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『婚約者が王子』さまだなんて正直、詰んでる

作者: 煇火

無理やりまとめたので、入らなかったアレコレがありますが奏上。

『婚約者が王子』さまだなんて正直、詰んでる




 気が付いたら、王子さまが婚約者でした。


 あれ? それってやばくない??

 私、王子さまの婚約者候補ではかなり後の方じゃなかったけ。


 皆さま、突然ですが私なぜか実際の年齢以上の記憶があるんです。

 ちなみに現在いまの実年齢は7歳です。

 そしてその年齢以上に『生きていた』記憶では、軽くその4倍くらいは――あると思います。ええ、その辺りの記憶が曖昧なんですが。残念です。



 私が王子さまの『婚約者』に決まったのは確か、一年前の誕生日の頃。


 ところで、あの時何があったのでしょうか。

 ちょっとその辺の記憶が無いのですが。さて?



 私がその曖昧な、うん十年な記憶を取り戻した時にはすでに『王子さまの婚約者』に治まっていました。

 そして「うん。これは詰んだな」と、思うようになったのも曖昧な記憶が原因だと思います。しかし所詮、曖昧な記憶モノです。

 どうせなら、思い出さない方が無い方がよかった。あまりにも曖昧すぎて、記憶も知識も役に立つほどはっきりせず。なんだかもやもやするんです。

(ああ、すっきりしない)


 でも、そんな曖昧なモノの中で気になる『記憶』とう名の『知識』がちょっと。

 ええっと、確か『転生したら~』とか『乙女が~』んん?? やっぱり曖昧すぎて役に立ちそうにありません。

 さらに『小説ならともかく、乙女ゲームとかやったことないし、分かんない・・・・・・』なんてその記憶が呟きます。曖昧な記憶モノよ『乙女ゲーム』って?


 皆さま。乙女+ゲーム その答えってなんですか??



「サラここに居たの」

 求める答えを貰えぬまま唸っていると、私を呼ぶ声がします。

 うっ! 眩しい!! あまりの眩しさに顔の前に手をかざしてしまいました。

 私は自分の目の前に現れた“光”に融かされそうです。

「サラ、大丈夫!?」

 大丈夫ではありません。と、正直に答えたいところですが曖昧な記憶が『不敬罪~』なんて叫んでいます。だって、突如現れた“光”はサラこと私の『婚約者』な王子・・さまなのです。


 きっら、きらです。眩いです王子さま! 加減してください。

 揺れる銀糸も、蒼色の瞳も美しいですが、何故か10歳にして後光が差して見えます。王子さま、手加減願います。

 でも、こんなに眩い王子さまが数年前までは無気力・・・無感動・・・な『氷人形アイスドール』のようだったなんて、今では誰も信じません。


 ははは・・・・・・。私、外見はきれいだけど感情が見えない、否、無かった王子を覚えています。はい。冷たく作り物めいた美貌、更に冷え切ったその眼差しとともに。

 『氷人形アイスドール』だった王子を。

 現在とのギャップが怖い。はははは・・・・・・。



 その、王子さまを『氷人形アイスドール』から“人”に戻したのが、どうやら私らしいんです。

 はて? 何をした自分。

 その際、王子さまだけじゃなく王さまにまで目を留めていただいたようで、王子さまの婚約者候補では一応名は上がったものの後の方だったのに、他の候補者みなさまを押しのけて気付けば正式な『婚約者』になってしまいました。


 あれ? それってやばくない??

 私、王子さまの婚約者候補では本当に後の方だったんです。


 ということは筆頭な方々からすると、私は邪魔な異物で障害です。しかも予定外の雑魚。

 これは詰んだな。本当に何をした自分。

「サラ。こっちを向いて」

 視線を合わせると、蒼色の瞳に心配そうな色を混ぜこちらを覗き込む王子さま。

「申し訳ございません。大丈夫です王子――、カーティスさま」

 あぶない危ない。名前でお呼びをしないと『お仕置き』が待っています。


 正直、罰ゲームです。といった方が正しいと思うのですが、王子=カーティスさまが『お仕置き』だよと宣言されています。

 人によってはもしかすると『ご褒美』になるのかもしれませんが、私には多大な『お仕置き』ですし、その効果は絶大です。


 嫌だ、あんな恥ずかしいこと!!!

