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ダ女神と悪執事の救世術  作者: 式神 影人
16/21

雪と氷の街《フローザン》



「あれがフローザンか…」


 雪と氷にいう自然の城壁に護られた街、フローザン。そこに聖呀達はやって来た。その殆どが白色に塗り潰された芸術的とも言える美しさに聖呀は言葉を失った。


 途中、アイジアの前で一行を襲ってきた盗賊団だが、9人の男達はアイジアで自ら投降し、盗賊ギルドから抜ける為、冒険者ギルドを訪ねていた。総本部の情報と引き換えに法取引で罪は減免されるだろう。

 そして頭目のダーナだが……。


 聖呀の罠に嵌まり、仲間と居場所を失ったショックからか放心状態のままでフローザンまで同行していた。脅えるで無く、また激昂するでも無く、目の光を失ったまま、まるで人形のようだ。

 フェリスは事情を説明し、冒険者ギルドに彼女の保護を求めた。


「すると、あちらの男性が噂の…。成る程、特徴的ですね」


 見知らぬ異国の服、黒い瞳と髪の毛。道すがら奇異な視線を集めてしまっていた。パッと見、女6人と男1人のパーティー。囁かれる声に


「リア充め、死ねばいいのに…」


とか、


「可哀相に…、苦労してるだろうな」


とか雑じっていたのはスルーした。

 ダーナは聖呀が最初に訪れた町、サーゼンで身柄を預かって貰えるらしい。理由は唯一の女性支部長である為、間違いは起きないだろうというのと、根城にしていたこの北部エリアから王都という大都市を挟んだ先に位置する為、そう簡単に手出し出来ないだろうとふんだからだ。

 丁度フローザンの副支部長が王都を尋ねる用があるので馬車に同乗させて貰えるようだ。因みに副支部長も同行者も女性パーティーとの事なので安心だ。



「ところで、聖呀のその防具。ウインドブレイカーって言ったっけ?凄ぇな、ソレ…」


 偶然とはいえ、ダーナ達を簡単に捕まえる事が出来たのはこれの性能に依るところが大きい。

 防御力自体はソコソコなのだが、元々雨具にもなる防寒着である為、水・氷・風系無効というスキル付きだったのだ。ただし、炎系にはダメージ2倍というデメリットもある。元が石油から作られた化学繊維なのが理由だ。で、ダーナ達が風と氷系のスキル使いだった為、手も足も出なかったというオチだ。

 氷と水は解ったが何故、風も無効だったかだと?だってホラ、名前がウインド(風)ブレイカー(防ぐもの)だからだよ、皆まで言わせんな、恥ずかしい。



 で…話しは戻るが、ここフローザンは林業が盛んなようだった。一年を通してほぼ冬な気候の為、背後にそびえるフローザン山脈の樹木は年輪が細かく、とても硬く締まっていて評判が良い。


「バカヤロー!だからあれ程、注意しろと言ったろうがぁ!」

「ヒイッ……スミマセン!」


 木材加工の工房だろうか、若者が親方らしき男に怒鳴られている。

 ここの材木の特性として、油を染ませる事で柔らかくなり曲げたり伸ばしたりと加工がし易いが、一旦乾いてしまうと二度と調整出来なくなってしまう。どうやら手順を間違えて保管してしまったらしく、1m弱の板の両端が僅かに反ってしまっている。


「キャアッ!?泥棒ーーーーッ!!」


 聖呀達が丁度その工房の脇を過ぎようとした瞬間、目の前を何かが物凄い勢いですり抜けていく。


「スナッチャー(引ったくり)かッ!?」


 足に短めのスキー板のような物を装着した如何にもチンピラ風の男が鞄を手に去っていく。どうやらアイツが犯人らしい。


「ま…待てッ!」


 フェリス達が追い掛けようとするも凍った地面に足をとられ、上手く走れない。


「借りるぜ、おっさん!」

「エッ?おい、コラッ!」


 聖呀はその両端が反った板を投げる様に滑らせると一瞬光に包まれ、その板上に飛び乗り凄まじい速さで滑走していった。




「ヒャハハハ!誰にも俺様を停められ無ぇ。北のスピードキングとは俺様の事でえ!」


 魔法で追い風を作っているのだろう。実際に平地になっても速度が全く落ちていない。

 だが……。


「そいつはどうかな?」


 突然聴こえた声の主を探そうとキョロキョロと辺りを見回す。誰も居ない……?だが自分の影がおかしいのに気付き、空を見上げる。

 陽光を遮る黒い影が急速に大きくなり……。


「ゥ…ウギャアアアアアアアアアッ!?」


 ズズンッ!という地鳴りと共に白い雪煙が立ち上がる。





「ご協力感謝します。オイ、さっさと歩け!」


 不死魔獣群の件で負傷した王都の騎士団の一部がこのフローザンで養生しており、そのまま滞在する事になった衛兵に引ったくり犯は連行されて行った。余罪や背後関係の取り調べを受けてから処分となるだろう。

 聖呀はフェリス達と一緒に走ってきた工房の親方へと走り寄り頭を下げた。


「スミマセンでした!」

「いや…まあ、どのみち使い物に成らなかったから良いけどよ。ソレがそうなのか?」


 聖呀が小脇に抱えている物を興味深げに見詰めている。


「ええ、スノーボードって言います」


 聖呀がコチラの素材のみで錬成した物なので特殊な能力は無いが、聖呀自身の技術だけで充分役立った。

 逃走する引ったくり犯の斜め後ろを滑り、丁度ジャンプ台のような形状をした段差を利用して滑空。落下速に体重を乗せて板ごとラ○ダーキックをお見舞いしたのだ。

 

