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ダ女神と悪執事の救世術  作者: 式神 影人
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ギルド

 

 

―ギルド―


 ギルドという通称で呼ばれるこの施設はある意味口入れ屋、要は短期の仕事を斡旋するハローワークみたいなものだ。

 依頼者は国であったり、貴族であったり、中には村人が少しずつ出し合って仕事の依頼をだす。それをギルドに登録した冒険者達が任意に承けて対応する。依頼を達成してギルドに報告すれば報酬が貰える。その仲介手数料がギルドの収益となる。

 また魔獣を倒した際のドロップアイテムや素材の売買も行っている。初心者ならパーティーの紹介も請け負っている。

 施設内で簡単な飲み屋みたいなのも経営しているギルドもあり、冒険者達の情報交換や交流の場所になっている。

 当然、己の身ひとつで稼ぐ冒険者なんてやってる人間にお行儀良い奴など居ない。大抵は傷だらけな海千山千の強面だ。まぁ、僧侶や魔導士などの知能系は別だが…。

 冒険者に種族・年齢・性別は関係ない、信用に足る人物というのが唯一の資格だろう。

 で、聖呀が訪れた理由はこの世界で戸籍を持たないが為、身分証明書としてのギルドカードを得る必要があったからだ。



「初見だな…依頼か?」

「いえ、登録をお願いします。初心者で職種は何が向いてるか判らないので村人Aで…」


 聖呀本人は改心のボケだと思ったのだが、全くスルーされてしまった。


 この窓口係の厳ついオッサンにレクチャーされて知ったのだが、ギルドには職業ギルドもあるらしい。簡単にいうと傭兵・魔術・盗賊・商会ギルドがメジャーだそうだ。あまり表には出ないが、農業・漁業・工業・林業・石材のギルドもあり商工会的なものだ。所謂JA(農協)・JF(漁協)みたいなものが近いかもしれない。


 諸説明が終わって差し出されたのは一番汎用性の高い傭兵ギルド所属カードだった。

 こちらの世界に来たばかりの聖呀は当然無一文である為、昨晩の大量虐殺な結果を引き取って貰う事にした。


「すみません、買い取りお願いします」

「あ…ハイ、どうぞ」


 アイテム欄から〔天蟲の繭〕を3個、〔トカゲの革〕〔岩亀の甲羅〕をそれぞれ1個ずつ残して後は全てカウンターに乗せる。こうして山盛りになのを見ると結構な量だったんだと解る。


(何だろう?1円玉がみっちり詰まった2リットルのペットボトル4本持って銀行に預けに行った時の職員さんみたいな反応だけど……)


 鑑定に時間がかかるようなので一度窓口カウンターから離れてフロアを見渡してみる。ティコが同年代の女性冒険者達に囲まれた状態でパニクっているが剣呑な雰囲気では無いのでパーティーメンバーと再会出来たのだろう。

 こうして見るとエルフだの獣人だのゲームなどでしか見た事の無い種族が普通に会話してたり、食事してたりしてもコスプレイベントっぽくて何だかなぁ〜っと思ってしまう。




―買取窓口の鑑定士の独り言―



 見た事も無い奇妙な装備の少年がやって来た。詳しくは判らないが冒険者にしては小綺麗過ぎる。 服装も旅をするには適しているが、戦闘向きでは無い。〔旅人の服〕よりは防御力は高そうだが…。

 武器も腰に提げた短剣らしき物が一振りだけ、あまりに軽装過ぎる。そんな少年が買い取りを申し出てきた。

 ついさっき総合窓口で登録していたくらいだから、どうせ旅の途中で運良く拾えた物でもあったのだろう………と思ったのだが、何だこのアイテムの山は!?

 どれも高品質でしかも真新しい物ばかりだ。確かに近郊に出現する魔獣のドロップアイテムばかりだが、群れで襲ってくるキラーワスプなど初級者ではとてもでは無いが対応出来ない筈だ。それをこの少年が一人で?

 ティコさんと一緒に入って来たようだが彼女の実力は失礼ながらまだまだ“お荷物”レベルだし他のパーティーメンバーだ。事実、そこの姦しい一団が彼女のパーティーだ。

 どうにもこの少年は得体が知れなさ過ぎる。一度支部長に話しを通し、警戒した方がいいかもしれない。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ……さて、宿はどうしようと悩んだが、取り敢えずあの窓口の厳ついオッサンに相談すると、このギルドが運営する宿泊所があるらしい。風呂は無く、トイレも共同だが、その分安く泊まれるそうだ。一応食堂もあるが、自炊希望者がいれば簡易な台所も貸してくれるそうだ。

 木賃宿みたいなもんかな?雪山のロッジにそんな施設があったのを思い出した。


(そういえばティコは何処にいったかな?結局まだパンツを返して無いんだけど…)


 いくらなんでも宿に連れ込むのは不味いだろうな…と額を手で被う。一旦離れて冷静になると調子に乗り過ぎたと今更に思う。

 何ていうか、[いじめてください]オーラが半端無い。暗い負の感情じゃなく、彼女自身も気付いて無いM体質っていうか、そう接するのが正しい可愛がり方というか愛し方というか……。そう思わせる気配を纏っている娘なのだ。