 例え、実年齢以上の経験が記憶されていようと『羞恥心』は人並・外見年齢通りです。


 いくら『婚約者』だとはいえ、未だお子さまとはいえ、恥ずかしいモノは恥ずかしい。身もだえします。

 さらに、下手すると目撃者からの逆恨みで『生命の危険』までも発生するという。そんな副産物の恐れあり、本当に要りません。

 詰んでいる。


 さて? 何をしてこうなった自分。

 う~ん?? 特別に何をしたとかまったく覚えがないんですけど

 ん~ん。うん。う~ん。こらっ! 思いだせ、何をした自分!?



(うっ。かわいい)

 首を捻って考え事をしている自分の『婚約者』を見つめカーティスは微笑んだ。彼女が何を考えているかなんてお見通しだ。

 考えが表情かおに思いっきり出ているよ。と教えてあげたい。

 でも、かわいいので放置そのままの方向で。


 室内だと黒く見える濃い琥珀色の髪は、日の光を浴びるとそれはきれいに輝く。

 澄んだ琥珀色瞳も、甘く色づく。

 彼女は自分の価値にまったく気付いていない。無頓着だ。

 だからこそ、自分と父は誰にも奪われないように彼女を――。

(守りたい。大事にしたいけれど、閉じ込めたいわけじゃないから)


 もちろん独占したい。だから誰にでもわかりやすいように『婚約者』という約束で縛り、返る場所はココだと示したかった。

 彼女は、自分がどれほどのことをしたのか理解わかっていない。

 彼女が救ったのは、自分たち親子だけじゃないということを。理解わかっていない。

(大好きだよ。だから、少しでいいからこっちを向いて)


 彼の気持ちが届く日が、いつか来るのかは誰も知らない。



(ええっと。あの時、何かあって『王子さま』に出会い。それから??)

 そう何だかいろいろ遭ったらしい。が、このへんの記憶が???

 そうだ、なぜか王子と王さまの相談・・にのった気が。えっ!? 王子はともかく。私、王さまの相談・・にのったの??


 いやいや、おかしいでしょ。


 現在の実年齢が7歳。だとすると婚約前は6、いや5歳かな。しかも、曖昧といえど記憶の戻る前。

 ほら、やっぱりおかしい。

 王さまの相談にのる幼女、当時5歳。

 なんだそれ。笑える。ひどい冗談。


 う~ん。でも、冗談じゃないんだよねこれ。

 ああ、本当になにしちゃってるの私。


 詰んだ! これは詰んだ。

 王子さまだけじゃなく王さまをたぶらかした罪で私、殺されるんですね。

 稀代の悪女 現在7歳。当時、5歳。

 それってどうなの。

 でも、幼女(私)にたぶらかされる。国のトップって・・・・・・。


 やばい国ごと詰んでる。


 本当にヤバイ、死ぬのかな、私。

 処刑は嫌だ。痛そうだし。



 ううっ。でも悪いことしたとは思っていないんですよ。

 ほら相談後、お二人はお互いの間にあったわだかまり、というか誤解が解け、ちゃんと家族になったんですから。

 まぁ現状、親子で文通している状況が普通の家族かどうかは知りません。しかも5歳児の発案です。

 おかげで、現在の仲良い父と息子の姿にほっこりですよ。

 ええっと、美形は徳って話しですよね。見ているだけで、周囲にもいい影響が。


 ただ、お二人揃うと眩しさ倍増どころか。掛け算ですが。

 サングラスがほしい。切実に。

 しかし、この世界にはサングラスがないと思います、探してはみましたが今のところ見つけられませんでした。残念! ココは自分で作ってみるべきですか。


 というか、なぜ私が『王子さまの婚約者』なのだ。

 あら、不思議。

 身分的にはギリギリOKだろうし。

 はっきり言って、ほとんどの伯爵家から下に見られるような残念“仮”侯爵家だけど。

 とは言っても、腐っても“仮”が冠のように付いていようと侯爵家だ。例え、かろうじてその地位に引っかかっていようとも。しかも“仮”で『期間限定!!』な当主の娘ですが。


