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ダ女神と悪執事の救世術  作者: 式神 影人
13/21

【番外編】潮騒の音

これは本編の脇役にスポットを当てた短篇です

極力表現はぼかしてありますが、内容がアレなので不愉快に感じられる場合もあるかと思いますので苦手な方はスルー推奨です

また運営さんに怒られるかもしれませんので興味のある方はお早めにw


「い…嫌ッ!止めて…こ…これ以上は……だ…駄目……もう…」


 ここは遥か南の果てに位置する海辺の小さな村。そんな辺境の地で小さな食堂を営む女性がいた。 歳の頃なら20才位だろう。村人や海を渡る旅人に美味い飯を出す美人女将の店として名を知られ始めていた。たまに夜中に魘されるような声が聞こえて来るが、こんな辺鄙な村へ来る以上、昔に何かあったのだろうと村人は察して優しくしてくれていた。


「嫌アアアアアアアアアーーーーッ!!」



 またあの夢だ…。あの日以来、連日のように魘され続け、この間までは3〜4日に1度はこの悪夢に魘され、漸くこの1ヶ月は鎮まっていたと思っていたのに……。

 全身は冷汗でジットリと濡れている。そして一部は違うモノで……。

 彼女の名前は“カチュア”。かつて“死の猟犬”と畏れられた元【黒狼の牙】の一人だ。何故“元”かというと、盗賊ギルド【黒狼の牙】は今は存在しない。あの日、目標だったたった一人の少年に再起不能なまでに追い込まれ、解散を余儀なくされたからだ。




 初め指令を受けた時は別段何も感じなかった。これまで受けてきた指令にはもっとヤバいものはあったし、実際に目視した標的は全く威圧感も感じない隙だらけのただの少年だったのだから。


 護衛らしき数名のパーティーが付いていたが、負ける気はし無かった。北からの魔獣の群れを殲滅したという噂も単に尾鰭が付いたものだと思える程、無防備に一人で森へと入って来た所を取り囲んで攫うつもりだった。

 一本の木の前に立つと何やらゴソゴソ始めたので、おそらく用足しにきたのだろう。

 リーダーからの合図と共に5人が一斉に飛び掛かり、それで終わる。………だがその瞬間、目標が煙の様に掻き消えると次の一瞬で目の前が真っ暗闇に包まれた。




 次に目を醒ました時に視界に入ったのは縄で縛られ、下半身裸の仲間の男達。皆、俯せでお尻にはそれぞれの武器が突き立てられた状態で俯していた。意識をハッキリさせようと首を振ると少し離れた木に仲間の女がこれも見た事の無い縛り方で吊されてグッタリとしている。

 早く助けねば……と動こうとしても腕一本も動かせず、足も地面を踏んでいない。藻掻ば藻掻く程、身体に痛みが走り、今自分がどうなっているかと気が付いた。


(……やられたの?…あの一瞬で…?)


 視線を降ろすと胸が露わにされており、穿いていた筈のズボンも無い。肌を撫でる風で下着も剥ぎ取られているのが解った。自身も知らない形で全身を縛られて木に括られているようだ。言葉は出ない、同じ様に猿轡をされており、これでは舌を噛み切る事さえ出来はしない。


 反対側に標的の少年が立っていた。自分をこんな姿にしたのだ、これから何をされるかなど考えるまでも無い。これまでの男達と同じ、その欲望と本能に従うのだろう。だが、それならばまだ望みはある。胎内に仕込んだ毒袋を突き破りさえすれば粘膜から染み込んでいき、動け無くなる。自分が死なない限り、敗北では無いのだから。




 ――幼い頃、生まれ育った村を襲った盗賊団に攫れて以来、在りとあらゆる房中術と暗殺術を叩き込まれ続け、感情を削がれて涙も涸れ果てた頃、生き延びる為に仲が良かった同輩をこの手にかけた事で殺人玩具としての自分が完成した。

 それからはどんな痛みや苦痛も、イボ猪の様に醜い腹の出た男に抱かれようと、首筋から噴き出す生暖かい返り血を全身に浴びようと何も感じる事は無くなっていた。使命を果たす達成感も無かった。ただ、騙し、取り入り、殺す……そんな日々だった。


 だからこの少年がどんな変質的な責めを行おうと何も感じ無かった………筈だった。


 ――では、何故こんなにも乱れている?喘いでいる?