 

 

 アクティブなアウトドア派のぼっちを舐めんな…………チクショウ。


「凄い!凄いです、ご主人様」

「格好良かったぜ、ヘタレのくせに」

「ええ、とても女性の下着を脱がして喜ぶような御仁には思えませんわ」

「ただの変態じゃ無かったんだな。見直したぜ」

「……貴様はもう変態とは呼べない。良かったな、性癖異常者」


「ハ ハ ハ……有難う。お礼に○ーメンをお腹イッパイご馳走してあげる」


 全く褒めて無いだろテメェ等!という気持ちを笑顔から毀れさせていた。


 その後、工房の親方の元に問い合わせが殺到する事になる。工房で聖呀が使っていた物を売っているのか?値段は幾らだ?とかだ。 そもそも分かる訳がない。作り方なんて錬成した聖呀自身が解って無いのだから。

 しかし流石は親方である、試行錯誤の上に遂に作り出したフローボードは大流行を果たした。商業ギルドは聖呀指導の下、バンクまで完成させて観光都市として更に集客力を上げたのは差し押さえに来た査察団が帰った後となる。




「成る程……確かに無いなぁ」


 フローザン周辺と例の黒爺ぃの潜伏場所である山奥深くの研究所にも訪れてみたが魔法液が満たされた棺桶がいくつかあるだけで死体自体は全く無かった。

 で、何故ここが無事だったかと、あの黒爺ぃがしっかりと“戸締まり”をしていたからだ。つまり結界を張っていた……けど、聖呀が叩いたらパリパリと音を発てて割れた。


 ………昭和のアニメか!


 念の為【アナライズ】+スマホしてみたら………。



「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 いらっしゃった!しかも沢山、満員御礼、埼京線レベルの密度で!

 何が?……って、お肉じゃない方の方々だよ。スマホの液晶にこれでもかって位に。V(^0^)やo(^-^o)(o^-^)oや( ^^)Y☆Y(^^ )や(゜o゜)\(-_-)もいる!

 皆さん、陽気過ぎるだろ!




『アハハハ、ゴメンゴメン。まさか“視える”人だとは思わなかったよ』

『久方振りのお客さんに皆ハシャいじゃって…』

『ここんとこアノ根暗な爺さんだけだったからさ』


 “死体が歩き出す”という噂がたってから墓参りにくる人も居なくなり寂しい思いをしていたらしい。


「あの…良かったんですか?ご遺体の方は……」

『永久氷壁の中ならともかく…』

『あたしのは見たくない状態だったし』

『聞くところによると兄ちゃんが荼毘ってくれたんだろ?サンキューな』


 どうやら黒爺ぃが摂理を捩曲げた為に神の御許にも逝けなかったので悪霊にならぬよう陽気に過ごす事にしたとの事。

 またアイツかよ…、被害届を代筆しておこう。


『ところで、お連れさん達は放っておいて良いのかい?下着とか見えちまってるけど…』


 スマホのカメラアプリを使ってモニターを見せるとフェリス達は自分の背後と画面を何度も見比べて………倒れた。そんな状態で会話をしていた訳だ。


「大丈夫です、後でちゃんと……脱がせておきますから」


 その瞬間、爆笑の渦だった。何故だろう、冗談なんか言ってないのにと聖呀は首を捻った。


『いやぁ、兄ちゃんも中々面白いな。よし、今度飲みに行こうぜ、いい店知ってんだ。酒は美味いし、姉ちゃん達も美人だぜ。羽根の付いた兜被ってけどな』


 ……それは多分、戦場での強引な客引きが問題になってる店じゃないだろうか?


「俺、ひ弱なんで…」とお断りしておいた。



 その後も『アタイ、脱いだら凄いんだぜ?』と言って骨だけになったり、『フフン、昔はこれでもナイスバデーだったんだよ』と若返って見せるお婆さんに「失礼します」と言って胸を揉んだら『触れるの!?』と驚かれたり、腕相撲で勝負したり、ポッキーゲームで突き抜けたりと大いに盛り上がった。



『いやぁ〜、愉しかったぁ』

『本当だねぇ、兄ちゃんに会えて良かったよ』


 口々に感謝を述べる中、リーダーらしき男性がこう言った。


『さぁて、そろそろ“お開き”にしようか。頼めるかい?兄ちゃん…』


 聖呀は黙って頷き、彼女を喚んだ。


「………ハイなのですヨ」


 元の姿に戻り、大きく手を広げると“彼等”は光の粒子となり、天へと昇って行った。

 ……静かだ。つい先程の事が嘘のようだ。何度確認してもモニターには誰もいない。



「皆さんは還って逝かれたですヨ。あとは上司にお任せするですヨ…」


 俯くアユミエルはアイテム欄に帰って行った。彼女も色々思うところもあるだろう、今はそっとしておいて後でご馳走でも作ってやる事にした。


 さて…、聖呀も自分のすべき事を実行に写す。“移す”では無く、“写す”だ。勿論、用事が済めば“元あった状態”に戻して、フォルダ毎に“整理整頓”、ちゃんと“鍵”を架けておく事も忘れない。


 外に出ると朝日が昇り始めていた。仕方が無いよな、彼等は一般的には夜型なのだから。

 薄らと靄が立ち籠める中、山脈の峰に虹が架かっていた。




フォルダ整理の際に見付けた届かない筈の新しい着信履歴。発信人は空白のまま…。


本文:着きました


 そんな簡単な一行の下にはテンションについていけてないのだろう困り顔の長い白髭の爺さんを中心に据えた集合写真が一枚。

 

 ………そして、

 

 

 

 

SUB:『アリガトウ』

 

 


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