 もっとも、継ぐのは優秀な義兄あにだし落ちぶれかけたのだってお父さまのお母さまへの愛が空回りしてたり、お母さまのお父さまへの想いが迷走していたことが主な原因だったわけで。うん、過去形で話せることがちょっとうれしい。


 誤解というか、すれ違いが解消された現在。我が家は持ち直しつつある。

 お義兄にいさまの将来の為にもいいことだ。

 かわいい弟も誕生したことだし。


 ちなみに弟はすでに母の実家を継ぐことが内定・・しているので相続争いとかにはならない。


 「二人の間に生まれた子を跡継ぎに」


 これが母との結婚の許可を求めた父に言い渡された条件の内の一つだった。



 元々、お母さまはこの国・エルレシアの隣国・ユーレアの王子さま方の『婚約者候補者』の筆頭・・でした。

 だからこそ、お父さまがユーレア留学中、お母さまと出会った時にも『婚約者候補』のまま、お母さまの『婚約者』の座は空いていた。

 ユーレアの第一王子にティーレンスの王女との婚姻がまとまり、第二王子とお母さまの婚約話が上がったころ。お父さまとお母さまは出合った。お父さまの友人、第二王子の紹介で。


 なんでも、学問バカだった父をなぜか気に入り、友情を持った第二王子は、兄・第一王子の結婚式後の舞踏会に父を招いた。

 留学しても勉強ばかりだった父に「せっかく留学したんだし、国際交流も学習すべきだ」と言って。


 母を一目見た父は、その場で『求婚プロポーズ』したそうだ。

 母の立場も名前も何も知らずに。


 それを見て爆笑した第二王子はティーレンスから王女に付き従ってきていた令嬢に、やはりその場で『求婚プロポーズ』したそうだ。

 当時の舞踏会の求婚プロポーズ事件は、その後ユーレアで物語になり、舞台化し。近隣諸国でも有名になり。未だに人気がある。


 若いって、イイデスネ。

 じゃなく。ユーレアの第二王子の御名はともかく、正直、父の家名や実名は広がらなくてよかった。


 結局その時の舞踏会では第一王子の婚姻の祝福だけじゃなく。第二王子の婚約?に、留学生の求婚プロポーズ事件で大いに盛り上がったそうだ。

 おかげで「王子に続け!」としばらくの間、貴族も平民も『婚約』だ『結婚』だと、お祭りのごとくおめでた騒ぎだったそうだ。


 私の祖父母であるユーレアの公爵・・夫妻としても、そんなお祝いムードに水を差すことも出来ずに、いくつかの条件を出したものの。二人の婚約および婚姻を認めてくださったのだ。

 まぁ、許可の下りる云々(うんぬん)以前の問題である。母の父からの求婚プロポーズへの返事は『政略結婚』であれば必要ない。

 ただ父は、必死で母を口説いたらしい。


 当時の母は王子たちの筆頭・・婚約者候補であったため、誰にも“恋”をしていなかった。しないようにしていたらしい。

 だからこそ、父の情熱に母が揺り動かされるのは、ね。必然、かな。



(なのにお父さまってば、お母さまにあんな誤解を招くような行動をなさるなんて!)

 現在では笑い話しにしかならないからいいものの。アレが続いていたならば『離婚』の二文字が躍っていただろう。

(特にお爺さまとか、お婆さまとかお爺さまとか)


 お義兄にいさまは笑って済ませられましたけれど。本当、お心の広い方で良かった。

 まぁ、大らかというか。優秀なのに、どこかのんびりとしたところのある方だから。

 危うく我が家は没落の瀬戸際でした。に、気付いていなかったなんてないと思うんだけど。お義兄にいさまだと、それもあり得る気が・・・・・・。ふふふふっ。


 私が現実逃避をしていると、

「サラ、こっちを見ないとキスするよ」

「ふぇっ!」

 ちゅっ、

「な!! えっ」

 キスされました。額にですが突然よそうがいの王子の行動にびっくり。


「ほら、こっちを向いて」

 じゃないと、もう一度。と、楽しそうにカーティスさま。

 私は慌ててくるんと、王子=カーティスさまへと視線を合わせます。

「おや、残念」

 にへ。と、カーティスさまに微笑んでみました。

(『笑って、誤魔化ごまかせ☆』と記憶が私にささやいたんです)


 そんな私の手を握ってカーティスさまは歩き出しました。

 ところでキス(これ)も『お仕置き』ですよ。カーティスさま。

 私をどうしたいんですか?