 現に言葉で詰る度に彼女から発せられる甘いような匂いが濃くなった気がするし、魔獣もティコに引き寄せられていたので隙だらけだった。




「あの…聖呀さん……ですよね?」


 ともかく紹介された宿に向かおうとギルドの扉を抜けた所で見知らぬ女性に声を掛けられた。


(うわ……これアカンやつや……)


 頬を染め、モジモジと身体をくねらせ恋する乙女が今、まさに告白せんとするシチュエーション……。普通なら騙される奴も居るんだろうなぁ……、後ろから二人に剣先を向けられていなければ…。



「我らの呼出しに快く応じて頂き、心より感謝致します。此度は当パーティーのティコが大変お世話になったようで……」


 恐らくはパーティーのリーダーであろう女性がとても良い笑顔で待っていた。その後ろにオロオロとリーダーと聖呀を交互に見るティコとその肩を抱く女性、聖呀の背後には相変わらず二人の女性が退路を遮っている。


「いえいえ、こちらこそティコさんに案内頂いて大助かりですよ。それでご用の趣は何でしょうか?(うわぁ…こりゃ絶対バレてるよな…)」

「アハハ、そう堅くならずとも。何、ちょっとお礼をしようと思って。あと、貴方にお預けしているティコの私物をお返し願おうと思っただけで……ね」


 ……やはりバレていたようだ。

 ここは町の外壁の外、何が起ころうと自治の及ばぬ場所だ。敢えてここに連れ出した以上、穏便に済みそうにも無いだろう。背後の二人がゆっくりと距離を詰め、聖呀を壁際へと追い詰める。


「ティコがしようとした事をギルドに言わなかった事には感謝するわ。でも女の子にとって自分の持ち物で何やらかされるかという恐怖を与えるのはやり過ぎだと思うんだよね」


 だから…と、木で出来た練習用の模造剣を投げて寄越した。


「貴方も一応、冒険者ならこれで決めましょ。その手のマメ、まさか何もしてませんなんて言わないわよね?」

(うわぁ…良く見てるなぁ〜)


 流石はパーティーのリーダーだけあるわ…と、密かに【アナライズ】で探ってみた。


【フェリス】

ジョブ:剣闘士(Lv.24)

性 別:女性

H P:割とある

M P:うん……まぁ、ね

 B :バン

 W :キュッ

 H :ボン

体 重:重くは無い

性 格:冷静・実直

攻撃力:強いぜ!

防御力:タフだぜ!

素早さ:速いぜ!

スキル:連撃・気合い


(・・・・・)


 相変わらずいい加減な表示で詳細は全く判らない、もう【穴ライズ】でも良いんじゃないかと思う。結局、判ったのは聖呀よりレベルが18も上だという事だけだ。


「……ハァ」


 相手はティコを除いても4人。職業も様々だが皆、相応の実力者だろう。聖呀は諦めるように溜め息を吐くと、左手で模造剣を腰の位置に固定。右手を柄の上に翳し、体勢を低く構えた。


「ホゥ…、では始めよう…か!」


 ニヤリと笑い、フェリスが縦に構えた剣を中段から後ろに引いた瞬間、二人は同時に跳び出した。



―同時刻、ギルド支部―


 支部長を前に総合窓口職員と鑑定士が意見を交わしていた。


「で、そのルーキー君をどう見るさね?」


 歳の頃なら30代半ば、無駄にスタイルの良い、眼鏡を掛けた如何にもキャリアウーマンといった女性話し掛ける。


「まず、彼が持ち込んだアイテムですが、どれも均一で高品質です。また、全てが真新しく、近隣に棲息する魔獣の物ばかりなので遠方から来たとは考え難いです。ただ、量もその異常で一カ所で根絶やしにしたって感じです」

「レベルも低く、その“根絶やし”で上がったとしか…。装備も簡素で小綺麗なままだったから近隣ってのは頷けるが、風貌は初めて見るタイプだぜ。異国の人間っぽいな。異常っていやレベルの割にスキルが無駄に多いくせに統一感が無ぇんだよ。同時には習得出来ねぇ達人(マスター)クラスのもあったしなぁ」


 一言でいうなら“矛盾”だった。どう考えても“突然そこに居た”としか思えない。途中の過程がすっ飛び過ぎているからだ。


「フ〜ン、興味をそそられるじゃないか。ま、取り敢えず暫くは泳がすか、信頼のおけるパーティーに預けて様子でも見るさね」


 支部長の笑顔は玩具を与えられた子供のソレだった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


カーーン!

カラカラカラ…


 跳ね上げられた模造剣が転がり、ティコの下着を手にしたフェリスが切っ先を向ける。


「返してもらったわよ。確認印は必要?」

「いえいえ、充分です。ハイ」


 フェリスは剣を跳ね上げ、擦れ違うその一瞬に聖呀のポケットからティコの下着を抜き取っていたのだ。


「これからは女性に対する言動に気をつける事ね」

「ハイ!分かりました。これからは…」


 深々と頭を下げ、謝罪の意を示し、ティコに近付く。


「ごめんね、これお詫び。じゃあ…」


 ティコの掌にほんのり温かい物が乗せられる。

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