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ダ女神と悪執事の救世術  作者: 式神 影人
15/21

盗賊団のダーナ


 バトゥの村での野犬騒動も村の新たなる門出と共に解決を見たので聖呀とその愉快な同行者達の旅も次の目的地へと……はいかなかった。




「供物を捧げる時間のお知らせですヨーーーッ!」

「飯〜、飯〜、腹減ったよ〜」

「ちょっとリンクス、はしたないですわよ。ところでシェフ、まだですの?」

「………事態は急を擁する。急げ、変態」

〔ワン!…ワン!…〕

「ハイハイ、今作ってますよ!」


 ケルベロス退治を手伝う事をあのダ女神が本人の承諾も無しに取り付けてしまった為、現在バトゥ村にある冒険者ギルド直営の宿屋厨房にて聖呀が孤軍奮闘中である。

 メニューは


・黒山羊のミルク

・燕麦パンのフレンチトースト

・トライス鶏のスクランブルエッグ

・和風ドレッシングの野菜サラダ

・黒山羊肉のソーセージ、ケチャップ&マスタード添え


となっている。


 折角新鮮な材料があるので使わせて貰ったのだが、何が珍しいのか村の女衆までが見学していて落ち着かない。

 しかもフェリス達は大飯喰らいなので一人に付き2枚、合計13枚も焼かねばならないので大変だった。


「まぁ、忙しいのは解るけどよ。早くしてやってくれ、空腹過ぎてティコが犬化し始めた」

「えっ?私何も言ってませんよ」



「「「「………えっ?」」」」




 確かティコが座ってる辺りから声がしたがとテーブルの下を覗くと小さな黒い仔犬がキチンとお座りして尻尾を振っていた(ただし3つ首)。




「か…可愛いですわ〜」

「これ、昨日のケルベロスか?」

「尻尾は蛇じゃ無くなってるな」

「……何故、ここにいる」



 バトゥ村を出て2時間。お腹一杯のケルベロスは嬉しそうに聖呀の周りを走り回っている。

 ティコの通訳によると、かなり前からケルベロスの餌となる死体が激減し始めて、空腹に耐え兼ねて住み処のフローザン山脈から下りてきたらしい。途中までは臭いがしていたのだが、バトゥより北にある荒れ地で跡絶えたようだ。


〔ワン!ワンワン!〕

「黒くて耳が尖ったお爺さんが勝手に山に住み着いてからご飯が無くなったって……」


 ケルベロスはその耳が尖った黒い爺さんが餌を持って行ったと思っているらしい。

 何だろう…?ごく最近聴いたワードがある様な……。


「死体…黒い爺さん…北の荒れ地……突然消えた臭い…」


 「ああッ!?」っと叫ぶ聖呀に驚愕の視線が集まる。

 こんな所でも間接的とはいえあの不死の魔獣群の件が影響していた。そういえば墓まで掘り返してという話があったが、つまりケルベロスの餌場を荒らしたって事だ。そしてバトゥの村もケルベロスの被害に遭った。どんだけ迷惑掛けてるんだ、あの黒爺ィ。


 これはバトゥ村の宿屋に派遣されている冒険者ギルドの職員を通じて損害賠償をさせねばなるまいと知らせに戻ろうとしたが、


「お前が行くとアタシらも行かなきゃいけないだろうが!」


とか、


「また、往復4時間ですか!?」


とか、批難が集中する事となる。【神速】を使えば打ち合わせ込みで往復20分で済むのだが、やはり【蒼天の嵐】メンバーが足手まといになっている気がする。


 結局、パーティーで最速を誇るリンクスが行く事になったのだが、それでも1時間は掛かるだろう。仕方が無いので残りのメンバーはこの場で待機となった。




「そぉれ、取って来い!」

〔ワンッ!〕


 何をしているかと言うと、燕麦パンを使ったフリスビードッグである。食べ物を粗末にするなと言われそうだが、使った燕麦パンはケルベロスの餌になるので問題は無い。

 むしろ問題は別にあった。


「結構頭良いんだな」

「完全調教済みですわね…」


 遊び方をすぐに理解した“クロ”(ケルベロスの名前、命名:聖呀)がフリスビーを空中でキャッチして戻ってくる度に耳の後ろやお腹をワシワシしてやる。野生動物が弱い腹部を晒すという事は服従を意味しているからだ。

