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101 もしも

「「マザーモンスター?」」


 私が、腹に溜めこんでいたことすべて吐き出すと、ミラクちゃんもシルティスさんも一様に、表情に困惑の色を浮かべた。

「信じられない」と、そう言わんばかりだ。


「何それマジ? もしその話が本当だとしたら凄すぎるじゃん……!?」

「マザーモンスターというものが本当にいればだろう。ソイツらさえ倒せば、金輪際モンスターは生まれなくなる、ということではないか……!?」


 そう、それは、私たち人間を百年近く悩ませてきたモンスターの害を完全に取り除けるということだった。

 私たちのハイネさんは、それを討伐するために出かけてしまった。私を残し、たった一人で。


「はーっ、凄いヤツだとは思ってたけど想像以上だねハイネッちは。そんなものの存在を嗅ぎ付けちゃうなんて」

「アイツは底知れんところがあるからな。オレはアイツのやることを読み切れたことがない」


 そう、ハイネさんは凄いのだ。

 さすが私の愛する人。しかしそれだけに…………。


「私に協力させてくれないってどういうことですかッ!? 私は勇者ですよ。モンスターのことを何とかするなら、私こそが率先して動くべきなのに!」

「どうどう、カレンッち、どうどう……!」


 私のことをウマみたいになだめにかかるシルティスさん。


「カレン。ハイネのヤツは何と言ってお前をここにと留め置いたのだ?」

「それが……」


『勇者の務めは、モンスターから人々を守ること。それには本拠にしっかり固めることこそ大切だ』


「正論ではないか」


 教主さんたちに怒られるのを覚悟で他の都市に遊びに来ているミラクちゃんに言われたくないです。

 呼んだの私だけど。


「何このツッコミどころ満載の集団……!?」


 新たなるツッコミ役としてハイネさんの抜けた穴を充分に埋めてくれているシルティスさんが戦慄していた。


「アンタたちさ、いくら小型飛空機でどこでも一っ飛びできると言っても、あまりにフラフラ動きすぎじゃないの? 勇者たるもの教団と人々のために、有事に備えてどっしり構えておくべきだと思うのです。ハイネッちも今更ながらそれに気づいたんだって」

「でも、マザーモンスターさえ倒せば、そうする必要もなくなるんですよね?」


 ハイネさんが今回旅立った理由。それには今の状況すべてをひっくり返すだけの威力が込められている。


「あの……、二人とも……」


 私はここで、かねてから抱えていた疑問を二人にぶつけることにしてみた。

 マザーモンスター。そんなものの存在が明らかになった時、共に生まれた疑問。


「もしも、この世界からモンスターがいなくなったら、どうします?」

「ん?」「え?」


 その質問に、ミラクちゃんもシルティスさんも虚を突かれたようになる。

 私たちは勇者。

 勇者の務めはモンスターと戦うこと。モンスターと戦って人々を守る、ずっとそれを続ける。終わりなんかない。

 終わりがあるとすれば、私たち自身が気力体力どちらか尽きて、戦いを続けられなくなるまで。

 そうやって、過去何十人もの勇者たちが代替わりして、私たちまで勇者の称号が受け継がれてきた。


 でもそれは、この世界にモンスターがいたから。

 モンスターという脅威へ対抗するために勇者はいる。逆に言えばモンスターさえいなければ、勇者もまた必要ないんだ。


 ハイネさんは強くて、凄い人だ。その上優しくてカッコよくて賢くて誠実で、やると言ったことは必ずやり遂げる人だ。

 あの人なら、もしかしたら本当にモンスターをこの世界から根絶できるかもしれない。


 でもそうなった時、私たちはどうする?

 ハイネさんの成し遂げる偉業は、私たちから存在意義を丸ごと奪い去ってしまうかもしれない。


「んー、まあその時アタシら勇者はお払い箱ってことよねー」


 シルティスさんも同じ結論に達したようだ。しかも表現がより明け透け。


「アタシは別にいいわよ」

「えっ?」

「だって、勇者廃業したらアイドル一本に専念すればいいわけだし。勇者だけがアタシの人生なんて最初から思っちゃいないわよ」


 水の勇者強い。

 たしかに、勇者とアイドル、二足の草鞋を履いていらっしゃるシルティスさんなら、そういう選択もアリか。


「ま、アタシみたいに潰しが効くならいいけど、それ以外の方たちはけっこう哀れかもねー?」

「オレも構わんぞ」

「「えっ?」」


 シルティスさんが意地悪な視線を送ってくるものの、意外にもミラクちゃんまで勇者に拘泥していなかった。


「オレが元々勇者を目指した理由を考えればな。永遠に勇者でい続ける必要もない、ということだ。もしモンスターが地上から完全にいなくなったら……、人間の中で最強を目指してみるのもいいかもな。知能のないモンスターより白熱した駆け引きができるかもしれん」

「うわー、戦闘脳……」

「それに、勇者の務めに縛られなくなったら気兼ねせずカレンのところに入り浸れるしな!」

「結局そこかよ!」


 シルティスさんもミラクちゃんも、ビックリするぐらい思考が自由だった。

 そうか、別に勇者であることに拘り続ける必要はないんだ。

 私たちは勇者である前に一人の人間、一人の女性。シルティスでありミラクでありカレンなんだ。

 もし私が、勇者でなくなったら、どんな新しい人生を歩めばいいんだろう?


「…………ハイネさんのお嫁さん」

「えっ?」「えっ?」


 そうだ。何故そんな素敵すぎる人生設計に今まで気づかなかったのか

 ちなみ歴代勇者が、勇者を辞めて引退する時、その理由のトップが結婚――、つまり寿引退だ。

 何故か勇者は独身者でなければいけないという不文律がこの世界にはあるから、私もハイネさんと結婚する時は勇者を辞めなくてはいけない。

 なら、勇者を辞める時は後腐れないようすべての禍根を断ち切ってからにしたいじゃないか。

 立つ鳥跡形も残さず、だ。


「そうですよね、そもそも勇者の務めはモンスターから人々を守ること。そしてその究極は、モンスターそのものを世界から根絶することです。その方法がわかったとして、なんで尻込みしなきゃいけないんですか!」

「え、その前にちょっと待ってカレン? 今お嫁さんって、なんか言わなかった? え?」


 何故かミラクちゃんが急にソワソワしだした。


「だったらやっぱり、こんなところでお茶している場合じゃありません! マザーモンスターを倒すのは、勇者である私たちにとってこそ絶対の使命! ハイネさんばかりに任せておけない!」

「イヤ、それもいいけど、お嫁さん……!? お嫁さんって!? 結婚するのカレン? 誰と!? ハイネとか言ってたような、オレの耳がおかしくなったんだよね、きっと!?」


 ハイネさん。

 やっぱり私も行きます。

 ハイネさんを助けて、マザーモンスターを倒し、世界中の人々に危険に怯えることのない未来をもたらすために戦います!


「ねえ聞いて! 聞いてよカレン! ひょっとしてお嫁さんって、オレのところに!? まさかそんなことないよねー! でもまさか!?」

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