 少年は挿入すらしなかった。ただ触れるか触れないかの微かで優しい愛撫を繰り返すだけだった。 敏感な部分にすら触れない、なのに触れられた部分がまるで氷が溶けるようにジワリと熱をもってくる。

 視界の端で何かが動いた。もう一人の彼女が目を覚ましたに違いない。助けを求めようと振り向く。


「………ッ!?」


 彼女は項垂れたままだった…。クルリと向けられた下半身、そこから滝のように伝う体液と痙攣する大腿部。既に少年によって堕とされていたのだ。

 堕とされる訳にはいかない、自分は発情期すら克服したじゃないか…、そう気を張る程に甘く切ない刺激がもどかしく拡がる。

 もう全身が性感帯にでもなったように軽いうねりの波が立ち始めてきた。


(ン…ンン……誰か…助けて…)


 目の前の男3人に目を向ける。彼らが目覚めて様子を覗っているのが分かった。その証拠に彼らのが苦しい程に存在を主張している。


(み…観られているの?房中術の演技では無く、本気で感じ始めている姿を…)


 

 そう知った瞬間、腹部の奥がキュンとなり、大きな波が押し寄せた。ここでやっと少年の指が狂おしく求め始めた部分に触れる。あくまでも繊細で微妙なタッチで。


(ああ…駄目…止まらない…)


 中から止め処無く溢れ、臀部まで滴る体液はきっと凍り付かせた自分の心に違いない。こんなにも…こんなにも恥ずかしいと感じ始めているのだから。


 羞恥に藻掻く身体に縄が食い込む痛みすら心地好くなってきた。


(こ…このままじゃ………ッ!?)


『コレ…何か解る?』


 耳たぶを甘噛みしながら少年が囁く。目の前には何かの魔道具であろうか四角い板状の物がさしだされる。板からは紐が伸びていて、上のは反対側の耳に捩込まれ、下の紐は何かに繋がっているようだ。

 板の黒い部分に何かが映し出されている。酷くグロテスクで卑猥に濡れそぼった物体。自分の身体が波に襲われる度にソレも痙攣し、蜜を滴らせる。


『どうなってる?さぁ…答えて…』


 猿轡を外されてももう舌を噛み切る気力も無かった。そしてソレが自分の“女”の部分であると直感すると思わず目を逸らした。

 何と卑猥で浅ましいのだろう。明らかに何かを欲している。これまでこんなものを男達に晒してきたのだ、そして今も……。

 意識を逸らそうとすればする程、前の3人の視線を感じてしまう。


『「い……嫌…」』


 自分の漏らした声と水音が耳に捩込まれた物から聴こえる。水音の発生源は疑うまでも無い。

 恥ずかしさのあまりもう気がおかしくなりそうだ。

 囁かれる毎に耳腔に髪に少年の息がかかり、その度身体の奥が爆ぜる。

 もう何度達したかも分からない。大きな波に押し流されていく。


『仕方が無いなぁ……じゃあコレは?』


 魔道具に映るものが縄の結び目から肌色の双丘へと流れ、更にその上に移動する。魔道具の板の隣に現れた円筒状の物は中心に水晶の様な物が嵌め込まれている。丁度“眼”と同じ働きをするのだろう。円筒が“視”ているのは苦痛と恥辱に堪え、歪んだ女の顔の筈だ…。


(え……?悦んでいる………!?)


