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ダ女神と悪執事の救世術  作者: 式神 影人
9/21

決戦!

 

「そうじゃ、あの化け物どもが見えんのか?そこいらの野良とは違う、殺しても死なぬのじゃ」

「しかもあそこで踏ん反り返っているダークエルフは史上最悪の狂……」


 「そうでもないさ」と足元の小石を拾い、前列の魔物に向かって軽〜く投げ付けると、ボフッと音を発てて砂のように崩れ落ちた。


「ハブられてヒッキーかましたボッチな痴呆爺ぃだろ?勝手に徘徊されたら迷惑だから大人しく自宅警備員しとけっての」


 辺境の地の方言だろうか?言葉の意味は全く解らないが侮蔑し、挑発しているだろう事は何と無く態度から判断出来た。

 だが当の老ダークエルフは自慢の最強最悪の不死の兵団に今、何が起きたか理解出来ずに狼狽している。


「ば…馬鹿な。魔法も効かず、切ろうが潰そうが戦い続ける無敵の兵が……」

「あんたが操れるのは死体だろ?だったらそうで無くせばいいだけじゃないか」


 簡単なように言うが一瞬で細胞全てを“死体”で無くすなど…。だが現実に氷の輪の上に居る魔獣達は全て炭と化し、ブスブスと黒煙を漂わせている。理由があるとすればただ一つ…。


「先程の雷光かッ!?」


 だが空には雲一つ無く、雨と勘違いしたのも彼らの水筒の中身だ。ましてや雷を落とす魔法など存在しないし、あったとしても魔力を帯びる限り奴らには通用しない。ならば一体……。

 歴戦の猛者三人は皆、これまでの経験から同じ思考を廻らせているが、一人がポツリと呟く。


「なぁ…、さっきの雷光は地面を疾って天に向かわなかったか?」「……ッ!?」


 そんな事は自然の法則的に有り得ない、ならばやはり人の手に因るものだと辿り着く。そしてそれはきっと……。

 「正解!」と笑う少年は先程拾い上げた黒い箱をカチッとならすと二本の角みたいな先端からバチバチッと小さな稲妻が発せられる。

 通常でも人を気絶させるだけの力を持つスタンガンだ、拡大解釈での能力強化の影響で本当の雷の数倍の電力を放てるのだろう。


「お…おのれ、よくも…」

「おっと、まだ俺のターンだぜ。アユ助、アレを!」

「ハイなのですヨ」


 老ダークエルフを制するように掌を向け、妖精から手渡された黒い布をバサッと纏う。


「おおっ!?」


 手品師のように瞬時に装備が変わる。漆黒の布が身体を覆い、白い前掛けが装着され、羽根のようになびくリボンが後ろで結わえられる。最後にヘッドパーツが頭に………って、リボン?

 ダークエルフと騎士三人の老人会の眼差しが何故か生暖かい。まるで孫を見るようだ……。


「オイ、アユ助!何で俺がメイド服着てんだよぉぉぉぉぉ!!」

「大丈夫、似合ってるですヨ。食パン1斤イケるですヨ!」

「んな賛辞要らねぇ!」


 むしろ大惨事だった…。これから一番盛り上がる筈のクライマックスシーンでまたもやダ女神アユミエルがやらかしたのか?


「ボケるにも空気読めよ!」

「何言ってるですヨ、聖呀こそちゃんと冒頭注釈を読むですよ」

「……注釈ぅ?」


 ウインドウを開いて次々スラッシュしていき、この世界の説明文を読む。


「ジャンル?………ってシリアスなファンタジーじゃないのかよォォォォォォォォ!?」

「シリアスならさっきもう充分にやったですヨ。お陰で殆ど出番無かったですヨ!」

「それが本音かぁぁぁぁ!!」


 魔法にエルフなどのデミヒューマン、挙げ句にモンスターまでいるからてっきりそうだと思い込んでいたのに…。


「この世界を創る時に登録を間違えたですヨ……」


 なんて事だ…。魔獣10倍、食料1/10な入力ミスでの世界の滅亡なんてレベルじゃない、根本的にこの世界の存在そのものが間違っていた。


「だからここでボケないと大変な事になるですヨ。もし空を仰いで『雨…か?きっと神も泣いてくださっているのだろう…』なんて言い出されたら一大事ですヨ」

「そんな中二病みたいなセリフ吐く奴なんて居てたまるかぁーーー!!」


「お前らそろそろ勘弁してやってくれ…。ウチの大将が色んな意味でヤバい」


 他の二人と違って清廉実直、生真面目一徹で生きてきた騎士団長が蒼白な顔で蹲って痙攣していた。一体何が起きたのだろう、まるでピンポイントのクリティカルヒットを喰らったようにダメージを受けている。


「クソッ!会話中に不意打ちとは卑怯だぞ黒爺!ひ弱な身体のクセに松○しげるみたいに日焼けさせてそんなに女にモテたいか?歳考えろよ!」


 開き直ったようだ…。ダークエルフの肌が褐色なのは種族特性であり、ましてや松○しげるはこの世界には居ない。完全に八つ当たりだった。

 流れるような茶番劇に呆気にとられていた老ダークエルフもやっと正気を取り戻したのか、聖呀の手に一本の短い杖が握られている事に気が付いた。

 

