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103 勇者同盟

「シルティスちゃん、それもちょっと話の本題から離れているよ」

「ああ、アンタもうアタシ相手に敬語で通す気ないのね? まあその方がダチっぽくてアタシも嬉しいけど……」


 シルティスちゃんは、時折こっちの方が照れるようなことをサラッと言ってくる。


「くそっ……! これまでカレンとタメ口で話せるのはオレだけだったのに……!?」

「アンタその辺にしておかないとレズ呼ばわりするわよ?」


 ともかく私は、私たちは、マザーモンスターを倒しに行ったハイネさんのお手伝いがしたいのだ。

 なのにハイネさんがどこへ行ったのか知らない。それが問題。

 こんなことなら、さっきヨリシロ様がいらっしゃった時に思い切って聞いてみればよかった。


「カレンッちもさあ。そんなに気負わないで今回は諦めといたら? 別に今回限りが機会じゃないんだし」

「そうだぞカレン。勇者の本分は人々を守ること。お前がアポロンシティを固めているおかげで、ハイネも心配なく遠出ができると思えばいいじゃないか」

「アンタの今のセリフ、録音して火の教団の方々に聞かせてやりたいわ」


 二人とも優しい。

 そうだな。どうせそう何日もしないうちにハイネさんは帰ってくるんだから。

 だったら私は貞淑な妻のごとく夫の留守を守って、他のやるべきことを進めよう。


「それでね、実はもう一つ二人に相談したいことがあるんだけど……」

「ふむ?」「何よ?」


 二人とも普通に聞いてくれる体勢に入る。優しい。


「勇者同盟を作りたいの!」


 二人の反応は一様だった。


「勇者同盟?」「何それ?」


 と意味を呑み込めていない感じ。


「あのね、これまで勇者たちはバラバラに活動していたでしょう? それぞれの母体である教団の利害を背負って、時にはいがみ合ったりもした。でもここ最近、色々なことがあって和解が進んでいるでしょう?」

「それって、大体特定一人の仕業によるものだがな」

「そういやアタシもなし崩しで仲良くなっちゃってるわ」


 こうやってお茶しながら話し合えているのも、一種の進歩の表れだし。それをさらに進めて……。


「この機に、勇者たちの協力の輪を全体に広げていきたいの。つまり私たち光、火、水に、残り地と風の勇者を加えた五人の勇者の協力体制を作りたい!」


 それが勇者同盟。

 これからハイネさんの計画を手伝ってマザーモンスターを倒していくにしても、味方は多い方がいい。

 五人いる勇者の中で半数以上が集った今、完全な共同体を作るのに今が絶好のチャンスと言える。


「なるほどな、カレンの望むことなら、オレに否やはない」

「いいんじゃないの。それでもしマザーモンスターとやらを倒せるところまで行けば、アタシら間違いなく歴史に名を残す勇者になるしね。その準備段階として味方を増やすってのもいいんじゃない? 成果は欲しいけどリスクは嫌」


 おお、二人とも思ったより前向き!


「じゃあ、早速地の勇者と風の勇者に連絡を取りたいんだけど……! ミラクちゃん、シルティスちゃん、その人たちに会ったことある!?」

「ない」

「ないわね」


 うーわー。

 いきなり暗礁に乗り出した。


「誰も地と風の勇者に会ったことないのー?」

「その口ぶりだとカレンッちも面識ないのね。でも仕方ないんじゃない? まず地の教団本部があるイシュタルブレストは滅茶苦茶遠くて鎖国状態が自然形成されてる。教団自体にもう何年と交渉がないらしいし」

「風の教団本部、風都ルドラステイツに至っては、何処にあるかすらもわからん」


 シルティスちゃんとミラクちゃんの説明通りだった。

 特に風の教団は密教で、その活動を厳格に秘密にしている。そういう教義なのだ。そのため本部のあるルドラステイツの場所も明かされず、過去その秘密を暴こうとして非業の死を遂げた人もいるとかいないとか、そんな怖い伝説まである。