「ん? 婚約者殿に、挨拶??」

 ああ、疑問形ですか。

 なんだか項垂うなだれます。がっくり、と。


 何処へ向かうのかわかりませんが、カーティスさまは王宮の奥へと私を導きます。

 嫌な予感がするのは気のせいじゃないと思います。

 手を引かれて歩く私に王宮の方々の視線が集まっているのが・・・・・・正直、辛い。

(視線に殺気が混ざっていて、にゃ~っ。)


 ああ、また詰んだ。


 新たな嫌がらせの“的”を自分に着けた気がします。


 氷が溶け、きらっきらになった王子さまの人気は急上昇。で、私はすでにめり込んでます。

 急降下なんて、かわいいモノじゃありません。

 地下道どころか、井戸を掘るよりも深く潜っています。



 あの時――。

 私が王子さまの『婚約者候補・・・・・』だった5歳の時、ちょうど淑女教育の一環で『手紙』を書いていたんです。それはもう、いろんな立場の方に。

 淑女教育の先生からは「まずはご家族に」と言われました。

 それは両親と義兄あにへということだったのでしょう。

 ですが私、たくさんの方へ書いてしまったんです。


 何だか5歳児から見ても両親がぎくしゃくしていたことは分かりましたし。

 お義兄にいさまはちょうど“学院”へ入るため、王都へ行ってらして屋敷にはおりませんでした。つまりその、寂しかったんです。

 王宮へ呼ばれていたこともですが、お爺さまとお婆さまにもお手紙を差し上げたら喜んでもらえるかな。と子供心にも思いまして、って現在いまも子供ですが、7歳ですから。


 正直に言いましょう!

 寂しかったのと、誰かに褒めてもらいたかったみたいなんです。


 ううっ。

 発想が子供ですみません。

 まだ実年齢以上の『記憶』もなかったころなんで、大目に見てくださいませ。


 そういえば、あの時。

(王子=カーティスさまにも書きましたね)


 それか、それが理由か!


 何やらかしてるんだ自分。

 あはははっ、いろいろ、詰みあげてますよね。


 言い訳させてもらえるならば、5歳児に求めるな!!

 ってことです。


 はい。開き直ってますが、何か?



 でも『手紙』の一つ二つで王子の『婚約者』に決まるなんて事態、無いよね??

 何したんだ、私?

 いや、何を書いた!?


 ん。書いてしまったことは仕方がない。

 だって、過去に行ってその『手紙』を破いてくるわけにはいかないし。

 第一、今も現存しているどうか。

 ってあれ?


 現在も在ったりするんでしょうか。

 嫌な汗が、背中をすべり落ちる。

(いや~っ!! 捨てて破いて、燃やして消去して)


