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99 決断

「それで、あのー……」


 僕は大樹の上で、地母神マントルとの会話を続けている。


「お前のやり方に対して、他の神は何か言ってきたりしなかったのか? ノヴァとかコアセルベートとか……」

「そりゃ言ってきましたよう。『やり方が汚い』とか、『お前には神の誇りがないのか』とか。言われてスッゴイ傷つきました。泣きたくなった。でも意外と、それ以上強くは言ってこなかったです。実力行使的なものもなかったし……」


 創世の五大神の中で、モンスター関連の方策に否定的なのはマントルだけでない。光の女神インフレーションはモンスター製造そのものを拒否しているほどだ。

 マントルを強く非難すれば、自然インフレーションにも矛先を向けなければならなくなり、そうなれば収拾がつかなくなる。

 五大神の中で唯一、四元素の括りに入らない光の女神。本来、二極の力は四元素とは次元を画するもので、四元素がインフレーションに勝つためには四人全員で袋叩きにする以外にない。

 そのインフレーションと敵対する原因が、マントルとの敵対ともなれば、敵した側に勝つ望みは万に一つもなくなるわけだ。


 そこまで計算して、初めて反抗の意志を見せたのだとすれば、マントル、見かけによらず策士だが……。


「ふぇぇ……?」


 そこまで考えていないな。絶対。


「…………」


 僕は少し考えてから、言うことにした。


「なあ、マントル」

「ふぇ?」

「僕が今回ここへ来た目的は、グランマウッドを滅するためだ」

「ふぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーッッ!?」


 予想通りというか、マントルは絶叫をもって僕への反応とした。


「この世界に、もはや神からの影響を残しておくべきではない。ゆえに神からの影響そのものであるモンスターは滅ぼすことにした。そのためにやるべきことは、大元となるマザーモンスターをすべて倒すことだ」

「ふぇぇ……」


 さっきから「ふぇぇ」しか言ってないマントル。


「そして今のところ所在がはっきりしている地のマザーモンスター、グランマウッドをまず片付けることにした。そういう経緯で今僕はここにいる」

「じゃ、じゃあこれから……?」


 グランマウッドに暗黒物質を叩きつける。

 本来、この巨大樹の超大質量なら普通いかなる攻撃も受け付けないところだろうが、僕の暗黒物質なら何とかなる。


「あの……、慈悲は? お慈悲はないのですか?」


 神が神に慈悲を求めるな。


「あー……」


 そして僕は、ちょっと途方に暮れた。

 わかっているのだ、もう既に。

 人への害を除くつもりで乗り出したマザーモンスター退治。しかしいざ現地に来て、マザーモンスターの実物を見てみたら、「これを取り除く方が人間に悪い」と思ってしまったではないか。

 他の三つは知らないが、少なくとも、このグランマウッドに関してはそうだ。

 人とモンスターの共生をもたらし、人々から『御柱様』と親しまれる巨木。

 これを失うことが、イシュタルブレストの人々にとってどれだけの痛手か。物質的にも精神的にも。

 僕のしていることは、本当に正しいことなのか?


「……………………………………………………やっぱやめた!」


 長い葛藤の後に、そう言い放った。


「え? ええッ!?」

「保留! いったん留め置きます! グランマウッドに関しては後回しにして、他のマザーモンスター滅殺を優先します!」


 僕には、そう言う以外になかった。

 すべては人間のために行うこと。それが却って人間の害になっては何の意味もないではないか。


「え? マジ? え? ホントに?」


 僕の決断に、マントルはいまだ半信半疑のようだ。


「本当です。クロミヤ=ハイネに二言はない」

「本当? 本当? 本当。…………ッッッ、やったー!! 嬉しい!! ありがとうエントロピーさん大好き! おっぱい揉む? 揉むよね!? ワタシからのせめてものお礼! 揉んで!」

「だから揉まねーよ! 何故さっきからそんなに執拗なんだ!?」


 マントルの喜び様はひとしおで、よほど嬉しかったのだろう。


「イヤ、しかしな、マントル。僕はお前のことを見直したよ」

「え?」

「僕はね、お前のことを意見の言えない、その場の空気に流されるだけの女神だと思っていた。しかしそんなお前が作り上げたイシュタルブレストは、神と人との共生という意味で非の打ちどころのない理想郷だ」


 僕は、今自分のいるグランマウッドの枝から、その下を見渡してみた。

 枝葉に遮られて決して見渡しよいとは言えないが、広大なる街と農場を一望できる。


「本来人と神は、こうやって生きていくべきだったんだ。神は人を助け、人は神に感謝し。互いを認め合う。創世の時代僕が作り出したかったのは、こういう世界だったのかもしれない」

「え? イヤ、あのその……!?」


『フェアリー』としてのマントルの全身を染める、藤色というか薄桃色の淡い鮮やかな色。

 それが突然濃厚により鮮やかな色となった。まるで南国に咲く花のような色だ。


「何だ!? いきなりどうした!?」

「そんな……。そんなことないですよぅ。ワタシなんて、ワタシなんてぇ……!」


 口では殊勝に言っているが、マントルの表情からは抑えきれないニヤニヤが漏れ出している。恐らくは超嬉しいのだろう。

 褒められたことが。


「ワタシなんて……。五大神の中でもどんくさくて頼りないって、皆からバカにされてるのに……。おだてないでくださいよエントロピーさん。ワタシ、バカだから本気にしちゃう……! おっぱい揉む?」

「僕は本当のことしか言ってないよ。お前は誠実で、やるべきことを直向きにやり通す神だ。コアセルベートのような奸智な神からすれば、それを愚鈍と見るのかもしれないが、そう見えること自体があの下衆神の欠点さ。あんなヤツの言うことなど気にするな」

「……! コアセルベートさん……」


 その名に、浮かれ酩酊しているようなマントルの表情が一瞬だけ翳った。


「ん? どうした?」

「いいえ! 何でもないです! ……でも誠実、直向き、そんなこと言われたの初めて。ふふふ……!」


 しかしまたすぐ酩酊状態へと戻る。

 こんなに浮かれるなんて、よほどヒトから褒められたことがないんだなコイツ。


「自信を持てよ。お前はすべての地上にあるものの母、地母神だろう。お前がこの都市で成したことは偉業だと、この闇の神エントロピーが認めよう。これからも変わることなく、この地に神の慈愛を注いでくれ」

「はい! エントロピーさん大好きです。ワタシ、こんなに自分のしたことを認めてもらったのって創世以来初めて! なんだかとても凄いことをしてみたくなっちゃいました!!」


 マントルのモチベーションが、これ以上ないくらいに上がっていた。

 一方こちらは「マザーモンスターを倒す」と息巻いたものの初っ端から戦闘取り止めで、出鼻を挫かれた感じだ。

 さてこれからどうするか……?

 一度アポロンシティに戻って、作戦を練り直すかなあ?

地の勇者編は、二人のキャラクターの視点が入れ替わりしながら進んでいく形式となっております。

主人公ハイネの視点パートは一旦ここで一区切りとなり、次回からヒロイン・カレンの視点で描かれる勇者パートの始まりになります。お楽しみに下さい。


そしてついでながら、次回から本作の第100回の大台に乗ります。

ここまで来られたのも皆様の応援のおかげです。誠にありがとうございます。

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