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ダ女神と悪執事の救世術  作者: 式神 影人
19/21

見えなかった真実



 耳のすぐ傍の壁に聖呀の腕が突き立てられた。


「調子乗ってんなよ!」

「な…何よ!?大声出すわよ!」

「出せば?視聴覚室の防音性を超えられるなら」

「だ………ッ!?」


叫ぼうとした瞬間、胸倉を掴んでいた左腕を引き下ろし、前のめりになった腹部に左膝を打ち込む。


「……ゲ…ゲフッ」


 次の瞬間、ミニスカートを捲くり上げ、下着を引き擦り下した。


「っちょ…!?フザケんな!誰がお前何かと!」

「煩ぇよ!」


パーン!


「痛いッ!」


 咄嗟に隠そうとした腕の袖を掴んで上半身を押さえ込む。体の下には膝を入れてるので必然的に下半身を突き上げる形になり、顕わになった臀部を平手で打つ。


「痛いってば!ヤメロ変態ッ!!」


パーンッ!

パーンッ!


 平手で打つ度に白い臀部が赤く染まる。


「ヤメロって言ってんのよ!犯されたって言い触らすわよ!」


 やはり数回叩いた程度では反省しないようだ。……数回では。


「すれば?ちゃんとこの証拠映像も添えてやるよ」

「え…、じょ…冗談でしょ?」


 どうにか振り向いた背後の壁にスマホが掛けられており、その画面には恥ずかしい部分がアップで映し出されていた。


「ヤ…ヤメロ!いや、止めて。写さないで!」


 ここでやっと動揺したチャンスを逃しはしない。右手の薬指を曲げてある一点を掠るように振り下ろす。打ち抜くのでは無く、叩いた瞬間に止める。これで音は派手だが痛みは抑えられる。

 もうお尻は猿のように赤く、痺れ始めているだろう。ワザと掠らせるのを織り交ぜながら離し際に軽く撫でる。痛みと甘い刺激で零れ始めたのだろう。乾いた打音に水音が混じりだした。


「や…ハァ…ハァ…やめ…て…」


 屈辱と怒りで涙を滲ませた頬に赤味がさす。苦しみだけで身悶えているのでは無いのが丸分かりだ。

 人間は限界を超えた苦痛を回避する為、脳内麻薬を分泌し快楽へと変換させる。今、この女を襲っているのは快楽だ。その証拠に流れ出る体液は粘度を増し、敏感な部分はより刺激を貪ろうと体積を増している。


「ヒッ…ア…アアアアアーーーッ!?」


 黄色い液体がスマホに向かってアーチを描き、独特な臭いが立ち込める。


「あ〜あ…漏らしやがった。ちゃんと自分で拭けよ」


 ビクッ…ビクッ…と痙攣する内股から下着を抜き取り、始終を撮り終えたスマホを回収する。


(何だろう…?前にもこんな……)


 妙な既視感を覚えて首を捻りながらドアを開けると奥から聴こえる嗚咽と予鈴のチャイムが重なった。





―5・6限目間の休み―


 5限目の授業中、様子がおかしかった友人に気付いた仲間達が聖呀を屋上へと呼び出した。リーダーっぽいのが正面に立ち、左右に一人ずつ。奥に泣いている女生徒の肩を抱いて慰めているのが一人。


(これも何か見覚えある気が……)


「ネェ!自分が何をしたか解ってるか?って聞いてるのよ」

「そうよ、下着に手を掛けただけで強姦未遂に出来るんだから!」

「この娘がアンタにここまでされる何した?」

「さっさと返しなさいよ!」


 聖呀はハァ…と小さく溜息を吐いた。(何でこんな事が出来るのだろう…?)と。


「返せって……どれを?」


 運動会の万国旗のように紐で結わえられた色取りどりの三角形な布。それに気付いて慌ててスカートを押さえるとその場にしゃがみ込んだ。


「い…いつの間に…」

「ああ…時間だね。早めに取りに来てね、君達の体液や排泄物が付着した布に興味は無いんで」

「ま…待てよ、この変態ヤロー!」


 6限目以降、教室内は少し騒がしかった。普段なら改造した制服を自慢げにアピる女子グループがこぞってスカートの下にジャージを穿いていた。ギリギリまで短くした丈では隠しようも無く、明らかにダサさが浮いていた。