 ――確かめられませんでした。

 もちろん! 探ろうとはしました。しかし、

「思い出は築くものだよ」

 なんて言葉で上手にはぐらかされました。

 さっきのお返しですか。



 うううっ。

 うつむいたまま私は随分と歩きました。カーティスさまは迷うことなく進みます。当然ですよね。どんなに王宮が広く大きくてもカーティスさまには自分の家。

 迷子になんてなりません。さくさくと目的地である奥宮のある扉の前へ私を導きます。


 私は自分一人では帰れそうにありません。後で道案内をお願いします。

「ここ、サラはまだ来たことなかったよね」

 カーティスさまに促され顔を上げると、うつくしく繊細で緻密な彫の施された扉がありました。

 これまでも、王城へは何度か訪れたことがありますがこのような場所は来たことがありません。


 扉の周辺には近衛の方々数人がいらっしゃいます。どうやらここは奥宮でも、重要な場所のようです。

「あのカーティスさま。ここは?」

「入って」

 ゆっくりと扉が二人の近衛兵によって開かれる。

 隙間から、明るい光が仄暗い廊下へ延びた。


「ほら、おいで」

「・・・・・・はい」

 このままでは答えを貰えないし、行きたくないと言って聞き届けられないだろう。と、思い差しのべられた手に、そっと自分の手を重ねる。

 招かれるまま扉の中へと進んだ。

 室内は明るい日差しが差し込み、広くきれいに整えられていた。不自然なほど。


「調度品はその都度変わるので、今は最小限の物しか置いていないんだ」

 ? はて。

「一応、公的な応接間になるから」

 招いた人数とかでも違うしね。

「さっきの質問の答えここは『王妃の間』だよ」

 ちょっと悪戯っぽく、でもどことなく寂しそうに話す。


 ううっ、その表情はずるい。

「カーティスさま。ここは王妃さまの――お義母さまの執務室なんですね」

 するとよくできましたと、嬉しそうに私を見つめる王子さま。

 つまりここは現在・・、使われていない。と、いうことだ。


 ・・・・・・王妃さまは、王子が幼い時に亡くなっている。

 暗殺、しかも王子を庇ってと思われる亡くなり方だった。

 目の前の、きらっきらで眩しい王子が『氷人形アイスドール』なったきっかけが『王妃暗殺』という事件だった。

 目撃してしまった王子も悲劇なら、なくなった王妃も悲劇だ。

 王子はその後、何度も生命を狙われているらしいし。王族も大変だ。



(あ~あそこ、近衛兵士の控えの間かな)

 隠し扉を見つけて、チェック。

 連れて行かれた続きの間は大きな出窓があり、開けられていた。吹き抜ける風が心地いい。

「こちらがプライベートな応接室だ」

 もっとも、仕事用・・・のと、付くがな。

「クリスティーンさまはお使いになられないのですか」


 くすっと、

「姉上の嫁ぎ先が決まった」

 驚いて、まじまじと王子の顔を見つめてしまう。

「つまり、嫁がれるということでしょうか。婿を迎えられるという理由ことではなく」

「そうだ。ああ、それで私の立太子も決まった」

 とういう理由で君は『王子妃』ではなく『王太子妃』になる。

 いやいや待ってくれ! そんなこと、聞いていないから。


「サラ、君ならどんな調度品を入れる」

 えっそこ、今そこなの??

 ここは王妃さまとの思い出とか姉君・クリスティーンとの話しが出てくるかと予想してました。あれっ。

「嫁いでくれば君が使うことになる。結婚式までには準備したいから、希望があれば言ってくれ」

 説明しながらカーティスさまは続きの間へと私を誘う。

 嫁がない。とうい選択肢はありませんか?


「クリスティーンさまは、了承されたんですか」

 銀糸、藍色の瞳のクリスティーンさまは御年15歳。現在、この国で一番・・モテる。輝く銀糸を高く一つにまとめ、騎士服を着て兼帯し王都を闊歩する。颯爽とした男装の麗人がモテないはずがない。

 クリスティーンさまの他国への嫁入りが発表されたら泣きぐずれる女性が大量発生するだろう。

(がんばれ。世の男子ども! 超、がんばれ!!)



 う~ん。と顎に手をやった王子は首を傾げつつ。

「根負けしたらしいよ。王子たちの求婚プロポーズに」

 はい。今、変なこと言いませんでしたか?

 その、王子たちって、あれ複数形??


「・・・・・・クリスティーンさまは、いったいどなたに嫁がれるんですか」

「ん? 決まっていない、かな」

 はい? おかしなことを聞いた気がします。聞き違いですよね。

「カーティスさま」

「厳密にはクリスティーンの『婚約者』は二人・・

「『婚約者候補・・・・・』ではないのですか」

「『婚約者』で、会っている。一応」


 この世界、一般人はともかく貴族や特に王は複数の伴侶を持つことがある。

 所詮、政略・・結婚ってことだ。

 だが、自国ではなく他国に嫁ぐ王女の『婚約者』が王子二人というのは流石に珍しい。

 思わず王子を見つめてしまう。その前に『婚約解消』してくださっても結構よ。

(婚約破棄できず、このまま婚姻した場合。側室を持つって宣言ことかしら)


「ねぇ。何か、妙なこと考えていない」

 心読まれた! やばっ。

「いいえ。そんなこと」

 あります。なんて正直ことは言いません。

 じ~っと見られている。無言が、視線が痛い。


 ちゅっ、

「にゃっ」

 繋がれたままの手に唇が落ちました。

 ああっ。

「な、にゃにを」

 噛んでしまいました。せっかくの抗議がこれでは。

「大丈夫。妃は君だけだ」


(“学院”での出会い系イベントあるかもよ)

 と、記憶が囁きます。

 君だけだ。なんて言われても安心なんてしません。が、いべんとってなんですかね?