 そしてそんな聖呀とクロのやり取りを指をくわえて羨ましそうに見詰める者が約一名。


「もう一度いくぞ、それッ!」


 ヒュンと投げられた燕麦パンをパクっとくわえて戻って来たのは誰あろう犬の獣人ティコだった。

 何故クロにライバル心を燃やすのか解らないが、お座り体勢でのねだるような上目遣いは何を要求しているかは判る気がする。


「………え〜っと」


 取り敢えず頭を撫でてやると嬉しそうに眼を蕩かせた。


「……他には芸は無いの?」


 またダリアが余計な事を聞いてきたが、リンクスが戻るまでまだ掛かりそうなので一応試してみる。


「お手!」

「おかわり!」

「おまわり!」

「伏せ!」


 初めてなのに完璧に理解していた。多分、聖呀の脳内イメージを読み取っているのだろう。何故か横でティコも真似をしていたが…。

 そして最後の命令だが…。

 

 

 

「チンチン!」


 「えっ!?」と眼を丸くするフェリス達3人だがクロは多少よろけながらもちゃんと後ろ脚立ちでポーズを取った。

 まさか出来るとは思わなかったので思い切り頭を撫でてやったのだが、何を勘違いしたのかティコが涙目で立て膝をついて裾を捲くり、下着を下ろそうとしていた。


「っちょ…、ソコを見せろって意味じゃ無いからっ!!」


 慌ててティコの手を抑えると顔を真っ赤にしながらシュン…と俯いた。


「だ…だよなぁ?」

「で…ですわよね」

「……変態」


 他3名も同じ勘違いをしていたのか、引き攣った笑顔を浮かべながら明後日の方を向いていた。


「ハァ…」


 誤解が解けた事に安堵し、ヤレヤレと溜め息を吐きながら横を向くとアユミエルが慌てて裾を直していた。

 しまった…。ここにもアホの子が居た……と聖呀は頭を抱えるのだった。

 やはり最初に裸で道案内をさせたのが悪かったのだろうか、それとも街中をノーパンで歩かせたからだろうか…。ティコは完全に道を誤ってしまっていた。




 遊び疲れたのかクロは胡座をかいた足の上で寝てしまった。こうして見ると本当に仔犬のようだ。……3つ首さえ気にしなければ。


 しかし、このままでは野生の魔獣と同じなので聖呀は何かないかとアイテム欄を覗いてみた。持ち込んだ物に使えそうな物は無かったが、以前ある服を生成した時の余り素材に気が付いた。それ程残っては無いがどうにかなるだろう。

 聖呀はアイテム欄から〔トカゲの革〕の端切れを取り出すと平らな岩の上に置き、パン!パン!と例の手順を踏んだ。

 魔法陣に〔トカゲの革〕が吸い込まれると換わりに3個の首輪が出来た。それをクロの首に巻いてやる。これで飼い犬と分かるだろう。

 ここでまたティコがヤキモチを妬き始めてしまった。肩に頭をもたげるように身体を預けて来ていたのだが、所有物の証ともいえる“首輪”が欲しくて仕方が無いらしい。

 だがティコはこの世界での人類、獣人という種族で、ましてや他所のパーティーメンバー。流石に自重して欲しい旨を伝えると明らかにショックを受け、みるみる落ち込んでいった。




 そんな微妙な空気の中、リンクスが息を弾ませ帰ってきた。初めは奇妙な雰囲気に首を傾げていたが、聖呀が成果を尋ねるとニヤッと笑い、親指を立てた。


 宿の職員はてっきり忘れ物でもあったかと思ったらしいが、聖呀からの資産を差し押さえて賠償金に充てる提案を伝えると、かなり悪い笑顔を浮かべたようだ。

 職員自身もダークエルフで本来は王都勤務だったのが不死の乱の一件で謂われ無き風評被害に晒されたらしく、渋々バトゥへの転属を承諾したとの事で、


『ククク…見とれよ、あのダークエルフの面汚しめ。ケツ毛1本も残させんからなぁ!』


と意気込んでいたようだ。

 もっとも資産の差し押さえをするにも聖呀達がフローザン周辺の安全を確認出来次第なのだろうが。


 また今回の件を間近で見てきた彼は中抜きなど漁夫の利を狙う不逞の輩には聖呀が処罰に向かう事、そして代替わりしたばかりの村のフォローとばかりに“魔の銀狼、復活!野に放たれる”という報告も併せて行ったらしい。魔の銀狼とはヨゼフが全盛期の通り名だ。それが“居なく”なったでは無く、“自由に”なった。知る者にとってこれ程の恐怖は無い。

