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魔剣と世界と命とを  作者: 豊後要
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買い物

 冒険者ギルドに紹介してもらったその武具屋は現代のコンビニ位の広さだろうか。その中に様々な武具が並んでいる。


 剣に槍、斧や弓。盾や鎧兜、籠手にすね当て。中にはどう扱うのかさっぱりわからないような物もある。


 そしてそのどれもが亮にとっては新鮮に映る。当然と言えば当然だろう。ラナブラックを持っているとは言え、現代ではこのような武具を見ることさえ稀だったのだから。


「主、少し落ち着いてください。今回はハナの武具を見に来たのですよ?」


 見かねたラナに注意されるほど浮かれていたのだ。


 そのラナはハナの武器を見定めている。彼女が探しているのは長柄で両刃の斧との事だ。完全に戦闘用の物であり、取り扱うには腕力だけでなく全身の力が必要な武器だ。少なくとも亮には扱えないだろう。


 二十分ほど悩んで、ようやく納得のいくものが見つかったらしい。ハナに渡すと、使い心地を確かめるために裏庭の素振り場へ向かっていった。


「しかし旦那も可笑しな方だね。奴隷に武器を持たせるとは」


 武器屋の店主が苦笑交じりに言う。背はハナより少し高い程度、亮の腹辺りまでしかない。まるで子供のようだが、長く伸びた髭がそれを否定する。


 店主はいわゆるドワーフと言われる種族。手先が器用で力も強いという、一般的に言われる特徴を持っているらしい。人間ではないため、獣人に対しても差別的な目は持っていない。ギルド長辺りが手を回してくれたのかもしれない。


「そんなにおかしいですか?」


「おっとすまねえ。馬鹿にした訳じゃねえんだ。ただ珍しいのよ」


 聞けば奴隷を持っている殆どの人間は、反乱を恐れて武器など持たせないらしい。肉体的には獣人の方が優れているので当然と言えば当然だが、信頼していない証拠とも言えるだろう。


「まあ、私はハナを信じていますから」


「はっ!他の人間共に聞かせてえもんだな」


 どうやらドワーフも獣人の差別に対してはいい感情を持ってはいないらしい。それがわかっただけでもここに来た価値があるというものだ。


 ハナの素振りはもう少し時間がかかりそうだ。これを機に、気になっていたことを聞くことにする。


「人間や獣人、ドワーフ以外の種族はどういった方々なんでしょう?

 獣人への差別についてもご存じなら教えてください」


「そうだな。他の種族といやあエルフ、魔族って所になるか。他にももちろんまだあるが、数が少ねえからな」


 元々話し好きなのか、口調は少し荒いが親切に教えてくれた。


 エルフは森に住む耳が長い種族。背が高く痩身で長命、美男美女ばかりというのは変わらないらしい。他種族とは関与しないという方針で、差別に関しても肯定も否定もしていない。


 魔族に関してはよくわかっていない。多種多様な外見で反応も様々。ただ共通して、体の何処かに黒い入れ墨のようなアザがあるらしい。友好的な者はそのアザを隠して、他種族の中で暮らすこともあるそうだ。


 そんな中でも魔族が纏まっているのは、魔王と呼ばれる強大な力を持つ者が率いている為と言われるが、真相ははっきりしない。


 この世界に住む種族としての割合は、人間が七割、獣人一割、エルフ・ドワーフ他が一割、魔族が一割ぐらいだそうだ。


「差別に関しては知らねえな。何せ人間共が勝手に言い張ってるだけだからよ。胸くそ悪いったらありゃしねえ」


「そうですか。ありがとうございます。勉強になりました」


「なに、いいってことよ」


 教えてくれたお礼と言うわけではないが、ラナが納得しハナが気に入った両手斧の他にも購入する。厚手の革の服に、小さな金属製の輪をくくりつけたリングメイル。そして亮とハナが被る為の革の帽子だ。


 革の帽子はともかくとして、両手の斧もリングメイルも今のハナには大きすぎる気がする。斧など身長の倍はあり、リングメイルはブカブカでベルトで無理矢理合わせている状態だ。