 実年齢以上の知識の所為か、理解できません。

 応えない私を王子は次の目的地へと導きます。

(RPGなのこれって??)


 続けて聞こえた言葉も意味不明です。本当に役立たずで、意味不明。

 痛む頭を押さえ、連れられるまま移動しました。


 結果、それが悪かった。


 結論=罠でした。


 詰む一歩手前!



 高い屋根を持つ塔は“聖堂”と呼ばれる重要な儀式の間だ。

 王族はともかく貴族でも上位の存在でもよほど特別な許可が出なければ利用できない。

 当然、そこへ入るにも許可が必要で、普段から厳重な警備をされているため、お子さまなら尚更、前準備が必要な訳で。

 ――本来は。


 ほら、王子と一緒にいる段階で許可されていますよね。

 しかも私、王子さまの『婚約者』でもあります。

 一応、未来の王族なんですよ。まぁ、現在のところはと言わせてください。

 いつ、婚約破棄されてもおかしくないと思っていますが。実際、どうなんでしょう。


(シンデレラ≠ツンデレら。じゃなく、えっ。私、ンデレラ!?)

 脳内の曖昧記憶・・・・がうるさい! 意味不明だし。

 理解できないことにイライラしてしまう。


 まぁ、確かに詰んでますが。

 ちょっと遠い目をしてしまいます。


 その時きゅっ、と、王子が手の私の手を強く握ります。

 はい~? なんでしょう。

 思わず、仰ぎ見たら、何故か顔を逸らされました。はて。

 そんなに変な表情をしていたでしょうか??



 小さな明かりが四方に広がり、周囲を照らし出す。

 照らし出された世界は陰影が厳粛な雰囲気を醸し出し、薄暗いその奥に隠された何かをそっと覆う。

 主に王族の冠婚葬祭を執り行うための神聖な場は、どこまでも厳かだった。


「ここに母が眠っている」

 王子が示したのは、聖堂からある場所へ続く一つの

 王族が眠る秘された

 私は顔が青ざめるのを感じた。

 聖堂ここでそんな重要な秘密を明かされるなんて!!

(に、逃げ道ふさがれた!?)


 王族でも一部のモノしか知らない秘密を知ってしまった。

 つまり、婚約破棄って可能性が下がった。

(死亡フラグ急浮上!)


 嫌な思い付き。というか、曖昧記憶め!! 意味不明な言葉ことを呟かれても分からないんだから、ちゃんとした説明を要求する。

 と言っても自分が想いだせないだけだとしたら、どうしょうもない。

 おかしいな? このままじゃヤバイし、不味いってことだけは解るのに。


 詰んでしまう! と自分の中で誰かが叫んでる。うるさいくらいに。

(どうすればいいのかしら)


 ――考え込んでいたのがいけなかった。



「という理由で結婚しよう!」

「はい?」

「よし、了承は取った」

「いやいやいや。待ってください」

 落ち着け、自分。がんばれ自分。

 齢7歳で結婚してどうする。


 ここで負けたら即、詰みだ!


 恐ろしい未来が待っている。


 すーはー と、深呼吸一つ。

「王子さま。私、確かにあなたの『婚約者』ですが、婚姻は十年後のお約束だと記憶しております」

「サラディナ・エクト・メルシア嬢。

 私、カーティス・エスタ・エルリアの妃になっていただきます」

 いや、そこは「いただけますか」という問いかけなんじゃ、と思ったけど。無粋な突込みはできません。

(コレって、一応正式な求婚プロポーズ??)


 乙女なら、きらきらした王子さまに熱烈に口説かれ、求婚プロポーズされることを夢見ることかと思います。

 が、しつこいようですが私、現在7歳です。しかも記憶があることによって、精神年齢だけは実年齢以上です。

 つまり、断れ(NOと言え)ます!