 その風都を守る風の勇者も、長く秘密に包まれているのだった。


「風はともかく、地の勇者なら長い道のりを踏破する覚悟で行けば会えないこともないが、たとえ小型飛空機でも数日がかりの旅になるぞ」

「完全にアウトね。そんなに遠くに離れたら、各々の本拠地で大きなモンスター災害が起きた場合、即応できないわ。小型飛空機のおかげでアタシら勇者も結構行動の自由を得られたけど、それにも限度があるってことね」


 うへー、と唸って私はテーブルに突っ伏した。

 何よ、今日は考えること片っ端から暗礁に乗り上げてるじゃない。

 ハイネさんはどこに行ったかわからないから追いかけようがないし、地の勇者と風の勇者にも会えそうにない。


「あっ、そうだ。別に三人全員で行くことないんじゃないかな? 誰か一人がイシュタルブレストに行ってる間、他の二人に本拠の守りを肩代わりしてもらうってのは……?」

「さすがに教団が許さないでしょう。何度も言うけど、勇者の本分は自分の本拠を守ることなんだから」


 うへー、とまた唸った。

 万策尽きたか。もう今日はこの三人でケーキをヤケ食いする会で終わらせてしまおうかと思った矢先。

 私たちのくつろぐ談話室をトントン、とノックする音が鳴った。


「失礼いたします。勇者カレン様がこちらへいらっしゃると聞きまして……」


 入室してきたのはベサージュ小隊長だった。

 我が光の教団が擁する極光騎士団の光騎士で、小隊長だからそこそこ偉い。


「ん? 誰だ?」「もしかして光の教団の光騎士ってヤツ?」


 ミラクちゃんとシルティスちゃんが、ベサージュ小隊長に興味を示した。

 ここはやっぱり紹介しておかなくちゃだね。


「この方は、極光騎士団のメンバーでベサージュ小隊長だよ。それでベサージュ小隊長、こちらは知ってますかね? 火の勇者カタク=ミラクさんと、水の勇者…………」

「シルたぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんッッ!?」


 えっ? 何!?

 ベサージュ小隊長が、シルティスちゃんを見るなり膝から崩れ落ちた!?


「えっ!? 何よコレ!? 出オチのリアクション芸!?」


 さすがにシルティスちゃんも困惑気味だ。


「ああ、アレじゃないか? ハイネがこないだ一緒したとかいうアイドル狩りの指揮官。それがコイツ」


 ミラクちゃんの指摘に、そう言えばそうだったかも、と思う。


「シルティスのアイドル布教を抑えるために、光都内に入り込むアイドルグッズを片っ端から押収していく。それらに触れていくうちにだんだんと感化して、気づいたら自分自身もシルティスファンになっていたと。ミイラ取りがミイラに……、というヤツだな」

「なんだー、アタシのファンならそう言ってよー。水都の外でファンに出会えるなんて意外で超嬉しいから、奮発してサイン書いちゃおうかなー?」

「やめろぉ、私を惑わすなぁ! でも本当にありがとうございます! ありがとうございます! まさか用意していた額縁が役に立つ日が来るなんて!!」


 ……ベサージュ小隊長ってこんな人だったっけ?

 まあいいや。人には誰しも意外な一面があるよね。


「それでベサージュ小隊長。何か御用ですか? まさかモンスターが現れたとか?」

「うわーん! 我は家宝を得た! 小隊長に昇格した時より嬉しい!! ……じゃなく、失礼しましたカレン様。大した用ではないのですが、ハイネ補佐役を探しておりまして。直接の上司であるカレン様なら知っているかなと」


 ……ハイネさんも結構人気者になってきたなあ。

 でも残念。ハイネさんは不在なのです。ぷんぷん。


「あの、ハイネさんに何か? 生憎席を外していて、私でよければ代わりに伺いますが?」

「勇者様の手を煩わせるなどとんでもない! ……ただ、光都内で不審な人物の目撃情報が相次いでいて、その探索に是非ともハイネ補佐役の手をお借りしたいと」

「不審な人物?」

「はい、報告によると『自分の身長よりずっと長い大鎌を担いだ少女が街を練り歩いている』と……」


 それは不審人物だ。

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