 遠目で眺める者、嘲笑で囁き合う者、普段の行いが分かるようだ。6限目の授業の間、彼女達はただずっと羞恥に堪えるしか無かった。




 やっとこの日の全ての授業が終わり、それぞれの目的地へと向かう放課後。ある者は部活へ、ある者は自宅へと進んでいく。そして席を立った聖呀に5人の女生徒が駆け寄る。


「おい、待てよ。帰る前に渡す物が有るだろう?」

「……渡す物?」

「しらばっくれんな!さっさとアタシ達の………」

「……ネェ、ちょっとアレ…」

「まさか…?」


 窓から身を乗り出して見たのは校舎に囲まれた中庭に在る掲示板。主に学校行事やクラブ勧誘などのポスターが貼られている物だが、大抵はいつも素通りされており、むしろ邪魔だと思っている生徒もいる。

 だが今日に限り、通るのに影響が出る程に人が集まっている。よくは見えないが男子生徒は妙にガキ臭いテンションで盛り上がっていて、女生徒は逆にドン引きしている感じだ。彼等が指差して見詰める話題の原因は……。


「嘘でしょッ!?」

「冗談キツイよ!」

「最っ低ーーーッ!」

「……信じらんない!」

「何考えてんだテメェーーーッ!」


 彼女達は一斉に走り出した。掲示板に曝されている自らの持ち物に向かって……。


 

 

 

 その夜、学校の裏サイトを観た女子グループのリーダーは愕然とした。夕方の一件での書き込みで埋め尽くされていたのだ。

 そもそもは自分のストレスを解消する為に立ち上げたものだ。匿名性を生かして先生への愚痴や気に入らない奴の悪口を書き込んでいた。次第に利用者も増え、自己顕示欲を満たす為、イジメた相手の無様な様子を書き込んだり画像をUPしだした。共感や囃し立てる書き込みに快感を覚え、少々エスカレートはし始めていた。

 だが、その対象が自分達となれば話しは別だ。身勝手な中傷や無責任な妄言がこれ程不快だとは思わなかった。



〔ねぇ、今日の中庭の騒ぎって何?〕

〔掲示板にパンツ貼ってあった。女子の…〕

〔うわ、汚ね…。マジかよ〕

〔マジマジw〕

〔…で、誰の?〕

〔よく知らないけどジャージ穿いた数人が剥がしに来てた。多分ソイツらのだと思う〕

〔え?それって○組の○○か?〕

〔多分そう、これ証拠。[普段の画像][ジャージの画像]〕

〔↑お巡りさんコイツです〕

〔通報しますたw〕

〔っていうと、コイツらノーパンで授業受けてたの?〕

〔変態だ〜〜〜〜!〕

〔でも何でノーパン?脱がされたの?〕

〔普段から調子ノッてたから仕返し喰らったんじゃね?〕

〔犯られてたりしてw〕

〔あんなんヤる奴居るかぁ?w〕〔何か臭そう、病気持ちっぽいし〕



 と、いった感じだ。ロックを架けようとしたが『アクセス権限がありません』と拒絶された。誰かにパスワードを抜かれ、上書きされていたのだ。


『A:ちょ…裏板見た?何アレ!』

『T:何とかしてよ!管理者でしょ』

『F:パスワード書き換えられてんのよ』

『R:画像まで上げられてんじゃん!』

『F:知らないわよ!』

『T:もうヤダ…』

『D:……これもみんな結月の所為』

『R:アイツ使い易いから構ってやってたのに調子乗りやがって…』

『F:そっちは何とかするから任せて』

『ALL:頼んだわよ』


 同時通話アプリを終了させると発信履歴から1つを選びタップした。


「もしもし、アタシだけど……」






―翌朝―


「あら、随分早いのね?」

「ああ、女の子に頼まれちゃってね」


 あらあら、なら仕方ないわねと笑いながら母親は息子を見送った。気の優しい子でありながら最近は逞しさも見え始めていた。そんな我が子の成長を嬉しく思うのだった。




 聖呀の家は町の中心からは少し離れた山の手にある。この時間はまだ人気も疎らだ。だからこういう弊害もある。


「……オメェ、結月 聖呀だよな?」


ガゴッ!