(こんなところで流されたら、すぐに『結婚式』に突入よ!)


 聖堂にいること自体、今は赤信号。ん? 赤信号って何??

 曖昧な記憶が知らない知識を小出しにしてきます。が、生憎なにを言っているのか解りません。

 問題は7歳での結婚。王族ならありうること。


(確か、隣国シタンバレーでは生後半年の王子だっか、王女がやはり幼児と婚姻したはず)

 まあ真に政略的な婚姻ですが。

 これは極端な例ですが、王族は“学院”の卒業後を待ってすぐに。というパターンが一般的です。


 通常“学院”への入学は10歳からです。卒業は個人の学習意欲との関連等で差が出ますが。

 このままじゃ、私の計画・企みが水泡に帰してしまいます!

 何としても、時間・・を稼がねば。

(大丈夫、まだ露見ばれたりしていないはず)


 笑顔で王子を睨んでみました。

「“学院”卒業後であって、婚約から十年後。ということではないよ」

「! そうでしたか?」

 とぼけてはみたものの。内心は王子の科白にハラハラドキドキ。当然、悪い意味で。

(ヤバイ。拙い!! バレテル? いや、まさか)


(さっさと母の母国に留学して還って来ないつもりでいたのに)

 お義兄さまの“学院”卒業を待って、継承の儀は行われる。

 私のお義兄さまが『メルシア侯爵』を継ぐ。これは決定事項だ。

 その時を持って、お父さまは『メルシア侯爵』という立場から解放され・・・・・・。


「君の名が『サラディナ・エクト・メルシア』であろうと『サラディナ・ユリス・カルディナ』でも同じだよ」

 「えっ」

 きれいな笑みがなんだか怖い。私は震える声で訊ねた。

「なぜ、その名を・・・・・・」

 涙目の私を王子は優しい手つきで撫で、

「大事な『婚約者』の家名を知らないはずないだろう。

 『サラディナ・ユリス・カルディナ』爵令嬢」

 呼ばれたその名に私は固まったまま動けなかった。



 王子、いやココはあえて名を呼びましょう。

 私は別に『カーティス』さまのことが嫌いなわけではありません。

 別に他に好きな方がいるわけでもありません。もし、このまま大人になっても『婚約破棄』されない様でしたら、ゆっくりとカーティスさまのことを考えていきたいな。くらいには思っています。


 ほら、所詮これは『政略結婚』ですからね。


 でも、いくら決められた婚約者であり、これが政略結婚だからと言って7歳で婚姻なんて、有るか無しで言うなら“無い”に決まってる。

 元々、王子の『婚約者』に決まったと手紙・通知が届いたことが、よく分からない記憶を取り戻す切っ掛けとなったみたいなんです。


 あの日、王家からの使者が訪れ、渡された手紙・通知に書かれていた一文。


 『サラディナ・エクト・メルシア侯爵令嬢を第一王子カーティス・エスタ・エルリアの妃に迎える。

 よって、うんぬんかんぬん』


 皆さま。最初の一文の衝撃で、後の文章は覚えていません。

 そんな、なんてこったいな内容に。5歳の子供が衝撃を受けても仕方がないと思いませんか?

 だって『候補者』としては本当に後ろの後ろ。だったんですよ。

 何か特別なことをした自覚おぼえもなく――。



 その後、私は使者をきちんとお見送りしたそうです。つまり当日の夜までは一応、しっかりしていたらしいんです。

 ただ翌日、侍女が起こしに来た時には高い熱を出しており、そのまま二日ほど寝込んだそうだと聞きました。

 おかげでその当時の記憶が有耶うや無耶むやではっきりとしないんですけど。代わりに記憶に無い『記憶』が甦ってしまった。みたい。って、ややこしい。


 でも、その結果が曖昧すぎてアレですけれどね。



 だからと言って、この問題に易々と『はい』なんて返事してやらない。


 これじゃ、計画の変更も出来やしない。


 誰か、この方の暴走を留めてください。お願いします!

 “無理”なんて言わないで。



「ここはきちんと結婚してから供に留学しよう」

 なんか王子が言ってます。が耳に入ってきません。聞こえません。


 取り敢えず、この手を放してくださいませ!