 精神とは裏腹に魔道具に映る自分は悦楽の笑みを浮かべていた。

 その瞬間、カチュアの最後の何かが小さな音を発てて………切れた。


 それからカチュアの身体は貪欲なまでに快楽を貪った。理性の糸という“箍”を失った事で、絶頂を迎える度に無理矢理引きずり戻され、また逝き続けるという繰り返し。耳と眼が送り込むもう一人の自分は自身が“女”である事を深く刻み込んでいった。



 やがて逝き疲れて気絶する直前、カチュアの視界に入ったのはコチラを侮蔑するように見詰める女エルフだった……。


・・・・・


 どれ位、気を失っていたのだろう?息苦しさに目覚めると視界は浅黒い肌色一色だった。状況を判断するに仲間の男の一人が自分の頭を抱えるように口に捩込んだモノごと腰を振っているのだろう。下腹部にも圧迫感と衝撃を感じるから残りの誰かがそうしているのだ。

 横に目をやればもう一人の男が彼女に伸しか掛かり、一心不乱に腰を動かしていた。恐らくは標的である少年が立ち去ったのを確認後、縄を解いて襲い掛かってきたのだろう。まぁ、あれ程の痴態を見せ付けられ続けたのだから我慢も限界を超えるか。

 胎内に仕込んだ毒袋は取り出されているに違いない。そこまでコイツらも馬鹿ではあるまい…。

 だが、カチュアの心は以前のように褪めていた。あれ程逝かされ続け敏感になっている筈の身体が小さな波すら全く感じないのだ。

 まぁ、当然の事だろう…。これは女を逝かせるのでは無く、ただ自分達の欲望を晴らす為だけの行為だ。向こうの彼女もその瞳に光は戻っておらず、人形のように横たわっているだけだ。


(……違う……コレじゃない)


 あれ程欲して、待ち望んでいた筈なのにいくら突かれようと出されようとざわめきすら起きない。


(どうでもいいから早く終われ…)


 別に被虐趣味がある訳でも無いし、羞恥プレイに目覚めた訳でも無い。ただあの悦びを感じ無いだけだ。その代わり自分を慰み物にしている男達にも憤りを感じない。あの護衛の女達みたいに彼について行けばもう一度感じられるのだろうか……、そう思うだけだった。

 コイツらも女を堕とす房中術を叩き込まれている筈なのになぁ…。死の猟犬と畏れられた【黒狼の牙】もこれじゃあただの猿と同じだ。

 男達の動きがせわしなくなり、何度目かの“終わり”が近付き、いよいよその瞬間が来ようとした瞬間、急に雨のように生暖かいものが降り注いだ。男のモノでも小水でも無い、錆びた鉄のような臭い。それは血だ!

 本能に鳴り響くアラーム。カチュアは咄嗟に前の男を突き飛ばし、後ろを振り向くと肩から上が無い男が倒れ込んできて、その後ろに剣を突き立てようと腕を掲げていた。


(駄目だ…間に合わない)

 

 


ドスッ!


 振り下ろされた剣は胸では無く、カチュアの頭の横に突き立っていた。

 見上げれば仮面に黒いローブを被った男の手首から先が無くなっており、その斜め後ろには目を凝らさねば判らない程に極細の糸に血が伝っていた。

 悲鳴を上げて藻掻くローブの男を横へ蹴飛ばすと今度は胴体が真っ二つなった。

どうやら刃鋼線のワイヤートラップが仕掛けられているようだ。

 即座に左へと転がり、自分の服から2本のナイフを取り出すと片方で別の男のショートソードを受け、もう片方を背中を斬られた男に伸し掛かる男ごと刺し貫こうとする別の男の背中目掛けて投げ付けた。


 そこでやっと目覚めた彼女が乗っかっている男を押し退け、ローブを纏っている男が落とした剣をその胸目掛けて突き上げる。


 最後のリーダーらしき男の股間目掛けて蹴り上げるが間一髪仮面を弾き飛ばすに留まった。

 慌ててローブで隠そうとするが、その顔には見覚えが…、いや見間違う筈が無い。かつて村を襲い、自分をこの地獄に叩き落とした窃盗団の一人だ。

 カチュアは手首が剥がれ落ちた剣を拾うと仇目掛けて振り下ろす。当然、男に剣で受けられるがそれはフェイント。振り下ろす勢いのまましゃがみ込み、男の腹をナイフで横に薙ぎ払う。