 明らかに体型に合っていないのだが、選んだ二人はこれが当然といった顔だ。店主すら何も言わない状況に、かえって亮の方がおかしいのかと錯覚すらしてしまう。


「ラナ、本当にこの大きさでいいの?」


「はい。確かに今は合っていませんが、いずれわかります」


 ハナはまだ子供だ。獣人にも成長期があるのだろうと理解し、その場は任せる事にした。後々、所詮は地球基準の理解だったことに気付かされるのだが。


 次に向かったのは馬車を扱う店である。お金が入るまでは移動は魔法で行うつもりだったのだが、入った時点でラナから提案されたのだ。馬車を見繕ってはどうかと。


「ハナはこれから戦闘要員にもなりますから、少しでも負担を軽減すべきです。それにこれからずっと魔法で移動するわけにもいきませんから」


 確かにその通りである。他からすれば亮の魔法は少し異質であるから、それまでも人目につかないようにしていたのだ。ハナを人目にさらさない為にも必要だろう。


 借りたりすることはあっても、一般冒険者が馬車を購入するというのは珍しいらしい。幌つきの馬車をという注文に、店主が恐縮しながら勧めたのは中古であった。


「僕は馬車の事はわからないけど、よく手入れされているんじゃないかな?」


「はい。幌は新品に変えてくれるそうですし、むしろお買い得かもしれませんね」


「リョウ様、ラナ姉様。馬車はこれでいいとしても、牽く馬がいないと意味ないよ?」


 ハナの言葉にラナは当然とばかりに頷くが、額に浮かんだ汗を亮は見逃さなかった。見逃さなかったのだが、ラナの名誉の為に見なかったことにした。


 とりあえず即決でこの馬車を購入することにしたのだが、ハナのいう通り馬がいない。操縦や手入れの方法を教わる為ラナとハナを残し、亮は一人で隣接する馬屋へ向かった。


「らっしゃい」


 店に入った彼に声をかけたのは、どこか気だるそうな顔をした男性だった。


「馬車を牽くための馬が欲しいんですが」


「馬車馬だ?あー。そういや隣が騒がしいと思ったがお前か。いいだろう、付いてこい」


 接客態度などあったものではない店員なのだが、何故かどこか不思議な感じを受ける。


 案内されたのはもちろん馬小屋である。五頭程が並んで飼い葉を食べている。その内四頭はきちんと手入れをされ毛並みも艶やかなのだが、一頭だけは違っていた。薄汚れ毛も伸び放題で放っておかれている。他の馬を見れば、店員の腕が悪いとも思えないのだが。


 際立って大きく、それだけに手入れの悪さが目立ってしまうその一頭を見ていると、急に後ろから声がかかった。


「そいつか」


 急に声をかけられ、飛び上がらんばかりに驚いた。確かに警戒などしていなかったが、それでも気配ぐらいは感じられるつもりだった。


「何を驚いている?」


「すみません。急だったものですから」


「ふん、おかしなやつだ。それでそいつだがな、お前が思っている通りワケアリだ」


 前店主が病死して親類である自分が引き継いだものの、この馬だけは誰にもなつかなかった。恩のある相手の物を棄てるわけにもいかず、悩んでいるらしい。


「確かにこいつなら、どんな馬車でも軽々牽けるだろうがな」


 店主は肩をすくめる。今まで誰にもなつかなかったこの馬が、ほんの少し見ただけの相手に対して心を許すはずがない。そう思っているのだろう。


 堂々たる体躯に赤黒い毛並み。目は爛々としていきり立つ。その馬を一目見たとき思い浮かんだのは、三国志の英雄の一人である呂奉先が乗っていたとされる赤兎馬である。一日に千里を駆けるといわれたその馬は呂奉先の武勇を足で支え続けたと伝わる。


「どうしたの?何をそんなに戸惑ってるの?」


 何の確証もない、自分でも思わぬ内に出た言葉。だがそんな言葉に馬はピタリと動きを止める。


 その様子に驚く店主はとりあえず放っておき、自分の直感のままに言葉を重ねる。


「前のヒト?その人はもう亡くなってるんだよ。死というのはわからないだろうけど、冷たくなって二度と動かないんだ」


「おい、お前。何を言ってる!」


「ごめんなさい。あと少しだけ静かにしていてもらえませんか?」


 気がふれたかと心配になった店主が声をかけるが、亮は殆ど取り合わない。今集中を切らせば、この不思議な感覚が消えてしまいそうなのだ。


「そう。この人が今のここの主だよ。・・気に入らないって言っても・・あ、いや待てよ」


 そう言った所で、自分が何のためにここに来たのかを思い出した。馬を求めに来たのだ。店主も先ほど保証したように、この馬ならば馬車を牽くのも申し分ない。


「さっきは失礼しました。この馬を買わせてもらいます」


「それは願ったり叶ったりだが、その前に教えてくれ。お前は馬と話せるのか?」


「ええ。この馬に会って、私も初めて気がつきましたがそのようです」


 もちろん馬が人語を話すわけがないので、正確には意思の疎通と言うべきかもしれないが。


 その後の話はトントン拍子で進む。体躯がいくら立派でも、毛並みが悪くては商品にはならない。誰にもなつかないのだから、それ以前の問題だ。


 そんな問題児を売り払いたい店側と、馬車のために馬を買いたい亮の意見が一致。店側の言い値でお金を支払い、その馬は晴れて彼の物になった。オマケとして馬具や世話に必要な道具を譲ってくれたので、金額以上の良い買い物をしたと言えるだろう。


「なら、今日からこいつはお前の物だ。後ででもいいから名前を付けてやれ。犬じゃねえが意外と覚えてるもんだ」


 もちろん、名は決まっていた。

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