 確かに、お義兄にいさまが爵位を継いだら私たち一家はユーレアに帰ることになっています。

 母はユーレアの公爵・カルディナ公の一人娘であり、王家に嫁がなければそのまま女公爵になるのだから。

 つまり、父は婿に行くことになっていたのだ。お義兄にいさまの両親・・の急死が無ければ。


 父は母との婚姻の許可を自国にいる兄・メルシア侯爵に求め、自分と母の家の双方から了承を待ってユーレアで式を挙げた。

 新婚夫婦のもとに兄・メルシア侯爵夫妻の事故の急報がもたらされ、父母は急遽エルレシアへ赴くことに。

 エルレシアに帰国してみれば待っていたのは兄夫妻の訃報とまだ幼い甥一人。

 そして、父は残された幼い甥が成人するまでの中継ぎの爵としてたち、母は次期公爵・カルディナ女公の身分のままエルレシアで暮らし始め・・・・・・。

(お父さまってば! それなのにあんな)



「サラディナ」

「はぃ!」

 反射的にびっく!? としてしまった。途端に悲しそうな表情の王子。

 なんだか罪悪感を持ってしまいます。

「大好きだよ」


 ばふっ!


「なっ、なななっ」

 真っ赤に染まった顔。

 サラディナは何か言おうと口を開くが、あうあうと言葉にならない音だけが漏れる。


 視線を合わせるためにか、心持ちこちらを覗き込むように少しかがみ込み愛しい婚約者の額にキスを一つ落とし、

「ねぇ、きちんと言っておかないとどうやら君には理解わかってもらえないみたいだから」

 カーティスは眼差しに思いを込め囁く。

「愛してる」

 これからは全力で、君を誘惑するからね。

 続けて言われた王子の科白に固まり、思考も停止した。


 白濁し、麻痺した思考は――。

「サラディナ?」

 やわらかい声で呼ばれ、私の一時停止した意識が動き出す。

(あれ?? 今、何を言われたっけ??)


 聞こえたはずの内容を頭が消化・理解できなかった。

 未消化の科白が頭の中でぐるぐると回っている。

 ・・・・・・なぜだろう? 考えてはいけない気がするのは。

 顔の赤みが色彩を増していく。手も耳も染まっているようだ。

 何故だか視線が合わせられません。



 うううっ。

 私は真っ赤に染まった顔の言い訳を誰ともなしにしていた。

(いや、これ反射だから、ただの反射的な反応なんだから)


(そう簡単に好きになんて・・・・・・)

 勝手に涙目になった自分が不思議で仕方がない。

 ううううっ。


 真直ぐな好意がうれしい。なんて、そんな事態こと

(あ、あれっ)


 にっこり満面の笑みで、きゅっと私の手を握る王子さま。

「あーっ、かわいい。婚約者がかわいすぎて! もう!!」

 ぐぇっ。く、苦しい。

 抱きしめられてしまいました。

 放してください。じたばたと足掻いてみますが、これ、なんだかまずくない???

 顔のほてりが治まらないです私。きっと抱きしめられて息ができず、苦しいからですよね。それだけです。


(この、んデレ!? いや、この場合はツンデレが正しいか?)

 ダメな記憶・・が何か言っている。が、知りません。

 なんだか脈が乱れているのも、鼓動が早いのも息ができなかったからです。

 それだけです!


(ツンデレがデレるのはここからだ♡)

 うるさいぞ曖昧な記憶メ!!

 デレって、何。いや、知りたくない。

 王子は一度。私の拘束を解くと真っ赤になった表情を見て、うれしそうに微笑んだ。


 対する私はこれから先のことを考えて、赤くなったり青くなったりと忙しかった。



 詰んだ! ねぇ、詰んじゃったの!?


 

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― 新着の感想 ―
[一言] そこは「いただかますか」という問いかけなんじゃ、と思ったけど。無粋な突込みはできません。 いただかますかw
[一言] 初めまして。 楽しく読まさせていただきました。 一点気になりましたので、お知らせします。 国名が定まっていません。 (例)ユーレア→ユーレリア エルレシア→エル…
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