 振り向きざまの聖呀目掛け、鉄パイプが振り下ろされた。




 ぞろぞろとそれぞれのグループで登校する学生達、その顔は互いに明るい笑み……では無く、嘲笑をある5人に向けていた。こそこそと呟くくせに目を向けると何事も無かったように話している。実に陰湿だ。


「……クソッ」

「ネェ、本当に大丈夫なの?貴女の彼氏って結構ヤバいって話しだし」

「大丈夫だって、だからやらせたたんじゃん」

「学校行きたくないよ……」

「………」


 詳細は伝えていない。ただ「生意気な奴がいるからキッチリとシメとて」と頼んだだけだ。スマホに録られたという動画の件は伏せてある。確実に悪用するからだ。

 彼氏は顔も良く、ケンカは強いが馬鹿だ。その仲間も同様。だからアタシが上手く掌で転がしてやらねばならない。甘えておだてて操作する。アタシの気を引きたくて貢いでくるし、犬のように言うことを聞く。

 仲間は大切だ。だから今回の件は許してはいけない、アタシの事も当然だが仲間に恥をかかせた報いはうけさせる。結月 聖呀…アンタは仲間じゃない、アタシ等の言う通り、望む通り役に立つ下僕なんだ。それをシッカリ教え込んで友人の動画データを消させてやる。


 そう考えていた時、スマホの着信音がなる。グループ音からして彼氏からなのは間違いない。


「何々、メール?」

「うん、カレシから…」



《件名:片付けたぜ》


 メールを開くと画像が添付されていた。顔はよく見えないが下半身裸で逆さまな状態で木に縛り付けられている。剥き出しの臀部には鉄パイプらしきものが刺さっていた。


「うわっ…、エグ……」

「ここまでしますかね、普通……」

「アンタのカレシ、やっぱ異常だわ……」

「………小さい」


 その不様かつ凄惨な姿にグループのリーダーは固まっている。


「しかし、笑わせてくれるね」

「これで結月も懲りただろ」

「……どうしたの、顔…青いよ」



「………これ……カレシだ」



「「「「………エッ!?」」」」


「あ、お早うございます、皆さん」


 驚く5人の横をよく見る男子生徒が爽やかな笑顔で通り過ぎて行った。画像には続きがあり、聖呀を襲った彼氏グループ全員が同じ目にあっている画像だった。そして一番最後に……。



《本文:次は誰の番かな〜?》


 

 

 

 背中に嫌な汗が伝う。全身を虫が這うような悪寒が走る。


《本文:次は誰の番かな〜?》


 この意味が分からない程愚かでは無い。その恐怖に動く事すら出来ず、便利な相手だけだった男子を背中を見ていた。





『R:ちょっと、話しが違うじゃない!どうすんのよ!?』

『A:むしろ怒らせただけじゃないですか!』

『T:私、もっと酷い事されるんだあああっ!責任取ってよおおお!』

『D:………私は関係無い、近寄らないで』

『F:ちょ、待ってよ。アンタ達…』



 授業中、こっそりと同時通話アプリで口論を始める5人。その内容は一方的に1人を責め立て、保身を謀るものだった。

 反論を試みようとした瞬間、ブロックされてしまった。つまり絶縁である。


 何故?アタシは皆の為に……。アンタ達が『どうにかして』って言ったんじゃん。何でアタシだけ責められなきゃならないの?

