表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダ女神と悪執事の救世術  作者: 式神 影人
20/21

再び、彼の地へ






 

 

 

(結月は『好きにしろ』と言った。つまりこの中に有るデータは武器にもなるし、盾にもなる。当然アタシがレ○プされかけた映像も入っていた。それを使えばアタシの事も脅せた筈だ。なのに簡単に手渡してきた、全く理解不能だ。)


「と…ところでその荷物は何?家出でもする気なの?」

「いや、何ていうか…忘れてた事があってさ。欠席届は出してあるから大丈夫だろ」

「忘れ物…欠席届って、アンタ何処行く気よ?」

「ああ、ちょっと………まで」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


―同時刻―


「ただいま!」

「あら、お帰りなさい。今日は早いのね」


 夕餉の準備が終わる頃、結月家の大黒柱が帰宅した。一見、優男だがハイキングや登山などに幼い頃から聖呀を連れ回した張本人である。


「いやぁ、美味しい匂いがするね。アレ?聖呀は?」

「ん〜、何か女の子に頼まれてたの忘れてたからって出て行ったわよ。確か……」



「『ちょっと、異世界に行ってくる』」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 少しだけ小高い山の中腹に小さなお社がある。元々はこの山とまだ集落だった頃のこの町を守護していた鎮守様だ。もう人が訪れる事も少なくなってきた。年老いたお婆さんがたまに世話をしにくる位だ。有名な大神を奉る大きな社殿のように信仰もも無い大勢の人々が“穢れ”を残していくのでは無く、純粋な気持ちが漂う“生きている”社の神に聖呀は願い奉る。


「俺のような不信心な者が使うのは御不快でしょうが、どうか御容赦下さい」


 【渡界境門】はいわば神の通り道。神社は鳥居を境に人の世と神界を隔てる門だ。社に向かい最敬礼をして振り返ると鳥居の内側に淡い光の幕が煌めいている。許されたという事だろう。

 「有難うございます」ともう一度最敬礼をし、神の通り道へと踏み出した。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「ああ…やっちゃったですヨ。でもこれが最後ですヨ」


 上も下も無いあやふやな世界…、そこに一人の幼女が漂っていた。


「無事に着いてると良いですヨ…」


 自らのミスで巻き込んでしまった異世界の少年。その少年を元の世界に還す為、自分の神威の全てと引き換えに【渡界境門】を開き、光へと帰した。



……筈だった。


「なら何でこんな事考えられるですヨーーー?」

「そんなの俺が居るからに決まってるだろ」


 驚愕で眼をパチクリとさせるダ女神の襟首を掴み、「さあ、急いで戻るぞ」とアイテム欄に放り込んだ。が、【女神:アユミエル】の項目が暴れて煩いのでSDキャラで出す事にした。


「いやいや、その理屈はおかしいですヨ!ちゃんと記憶も消したですヨ?私が再生されてるですヨ!どうやって異世界に来れたですヨーーー!?」

「一度に聞くな!まず記憶はな…」


 消すなら“記憶”だけで無く、“記録”も消すべきだ。しっかり聖呀のスマホに異世界の住人達の画像が残っていた。しかもこのダ女神とのキスシーンまで。それがきっかけで思い出したのだ。

 次に聖呀の世界から神の通り道に入ったはいいが…、


「途中にさ、偉そうな態度のやたら長い白髭を生やした守衛の爺さんが居てさ、いくら説明しても通してくれないんだよ。だから言葉が聞き取り難いのかと思って“身振り手振り”で頼んだらついでにアユミエルも再生してくれた。ちゃんと話せば親切な爺さんだったよ」


(だ…誰をブン殴りやがったですヨォォォォォォォォォ!?)


 一度消滅した神を再生させるなど神を超えた存在しか無いのだが…。知らぬが仏とはまさにこの事だろう。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 女神アユミエルが作り出した世界は現在危機的状況が続いていた。管理者不在の為、異常気象が発生。山々の実りが激減し、草食の魔獣が里へと下り、それを追って肉食系の魔獣までが町や村を襲い始めていた。

 深刻な食料不足と魔獣襲撃の恐怖は人々の心を荒ませ、より豊かな恵み、安全な土地を巡り各地で争いが頻発していた。


「クソ…どうなってやがんだよ!」

「男性の騎士や傭兵達が軒並み……」

「……魔法効かない」

「しかもあの鎧、異常に硬ぇしよ…」

「皆さん、しっかりしてくださいぃぃぃ!」



 【蒼天の嵐】他女性陣がいくら激をとばそうと男達はだらし無い顔付きで腑抜けたままだ。というか女性陣からすれば生理的に嫌悪感すら感じる。一体彼等の中で何が起きているというのだろう。


「つまり、今刃向かっているのが不要物って事さ」

「メスか同種のみの変態か…」

「ごく稀に精神力が強靭な続い強者がいる。これは逆にレアモノだから是非手に入れたい逸品だがな」


 まともに戦える戦力は20%、ましてや物理も魔法も効きが悪い。最早“詰み”状態に思えたその時。



「ニャーハハハ!古来より悪の栄えた試し無し、教えてやろう!あ、性戯の心で!」

「それを言うなら“正義”ですヨ!」



 緊迫した戦場に間の抜けた漫才が轟いた。


 

 

 

 【蒼天の嵐】メンバーが「あ〜〜」と疲れ果てたような目になり、一際高い岩場の上を見詰めた。


「よぉ、お久し振り〜」

「今まで何処に居らしたんですか?」

「出て来るタイミング読むんじゃ無ぇーーーッ!」

「ご主人様!」

「………出たな、変態!」


 まぁ、お約束だからね…。実際「じゃあ、女の子のスカートの中から出れば?」って言われたら「面白いかもね」とは答えるけど、格好良くは無いのは確かだ。


「甘いわッ!」


 陽光を背にポーズを決める影に謎の鎧軍団が魔法を一斉に放つ。


………パタン


「……えっ?」


 岩場の上に現れた勇者は魔法が届く前に電気街で良く見掛ける等身大POPのように倒れた。っていうか、POPそのものだった。


「………早く出ろ、変態」


ゴンッ!


