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ダ女神と悪執事の救世術  作者: 式神 影人
3/21

羞恥(はじ)まりの町へ

 だったら、わざわざ俺を殺してまで説明する必要は無いじゃないかと怒鳴りつけたら、


「新発想ですヨーーッ!?」


と真顔で驚かれた…。

 反射的にダ女神を引っ張り込んで再度お尻を何度も叩いてしまったが、


「痛いですヨーッ!墮天しちゃうですヨーー!!」


と泣き叫ぶアユミエルが涙目から妖しい笑みを浮かべた虚ろな目に変わり始めたので慌て止めた。何処かにスチールワイヤー製の堪忍袋の紐は売ってないのだろうか……と思う。


 さて、お腹もふくれたし後は寝るだけだが、ここでも問題があった。毛布が1枚しかないのでアユミエルをどうするかだ。テントは二人でも余裕だけど見た目幼女とはいえ、同衾するのは宜しくないだろう。

 そんな心情を察したのかは判らないが、アユミエルが袖を引っ張ってウインドウを開くように言ってきた。

 訳が解らず指示に従うと例のデフォルメキャラになり、あるウインドウに飛び込んだ。

 

『アイテムはアイテム欄で眠るですヨ』

 

と〔女神アユミエル〕の項目が点滅していた。女神としての尊厳はいいのか?ひょっとしたらこのままナビキャラ化するつもりかもしれない。

 まぁ、本人がそれで良いなら他人がどうこう言う必要も無いだろう。後はカマドの炭に砂を掛けて、念の為にリュックから取り出したある物を仕掛けて眠るとしようか……。

 

 

 

 

―翌朝―

 

「うわあ〜………」


 テントから出て来た聖呀はあまりの光景にドン引きしていた。

 張っておいた鳴子のロープを境に大量な魔獣の死体が転がっていたからだ。どうりでレベルが5つも上がっている訳だ…。

 主に蟲系だが中にはトカゲ型やカエルみたいのもあった。しかもどれもが異常にデカイ。このスズメバチ的なのは20cm程はありそうだし、聖呀の世界で最大級といわれるコモドドラゴン並のトカゲがゴロゴロ倒れている。

 このような惨状を作り出したであろう燃え尽きて灰色になった渦巻きを見た。

 再びナビキャラ化しているアユミエルの解説によると攻撃補助魔法のポイズンミストの強化判と同等の効果を発揮したらしい。効き過ぎだろ……蚊取り線香。


 たった一晩でこれだけの魔獣に襲われていた事に驚愕すると共に改めてここが別世界であるのとこれから先の事を考えると身震いが止まらなかった。




 いくら何でもこれだけの目立つ死骸に囲まれている状況では、食欲も湧かないのでどうしたものかと悩んでいるとミニ女神があるコマンドを指差した。


【剥ぎ取り工房】


 ……実に不穏なネーミングだった。

 要領はアイテムと同じ。ウインドウを開いてクリックするか放り込むかすれば瞬時に素材へと変わってくれるらしい。

 早速実行してみると瞬く間に次々アイテム化していく。ざっと見ただけでも

〔天蟲の繭〕

〔鬼蛛の糸球〕

〔麻痺針〕

〔トカゲの革〕

〔毒蛙の粘液〕

実に多彩である。また、水辺が近かった為か〔岩亀の甲羅〕なんてのもあった。


 これで全部かと見渡していると左側の森の草むらがガサッと揺れた。


「…どうしたですヨ?」

「シィ……静かに」


 残存かご新規か…腰のサバイバルナイフを抜いて慎重に近付く。襲い掛かってくる様子も無いのでゆっくりと草をずらすと人が倒れていた。まさか人間にも効いたのかと【アナライズ】すると毒状態では無かったので一安心。

 種族は獣人、服装からして冒険者だろうか?確かに犬っぽい耳と尻尾が生えている。

 防具は初級者でも買える物で、武器は無し。辺りにも転がってないから……恐らくは何らかの理由でパーティーから逸れ、一人になったところを魔獣に襲われて行き倒れた……って感じか。

 着衣もボロボロ…、あちこちに怪我もしているようだし、テントで応急処置くらいしても良いだろう。カマドの傍にエアマットを敷いて、その上に犬娘を横たわらせる。薬箱を取り出して一番酷そうな傷に消毒液を吹き掛け……たら全身の傷が治った?