 その後も無視され、逃げられ、ハブられた。そしてその日の夕方……。





「何?何か用?アタシ機嫌悪いんだけど…」


 彼氏に呼び出された集会場。だがいつもの雰囲気では無い事は何と無く気付いていた。


「ハァ?何の用じゃ無ぇよ!オメェの所為でサイアクだっつーの」


 武器を持って5人で囲んだにも拘わらず、たった1人に返り討ちにあったという情報は画像と共にあっという間にネットの海を走り抜けた。

 その不様さと暴力性で形成されていた組織はアッサリと瓦解した。次々に下位グループが足抜けをして対立組織に寝返っていった。

 元々、理不尽な振る舞いにより信頼や結束など無く、その勢力図は混沌とし、パワーバランスを崩したのを機に各グループが各地で始めた小競り合いという消耗戦は国の治安維持組織に絶好の機会を与えてしまったのだ。


「でよ、そのセキニンつーの?コイツ等にオメェをヤラせる事で話しつけといてやったから」

「ハァ?何言ってんの、馬鹿じゃない?何でアタシが」


 冗談じゃない!誰が好きでも無い男と…周りの男達を威嚇するように睨め付ける。


「俺だってコイツが散々ヤリまくった穴なんて嫌だっつーの」

「よく言うぜ、『飽きたから次のにいきてぇ』って言ってたくせによ」


 きっとこの男なら彼女達にも手を出すだろう。いや、出した処でもうどうなろうと知った事では無い。彼女達はアタシを裏切った、だったら彼女達を代わりに差し出せば……。


 そう口にしようとした時、視界がひっくり返り、口を塞がれ手足を押さえ付けられていた。

 ああ…、クソ!ただヤラれてたまるものか、せめて一言悪態でも吐かなければと口を塞ぐ手に思い切り噛みついた。


「ッザケンなッ!誰がアンタ等なんかに!」

「煩ェッ!」


バシッ!


 頬を叩かれ口から血が滲む。何でアタシがこんな利用する価値しか無い奴らに……!?


(何だ…お互い様じゃ無い……)


 そう気付いたら怒りも悲しみも抵抗する気概さえ失せ、四肢に力が入ら無くなった。


「ぁあ?何だコイツ…急に大人しくなりやがった…」

「いいじゃん、面倒臭く無くてよ」


 荒々しくブラウスが破かれ、下着に手がかかる。もうどうでもいいと眼を瞑る……が、一向に押し入ってくる様子が無い。ゆっくりと瞼を開くと伸し掛かっている男は白目を剥いて泡を噴いていた。上半身を押さえ付けている男は蒼白な顔で震えていた。

 グラリと倒れた男の背後から現れたのはチェシャ猫のような笑みを浮かべた聖呀だった。


「ゆ…結月…?」

「オイオイ、アレだけされたのにまだ足りないのか?それとも前立腺を弄りすぎて勃ちっぱなしか?どちらにせよ我が儘な息子さんだな」


 倒れた男の尻には鉄パイプが刺さっている。勿論、聖呀の仕業だ。


「……て…テメェ…」

「ヒィ…」

「何で此処が……」

「だって、誘ってくれたじゃないか、メールで…」


 聖呀の手にはスマホが握られていた。男達のリーダーのスマホだ。聖呀を誘った訳では無い、メンバーの一人がグループ送信を行った為、リーダーのにも届いたのだ。その間も右手に握られた鉄パイプをグリグリと弄んでいる。


「さあて、ゲイ術のお時間といこうか…。タイトルはそうだな……【新境地開拓!目覚めちゃったぁ】でどうかな?」








「た…助けてくれなんて言ってないからな」

「別に……こういう場合、言われなくても助けるでしょ?」


 肩に掛けられた上着を羽織り、胸を抱きしめるように隠しながら呟く少女に事も無げにいう。


 前回の恐怖を思い出したのか、男達は命令されるまでも無く、自分達のリーダーに襲い掛かり次々と少女に向ける筈だったソレを突き立てていた。そのあまりの滑稽さに少女は恐怖も忘れて笑っていた。


「ホラ、好きにしな」


 一部始終を録画した彼氏のスマホを投げて渡した。




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