 よく見ればダリアのローブの前がマタニティーウェアねように膨らんでいる。


 …………ホントに居やがった。


「痛っ……酷ぇな…ガキパンのくせに」

「………煩い、返せ!」


 ダリアの顔が赤いのは解るが何故聖呀が口許を拭ったのかは考えない方がいいのだろうか。


「ヌウ…闇の様に黒い髪と眼に奇妙な異国の服。そして何よりもその変態性……。貴様が噂に聞く、女装趣味の鬼畜勇者かッ!?」


 聖呀がよく見知った5人を睨めつけると勢いよく顔を背けた。やはりコイツ等の仕業らしい。だが残念な事にほぼ間違ってはいない、唯一女装趣味という以外は…。

 一応、有るか無いかは知らないが聖呀の名誉の為に言うと、故意にダリアのローブに潜り込んだのでは無く、【渡界境門】を抜けた先がたまたまソコだっただけだ。言うまでも無いが下着を脱がしたのは故意だ。

 POPは格好付けて出ようとした際に落としてしまい、慌てた為に出口がズレてしまった。


「いやぁ〜、目の前が真っ暗だったから驚いたぜ。そしたら何か懐かしい匂いがしてさ、お前相変わらず白パ……」

「………コロス!」


 そこまで口にした時点で【蒼天の嵐】メンバーに袋叩きにされる聖呀。ちなみに“白”を和読みするか中華読みするかは個人の自由だ。


「テメェはもうちょっと状況を見て空気読めエエエエエエッ!」


 蹴り廻されるドサクサに抜き取ったギルドメンバー全員分の下着をティコに手渡すと徐に立ち上がり、辺りを見回す。


「………フム」


 片や全身妙な鎧で統一された軍団、片や様々な衣装に身を包んだ恐そうな女の集団(ちなみに男共は前屈みになっていたり、倒れてヒクヒクしている)。


「……DQNとレディースの厨二病頂上決戦?」

「意味解ん無ぇよ!」



 取り敢えずこの鎧達をどうにかしよう。フェリス達は知り合いだから加勢してやるつもりだが、鎧達の中の人も知り合いだったら対応を考えねばならないからだ。

 アイテム欄の“リュックサック”から持ち手のの付いたU字型の金属棒と円筒形のスプレー缶を取り出した。

 そして先端に球体が付いた棒でU字部分を叩く。クウォォォォォン……という音が響き渡る。


「何やってんだ!?あの鎧にゃ魔法も打撃も斬撃も効かない……ん…だ…」


 もう一度叩くと鎧が小刻みに震えだし、更にもう一度叩くと一斉に亀裂が入り、砕け落ちた。


「……馬鹿な…わっち等の鎧が…」


 聖呀が使ったのは《音叉》で、その共鳴振動で鎧を破壊したのだが、無骨な鎧の中から現れたのは眉目麗しい美貌とコウモリみたいな翼の生えたまことに怪しからん肢体だった。


 女夢魔(サキュバス)……、どうりで男性陣が役に立たない筈だ。違う所が勃ちまくってるのだから。

 正体が曝された事で鎧の中に篭っていた濃厚なフェロモンがいっきに拡散される。花の蜜のように甘い香気が溢れると同時に後方から何とも海産物…栗の花…魚肉ソーセージに似た臭いが立ち篭めた。


「…………臭ッ!」


 トイレ用消臭スプレーを撒き散らすと漸く匂いがおさまったようだ。お部屋の消臭用だとこうはいかない。


「恐るべきは女夢魔の色香だな。流石に危なかったよ…」


 そんな聖呀の戯言に女性全員が『嘘吐けェェェェ!』と突っ込んだ。惑わされるどころか通常運転だ。


「おのれ…【テンプテーション】が効かぬとは聞きしに勝る変態め」


 身構える女夢魔達に聖呀も向き直る。


「そう熱り立ちなさんな、性急過ぎるって。…女夢魔だけに」


『・・・・・』


 聖呀の会心のボケはまたしてもスルーされた。ネタが高等過ぎて通じ無かったかと勘違いし、解説を始めようとする聖呀に冷たい視線が突き付けられる。


「……分かったよ、どうしてもってならコッチも相応の対応をしないとな」


 装備を一新しようとウインドウを開いた聖呀に同じボケをかまそうと《メイド服》を移動させるダ女神はその場で取り押さえられた。





「準備は調った。さぁ、始めようか!」 

 

 以前錬成し、漸く日の目を見た服に着替えた聖呀は髪を撫で上げて最後に白い手袋を嵌め、気合いを入れた。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