「……マキ□ンだよな、コレ?」


 蚊取り線香といい、マキ□ンといい、この世界ではチートなまでに効果があり過ぎだろう。


「………ん」


 どうやら目が覚めたらしい。「大丈夫か?」と声を掛けたら跳ね上がるように起きて距離を取ると地面にぶつけんばかりに頭を下げた。


「ご……ゴメンナサイ!ゴメンナサイ!!悪気は無かったんです、出来心なんです、赦してくださいーーッ!!」


・・・


「……はぁ?」





 彼女の名前はティコ、職業は剣士だそうだ。顛末はおおよそ推察通りだったが、空腹に喘いでいると森の奥から美味しそうな匂いがしてきて近付いてみるとテントがあり、周りに誰も見当たらないので上手くいけば何か手に入るかもと思ったが、苦手な蟲型魔獣が大量に死んでいるのを直視してしまい、気絶してしまったらしい。


 取り敢えず説明の間もティコの腹の虫が鳴き止まず、仕舞いにはアユミエルのまで合唱を始めてしまったので仕方なく朝食に移行する。お陰で昼食分が無くなってしまったのだった。

 

 

 

 森から一番近い町まで昼過ぎには着く距離との事なのでティコに案内してもらう事になったが……。


「あ……あのぅ……何で私こんな目にぃ…」


 案内役が身を屈めながら内股で歩くものだから現状あまり捗らない。確かに首と手首をロープで縛り、リードのように握っているが…。もしかして朝食の後に近くの川で水浴びさせたのが悪かったのだろうか?だって仕方ないじゃないか、ティコは埃や砂だらけで汚れていたし…。ただその後、衣服を返さなかっただけで……。


 つまりティコは一糸纏わぬ生まれたままの素っ裸で前を歩かされている事になる。


「ティコさん、何か街道から外れている気がするんですけど?」

「無理言わないでください!こんな姿、誰かに見られたら…」


 涙目で抗議するも受け入れられる筈も無い。未遂とはいえ、ティコは聖呀に害を及ぼそうとした咎人なのだから。

 自身の失態でパーティーから逸れたティコはそのレベルの低さで一人では魔獣に対応しきれず、逃走する羽目になり、武器もアイテムも落としてしまった。空腹と疲労、そして孤独感がティコを精神的にも追い詰めていく。

 そんなおり、森の奥から漂ってくる美味しそうな匂いを辿って行くと小さなテントを見付けた。幸い辺りに人は居ないようだ、上手く行けば何か手に入るかもしれないと忍び寄ったが苦手な蟲系魔獣の大量な死骸を目にした瞬間力尽きてしまったのだった。


「別に俺は夜になっても構いませんよ、テントの中で眠れば良いですし。でもティコさんはどうします?まぁ、外でも中でも襲われないって保証はありませんが…」


 言葉の意味を理解したティコの背中がビクッと震える。自分の実力では魔獣に太刀打ち出来ないのは嫌という程知らされた、ましてや己の身を守る物が無い今では尚更…。そしてそれは魔獣以外でも言える事だ。


 自身の失態に起因するピンチを回避する為に冒険者でも無い者に危害をくわえるなど赦されざる行為だ。これがギルドに知れたら自身だけでなくパーティーも責を問われる事になる。ギルドからの孤立、援助も支援も失う。それはこの世界での“死”と同等。信用という形の無い物を礎とするからこそそれに反する事への制裁は軽くない。


「わ…分かりました。、出来うる限り頑張りますから、せ…せめて下着だけでも……」

「本当に申し訳ありません、ティコさんにそんな格好をさせてしまって…」


 あくまで自分に非があるような口調で、


――俺がもっと外道になれたら良かったんですけど…、そうしたら四つん這いで獣のように扱えたんですが…。でもそうなると色々と見えてしまうので俺が理性を保てるかどうか…


…と告げる。その後も


「あ、後ろは振り向かないでくださいね、ティコさんを守る為にあまりお見せ出来ないような事をしているかもしれませんので」


とか、


「そういえば…ティコさんの尻尾、とても綺麗な毛並みですよね」


などと間隔をおいて話し掛ける。勿論、常に見られている事を意識させ、妄想を煽る事で冷静な判断をする時間を与えない為だ。

 ギルドへの報告もちらつかせて不安を煽り、自分に危害をくわえようとした相手を殺さなかった事、その相手の空腹を癒す為に貴重な食糧を与えた事、これは二重に貴女の命の恩人という事なんですよ、と半ば強引な恩を着せた上で、罪を道案内で帳消しにするという提案で思考を撹乱させる。

 これで全裸で歩かせる事が逃亡を阻止する為に仕方が無い事なのだと誤解させてから優しい笑顔で


「町が見えてきたら服はちゃんとお返ししますよ。だから安心してくださいね」


と付け加える。

 途中、遭遇した魔獣から守るように退ける事でティコは聖呀を信用してしまう。一度精神的に追い詰めてから優しくする……、完全に詐欺師の手口であるにも拘わらず…。





「あ…あの…あれが町で一番高い所にある教会の十字架で………ですから、そろそろ……」


 辿り着いたのは壁門近くの林の端。丁度出入り口からは死角になる場所でティコの服を渡す。5分もかからずに通過出来るだろう。

「ま…待ってください!」


 門の手前でティコに引き止められる。


「や…約束が違います、ちゃ…ちゃんと全部返してください…」


 見た目は出会った時の姿そのままだ。ただ涙目で短めなスカートの裾を引っ張るように押さえている。


「いいえ、ちゃんと約束通りですよ。服“は”お返ししましたから。さぁ、街中を散歩しながらギルドまで案内お願いしますね」


 そう言い残すとさっさと門を潜ってしまった。


「あ……ちょ……」


 結局最後までティコに選択肢など有りはしなかった。

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