 パックリ開いた腹からこぼれ落ちる内臓を慌てて掻き集めようと座り込んだ背後から首を一閃、噴水のように上がる血飛沫がカチュアに降り注いだ。



 この男達は【黒狼の牙】が失敗…いや、例え成功したとしても口封じの為に送られた別動隊の抹殺班だったのだろう。

 脱がされた服を着直して、男達から有用な物だけ漁ると、遺体を一纏めにして自爆用の仕掛けを起動させた。

 もう一人の彼女と肩を抱き合い、重い身体を引き擦りながら森を後にした。


 丁度道が二岐に別れた場所で彼女とも別れ、見えない追っ手の影に怯えつつ、山や森、時には人里の納屋に身を潜ませ各地を転々としていた。


 そして半年前に流れ着いた先がこの海辺の村だった。この近くには冒険者ギルドがある街は無く、偶然通りかかった旅の行商人からカチュアが所属していた盗賊ギルドの総本部が壊滅させられたとの話を聴く事が出来た。

 あの森で殺人玩具から人間のメスに引き戻された日から丁度1ヶ月後の事だ。

 討伐部隊の中に黒髪の異国の服を纏った少年もいたらしい。


 あの時、抹殺班の腕を落とした刃鋼線のワイヤートラップは彼の仕業だったのだろうか?いや、追撃させない為なら幾らでもチャンスはあった。わざわざ生かしておく必要は無い…。

 なら、あの女エルフが仕掛けたのだろう。


(やる事がエグイわね…まるで……)


 まるで自分達……、そう考えた時、得心がいった。彼女も元盗賊ギルド所属なのだと。

 もっとも、そのトラップが逆に助けた事になるのだから世の中皮肉なものだ。


 やっと常連客もつき、軌道に乗り始めたこの店だけど、どうも客足が…、いや人の行き来自体が減り始めている。それだけじゃない、食材なども量が減ってきている。噂では調査隊の他に世界を救済する為に神様から遣わされた救世主も居るとか……。



「カチュアちゃん、今日はもう終いかい?」

「ええ、ピークも過ぎちゃいましたしね」


 気のいい漁師のおかみさんとも挨拶ももう馴染んだものだ。夜はそれぞれの家で食べるだろうし、宿屋では無いので誰かに作るあても無い。現状で手に入る食材での新しいメニューを考えるのも良いだろう。


「さて、椅子を上げて掃除しようか…」


 その時、店の入口に人の気配を感じた。


「ああ、悪いね。今日はもう終わりなんだ」


 そういえば看板を出したままだった…。そう思い、振り返ろうとして…


キュン…


 下腹部の奥が震える。ああ…何だってこんな時に……。椅子を持ち上げようとして眩暈がして、全身の力が抜けるみたいだ。

 このままじゃ下の椅子の角に後頭部を強く打ち付けててしまう。

 だけどそんな衝撃は感じなかった。代わりに優しくて頼もしい温もり。


キュン…


(コラ…、こんな時に鳴くな)


「大丈夫ですか?怪我は無い?」


キュン…キュン…


 声が擽る耳が…、息が擦り抜ける髪が…、優しく抱かれた肩が……熱を帯びて……。


「ええ、大丈夫です。有難う」

「なら良かった」


……キュン!


(駄目…、本当は大丈夫じゃない。鼓動が早い…息が粗い…胸が苦しい……)


 ここで振り向いてしまえばやっと手に入れた平穏が……諦めていた普通の暮らしが壊れてしまう。


(いやっ……顔が熱い……下腹部が………切ない)


キュン!


 だけど肩に置かれた手をとり、一回り逞しくなった感じの懐かしいその姿を観てしまった時、全てを認めてしまい、声に出してしまった。





「……お帰りなさいませ、旦那様」


 ――あの日から私はこの少年の女であり、雌なのだと。

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