 聖呀が考えていた以上に手配してくれたようで頼もしい限りだが、何故だろう?聖呀の中のダークエルフの株があまり上がらない。


「……リンクスが戻ったんだ、先を急ぐぞ変態」


 今度、泣くまで鳴かせてやろうかコイツ……と思うのだった。




「次の町はアイジアだな。ここには小さいながら冒険者ギルドと教会もある。そして何より……」


 その先は予想がついた。風に運ばれてゆで卵のような匂いが濃くなってくる。あちこちに立つ煙りは源泉の湯気だろう。


 しかしかなり北上した事により体感温度が下がってきている。そろそろ念の為、防寒具を着る事にした。

 聖呀が袖を通したこのウインド・ブレイカーは最近人気は下火だが中々に優秀なものである。

 まず、生地が薄くて軽いので動き易い。で、あるにも拘わらず結構保温性が高い。しかもフードが襟に内蔵されていて撥水性が高いので雨具としても使える。


 では他のメンバーはというと、アユミエルはクロと共にアイテム欄に退避。ティコがクロに対し必要以上に対抗心を燃やすので面倒臭いからだ。

 フェリス達は見た目が変わらないので火の結晶石をカイロ代わりに使っているのだろう。

 だが猫の獣人の血をひくリンクスはかなり寒そうだ。素早さを売りとする彼女は他のメンバーよりかなり軽装である。ショートブーツにニーハイ、ホットパンツ、Tシャツの上に胸当てとベストの様なショート丈のレザーアーマーだ。かろうじて首周りのボアが温そうには見える。


「……これしきの寒さで震えるなんて鍛練不足」


 魔法使い定番のロングワンピースに長袖のジャケットを着ているダリアが言うか?とも思うが生地自体はそんなに厚く無い。ファッション性より実用性重視なのだろう。

 

 

 

「ほぉ、言ってくれるじゃねぇか。ダリアっ!」


 素早く後ろに回り込むとスカートを思い切り捲くり上げた。白いスリップが眩しいが、問題はその下。モコモコした少々野暮ったいズボンを穿いていた。かなり膨らんでいるので何枚か重ね穿きしてるのだろう。ジャージ穿いてる田舎のJKかお前は…。


「よく言えたもんだなぁ。色気も何も………あ、元から無いか」


 リンクスが胸元で手を真っ直ぐ下に滑らせる。リンクス自身も決して大きくは無いがそれでもCはあるだろう。


「……こ…これはそこの変態対策、寒い訳じゃない。あと貧乳は希少ステータスだから」


 ちなみにアスタシア→フェリス→リンクス→ティコ→ダリアの順である。勿論、何がとは言わないが…。



 そろそろアイジアの一部でも見えてくるかなぁと思った頃、岩壁に挟まれた決して広くない街道。時折馬車が擦れ違う為の避難所らしきスペースもあるが絶好のポイントだろう。何の?と言われれば……。


カッ!


 一行の足元に一本の矢が突き刺さる。


「キャーーッハハハハ!命が惜しけりゃ身ぐるみ置いてきな!」


 と、言う訳である。




「で、御用の向きは何でしたっけ?」


 岩壁の上から颯爽と姿を現した女頭目を始めとする総勢10名の盗賊団だが囮として一人先行していた聖呀におびき出されて、後ろに【蒼天の嵐】、前に回り込んだクロに挟まれ、アッサリと捕縛されてしまった。


