たちの駄弁り場としてスタートしたこの場所は、一度私たちが出かけて戻ってもまだその雰囲気を保持していて。お茶請けに用意されていたケーキやらシュークリームもそのまま残っていたため、新たにお招きしたササエちゃんに提供してみたところ、暴食している。


 まず標的に決めたケーキを両手でもって、しっかりと口に運び。

 はむはむはむはむはむはむはむはむはむはむはむはむ…………。

 両の頬袋を一杯にしてから、ごっくん。

 はむはむはむはむはむはむはむはむはむはむはむはむ…………。

 両の頬袋を一杯にしてから、ごっくん。

 何この可愛い生き物。可愛すぎてもっとたくさんエサを与えたくなる。


「はぁ~、可愛いなぁ。可愛すぎて天地が裂けそうだなぁ……!」


 そして少女の可愛さに精神殺されてる人が約一名。

 ミラクちゃんは昔から庇護欲掻き立ててくる手合いに弱いからなあ。子供の頃の病気がちだった私とか。


「ホラホラ、あまり急いで食べると喉につかえるぞ? ここはお茶を飲んで、一息ついてだな……」

「ごめんなす。ちょうど口の中が乾いてきたところなんなす。……ずずっ。あっづい!?」

「ああっ!? ゴメンな猫舌だったんだな!? よし冷ましてやるぞ。ふーっ、ふーっ」


 ダメだ、あのミラクちゃん。早く何とかしないと。

 でも面倒くさいから何ともしない。


「でも何故、地の勇者がアポロンシティに? 地の教団本部のあるイシュタルブレストは、ここから徒歩で何ヶ月もかかるぐらい遠いんでしょう? やっぱり何かの間違いなんじゃ……」

「いいえ、間違いなくこの子は地の勇者よ」


 隣に立つシルティスちゃんが深刻そうな表情をしていた。


「コイツは、アタシの『水牢縛』を一撃で破った。そんなことができるのは地の神力だけよ。神力の相性において、水を制するのは地。大地は無限に水を吸い、その内に飲み込んでしまう」


 先ほどの街中での攻防のことを言っているのか。

 たしかに私たち三人の中でもっとも早く攻め込んだシルティスちゃんの技が、あの大鎌によって容易く砕かれたのは衝撃だった。


「なんだ? ん? お前ひょっとして悔しいのか?」


 とミラクちゃんが、思いっきりイヤミな表情でシルティスちゃんにすり寄る。


「そうだなあ、水属性では地属性にはまったく歯が立たんからなあ。まあ、神力の相性上役立たずになってしまう場合は往々にしてあるからな? 今回お前は相性に恵まれませんでした戦力外! ってことを噛みしめるがいいさ」

「ああもうウザいな! アンタ、ウザい!!」


 ここぞとばかりにシルティスちゃんを弄り倒すミラクちゃん。

 もしかして、こないだの大海竜との戦いの時。火と水で相性が悪かったのを、ずっと気にしていたのかな?


「それよりも、問題はこの子よ!」


 私たちのゴタゴタも気にせず、一心不乱にはむはむし続ける少女をシルティスちゃんがズビシと指さす。


「地の勇者が、自分の本拠から遠く離れた場所で、何をしようとしているの!? しかもここは光の教団のシマなのよ! ヘタしたら外交問題に発展しかねないっていうのに。しっかり腹の内を明かしてもらわないと解放できないわ!」

「……んだす?」


 凄まれたササエちゃんは、一瞬目をぱちくりさせていたが、すぐに何か思い出した表情になり……。


「しまっただすーーーーーーーーーーーーーーーッッ!?」


 と絶叫した。

 今度は何?


「教主様から『知らない人について行ってはダメだぞ』って言われてたのに、まんまとついて来てしまっただすーーーッ!? ヤバイだす! ゆーかいされて、身代金をよーきゅーされてしまうだすよーーーッ!?」


 ええッ!? 今更そこ!?


「だ、大丈夫だよササエちゃん。私も勇者で、ここアポロンシティで光の勇者をやっています、コーリーン=カレンと申します。決して怪しい者ではないから……」

「しかも、出された食い物をしこたま食っちまっただぁーーッ!! きっとあとでほーがいな代金を請求されて、払えないとわかったら急に態度が豹変し、『だっから体で払ってもらうしかないなあお嬢ちゃん』とか言って売り飛ばされちまうだぁーーッ!?」

「ないない」


 困ったな。この子ナチュラルにヒトの話を聞かないタイプだ。


「あのねササエちゃん? 大丈夫。私たちは怖い人ではないから。ただアナタから話を聞きたいだけなの」

「ウソだす!! 都会の人はウソつきだって教主様や神官様たちが言ってただす!! オラのこと田舎者だって、簡単に騙せると思っとるだすよ!!」

「そんなことは……。ただ聞きたいことが……」

「聞きたいことって何だすか!? あんしょーばんごーなんて絶対言わないだすよ!!」


 暗証番号って何?

 まったく話が通じないな、この子。田舎コンプレックスとでも言うのだろうか、そのせいで頑なになって、都会に関わるすべてが魑魅魍魎の類かと思い込んでいるようだ。


「とにかく都会は怖いんだす! 田舎者が生き抜くには過酷すぎる環境なんだす! でもオラは地母神様から与えられた神託を果たすため、一心不乱に気張るんだすよ!!」

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