「な…何やらよく解らんが吾輩を無視するとはその罪万死に値する、その身を以って償うがよいわい。あと若い女子(おなご)にモテたくて何が悪い!」


 まだチャッカリ馬っ気はあるようで、最後のが本音かもしれない。


「そんな妄想、俺の炎で全て焼き尽くして消し炭にしてやるよ!」


 黒いローブ(メイド服)に杖…、この少年は魔法使いかと誰しもがそう思った。だが相手に向けた攻撃系魔法が通用しないのはこの少年も知っている筈だ。何より魔力の高ぶりを全く感じない、ならば未だに半数を超える不死の魔獣達をどうやって倒すというのだろう。

 自信満々に差し向けた左手の短い杖がカチッと鳴るとその先端からこれまた小さな火が灯った。


「何じゃ小童(こわっぱ)……、散々大きな口を叩きおった割にそんな矮小な火で何が出来るというのじゃ!」

「そうだぜ坊主、そんなんじゃ精々(かまど)の種火にしか……」

「……種火?」


 少年の口角が上がっているのがその横顔から分かる。右手には緑色に金色のラインが画かれた金筒が握られている。何やら茶色の蟲の絵が不気味だった。


「くらえッ!!」


 その金筒を杖の後ろに持ってきて上部の緑色のトリガーを引く。勢いよく発せられた霧が杖の火に引火し業火の帯を迸らせる。 感の良い人ならお分かりだろう、ライター(チ○ッカ○ン)と、家に出没するあの最強害虫G用殺虫剤だ。物を燃やす火と滅ぼす薬剤の炎だ、メギド・ファイヤーとでも名付けようか。※危険だから真似するなよ!


「うおっ!?」

「熱っ!?」


 轟々と燃え盛る炎に焼き尽くされて炭と化していく不死騎兵の魔獣群。熱が風を喚び、更に勢いを増した炎は渦となって天をも焦がさんという状態だ。

 炎の渦に巻き上げられてボタボタと落ちてくる炭の塊の傍で謎のメイド服女装少年は自分の相棒らしき妖精と漫才のような口喧嘩を続けている。


 ―地獄絵図だ……(色んな意味で)―



「さて、どうする黒爺?自慢の兵隊は全滅だけど?」

「お…おのれ、ならば!」


 一番後ろで防御壁を展開して炎を避けた老ダークエルフが召喚呪文を詠唱し画き出した魔法陣から何か巨大な物が地響きを発てて現れる。


「大変ですヨ!大変ですヨーー!」

「何だ?どうした?」

「またシリアス展開で私目立ってないですヨォォォォ」

「だったらここは危険だから向こうで黙って踊ってろ!」

「了解ですヨ!」


 アユミエルは満面の笑みを浮かべすっ飛んで行った。




「ストーンゴーレム……」


 物理的な攻撃力と防御力に特化したタイプだ。聖呀はステータスを確認しようとウインドウを開……かなかった。


「何でですヨォォォォ!?」


 どうせまた詳しくは表示されないだろうし、硬くて馬鹿力なのは見ただけで判るから意味無いしで使わなかったのだが、逆に「フレームから外れたですヨ!」だの「喋らなきゃ居るかどうか判らないですヨ!」と泣き喚くダ女神を引き寄せてしまった。完全に作戦ミスだった…。



「そもそも生命体じゃないから痛覚無いだろうしな……」


 試しにもう一度メギド・ファイヤー(w)を放ってみたが赤く変色するだけで熔かす程には至らない。


「さっきまでの勢いはどうしたのじゃ?調子にのってごめんなさいと土下座をするなら苦しませずに殺してやるぞい」


 ストーンゴーレムの肩の上で老ダークエルフは勝ち誇ったように高笑いをする。


「熱くなるなよ、黒爺…」


 今度は白い細身の缶で何やら青い文字が書かれている。上部の突起を押すと同じように霧が噴射された。


「たわけ!何度やっても同じじゃわい!踏み潰せい、ゴーレム」


 ググッと右足を上げるがそこで動きが止まる。言葉を発しないので判らないが灰色のストーンゴーレムの両足が酷く黒ずんでしまっている。


ビキッ!!


 総重量何tが軸足にかかるだけで亀裂が入るだろうか?

 主の命令に従い、踏み潰そうとした事で下半身が耐え切れずに瓦解した。


「ば…馬鹿なストーンゴーレムまでもが…」


 信じられなくて当然だろう、魔法が進歩した世界では理解の基準が違う。聖呀が使っているのはこの世界では全く未知のオーバーテクノロジー、化学なのだから。


「ク…、じゃがまだ上半身が残っておるわい!」


 悪足掻きだとわ分かっているが、足掻かずにはいられまい。


「少年、最後は我らに…」

「悪ぃ、もう終わってる」


 国属の騎士団としてのプライドだろうか?もしくはコメディーとして終わらせたくないのか、理由はどうあれ三人の騎士達の申し出は通らなかった。


「な…何を言う!?ゴーレムならこれこの通り……」


 老ダークエルフの言う通り半身を失ってもなお見上げねばならぬ身体よりも高く巨大な腕を掲げ、今にも聖呀に向かい振り下ろそうとしていたストーンゴーレムの額に小さな赤い点があった。

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