 どうやらこの辺りを根城にしている盗賊ギルドの末端らしい。

 9人の男達は背後から口を開けているクロがいるので完全に腰が抜けて動け無いでいる。頭目のダーナは十文字縄で座らされている。


「フン、何をしようと無駄だよ」


 末端とはいえ、9人の荒くれ者を纏める者だ。胆が据わっている、まだ若いのに大したものだ。


「いえ、少しお話しがしたかっただけで、あ…良かったら温かい飲み物をどうぞ」


 聖呀の位置から風下に焚火が焚かれ、そこにはミルクが注がれた鍋が湯気をたてている。そこに紅茶の茶葉を入れて煮ている。つまりインド式ミルクティーのチャイだ。


「何やってんだアイツ…」

「十文字縄…。抜けようと藻掻けば藻掻く程、首が絞まる型ですわ」

「……脚、自由」


 捕まえた盗賊団を相手に悠長にティータイムしてないで早くアイジアに行きたいメンバーは焚火で暖をとっている。


「俺、甘党なんで砂糖タップリ入れちゃいますけど」


 ドパドパと砂糖を入れて掻き混ぜながら味見して、足りないなぁ…と追加する。


「さ…砂糖だってぇぇぇぇ!?」


(砂糖は大陸の更に南の島でしか採れない、だからこの北の地では超贅沢品だ。なのにこのガキは惜し気も無く、あんなに大量に…?)


 聖呀は鍋から掬ったチャイの茶葉を漉しながらマグカップに注いで一口含むと、


「ああ、何か足りないと思った!」


とリュックサックから小瓶を取り出すと中の粉を振り入れる。ミルクの濃厚な匂い、紅茶の芳醇な薫り、砂糖の甘い香りに複雑で刺激的な何かが加わり、得も言われぬ至高が出来上がる。


「やっぱりコレがないと…」


 聖呀が振り入れたのはガラム・マサラ。数種類の香辛料を配合したスパイスで、カレーに入れるとグッと風味を増す。ちなみに聖呀が作ったのはマサラ・チャイだ。


「あ、他にもカルダモンやクローブ、スターアニスにシナモンも有りますから、お好きな物で…」


……ゴクッ


 砂糖だけでも大概なのに聖呀は高価な香辛料を次々と出す。どれもが人間の食欲を刺激する香りだ。

 溢れ出る唾液を我慢出来ないダーナは残ったか細いプライドでどうにか自分を繋ぎ止めていたが、


「あ、毒味なら俺が飲みますし、何でしたらお連れの方々にも……足りるかな?」


わざとらしく鍋を掻き交ぜるのを見て……落ちた。


「う…美味い…美味過ぎる!甘くて温かくてピリッと刺激的で…」


 後ろ手に上半身を縛られている為に聖呀が飲ませてやっている。

 生姜や香辛料の効果で身体の中からポカポカと熱が伝わり、うっすら汗も浮かんでいる。肌が赤みを増し、ウットリと瞳を潤ませ堪能するダーナのさまは煽情的ですらあった。


 もう3杯めを口にし始めたのを見て、同行者である食いしん坊ギルドのメンバーが大人しくしている筈が無い。コッソリと自分達のカップに注ぎ始めていた。


「お気に召して頂き何よりです」


 オーバーアクション気味に礼を述べる聖呀の掌が自分達に向けられているのに気付いたティコが小声でメンバーに通達する。


「ご主人様の指示か出ました。“待て”です」


 散々クロと張り合っていたティコだからその意味に気付いたのだろう。フェリス達は不満を口に出そうとした時、ダーナの様子がおかしい事に気が付いた。小刻みに震え、キョロキョロと視線を散らして妙に落ち着きが無い。

 



 ダーナが座らされているのは地面の上。吹き曝しの状態で大量の汗を掻き、その上かなりの水分を摂取している。そんな事をすればどうなるか……?


 ダーナの顔色は赤いどころか真っ青になって、ギュッと閉じた眦には涙さえ滲んでいる。

 立ち上がろうとするダーナの肩に手を乗せるとビクッと震える。。


「もう一杯、如何ですか?」


 ニッコリと微笑む聖呀、その笑顔にダーナは自分の状況を理解…いや、そうなるよう仕向けられたのだと悟った。


「…グッ……ウウッ……」


 冷や汗は脂汗へと変わり、最早限界を超えようとしていた。内股をグッと閉じた身体が徐々に前のめりになっていく。


「どうしました、お加減でも?」

「て…テメェ……」


 肩に置かれた手には大して力は篭められていないのに立ち上がる事が出来ない。抗おうと力を篭めれば取り返しがつかない事になる。焦る程に思考力が低下していく。


「宜しければお連れさんも如何です?」

「……ッ!」


 自分から意識が逸れた一瞬の隙を点き、ダーナは走り出した。それも聖呀の演出だとも気付く余裕も無く…。


「あ〜あ、アイツ一人で逃げやがったよ」

「見捨てられたようですわね」


 聖呀の狙いに気付いたフェリスとアスタシアが追い討ちをかける。そう、組織としての結束を崩壊させる事こそが狙いだった。

 裏切られたと感じた手下は最早従う事は無いだろう。彼等からでも、ある程度の情報は聞き出せるだろう。情報が洩れた事が知れても口裏を合わせば済む事だ。

 頭目の仕上げは聖呀に任せればいい。蒼天の嵐はこの“憐れ”な男達を聖母のような優しさで追い詰めるのが役目だ。




「ハァ…ハァ…ハァ…」


 ダーナは走った。いや、走ったつもりでいた。実際は内股を擦り合わすように閉じているので歩幅は小さい。ただ出来るだけあの場から離れたかった。聖呀という男の策にまんまと嵌まり、最大のピンチを迎えてしまった。あのままでは頭目としての立場も人としての尊厳も失ってしまう。

 漸く見付けた大きな岩場の陰、ここなら……。

 そう安堵したダーナに非情な現実が突き付けられる。上半身を縛られている為、手が使えない。このままでは下着を下ろすどころかベルトを緩める事すら出来ない。 縄を抜けようと動くほどに首が絞まっていく。


(く…苦しい…)


 もう僅かでも気を抜けば忽ち決壊してしまう。その場に蹲るダーナの背後から声がした。


「捜しましたよ、頭目さん」


 黒髪の悪魔がゆっくりと近付いて来る。


「く…来るな…来るんじゃ無ぇ!」

「かなりお辛そうですね、何でしたらお手伝いしましょうか?」


 誰がテメェ何かに!そう言う筈だった。プライドに賭けて屈するつもりは無かった。だが実際に口にしたのは…。


「た…頼む…何でも話す。何でもする、いやさせて下さい!何をしてもいい………だから…だから……」






「あ、戻ってきましたよ。ご主人様ぁ!」


 連れ戻されたダーナは自分の目を疑った。配下の男達が談笑していたのだ。武器も持っているにも拘わらず、戦おうという様子も無い。

 むしろダーナが帰ってきたのを確認すると、無表情で蔑むような冷たい視線で睨めつける。


「お…お前達…」


 ダーナは姿を消したと思ったら暫くして連れ戻されてきた。上半身は縄で縛られたまま。下半身は下着は着けているとはいえ、ズボンを穿いておらず、そのズボンは縄を握る隣の男の肩に掛けられている。涙の跡が残る頬を見れば何かがあったのだと勘繰るのは当然であろう。


 だが蒼天の嵐メンバーは違う。自分達に対してもそうだったように、聖呀はこの女頭目に何もしていない。むしろただ“観て”いただけだと感んじ取っていた。


「さて、ダーナさんでしたっけ。貴女はどうされます?彼等はアイジアで転職されるそうですが」

「……ッ!?」


 ダーナはここで初めて何が起きているか気が付いた。彼等が自分に向ける視線のその理由に…。


 真実などは関係ない。山賊を装って標的を拉致する任務に失敗して逆に捕まった挙句、手下を見捨てて自分だけ逃走。再びすぐに捕まえられて辱めを受けた裏切り者、それが彼等にとっての事実なのだと。

 いくら言葉を尽くそうと無意味だ。絆が深ければ深い程、その反動は大きい。そんな彼等と同行すればどうなるか……想像するに堪えなかった。



「ゥ…ゥウッ……ウワアアアアアアアアアアアアアーーーーーッ!!」



 ダーナは背後から這い寄る絶望に心は完全に砕け、膝を折って人目も憚らず号泣した。

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