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魔剣と世界と命とを  作者: 豊後要
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ギルド長

少しずつ伸びています。

ありがとうございます。

「確認ですが、キマイラを倒したと仰いましたか?」


「は、はい。私が発見したときには手負いでしたが」


 キマイラの核を見せながら説明する。慎重に先輩らしい女性が受けとると、奥に消えていった。そこまでの大物を新人に任せるつもりは無いのだろう。


 残った新人の職員は経緯の説明を聞くようだ。


(ラナ。大事になりそうだけど、こうなることが分かってた?)


『正直なところ、予想以上の反応です。あのキマイラには、どこからか賞金が掛けられていたのかもしれません』


 いくらラナでも全ての情報を持っている訳がない。知識はともかく時事などの情報には疎い。永きにわたって単身での待機を余儀なくされていたのだ。


「本来キマイラは、A-以上の冒険者が六人程のグループを組んで、ようやく撃退できる魔物だと聞いています。手負いだったとはいえBのあなたが一人で撃破してしまうとは」


 確かにそのような魔物では大騒ぎになるのも仕方ない。だが、亮の後ろに控えていたハナから抗議の視線が飛ぶのに気付いたのだろう。慌てて弁解を始める。


「ごめんねお嬢ちゃん。疑っている訳ではないの。カードの発行に問題がないと言うことは犯罪歴があるはずもなく、嘘をついても核を調べれば一発で判ることです」


 そこまでするメリットがありませんから、と顔の前で手を振りながら謝った。ハナはそれで納得したのか再び控える。


「その年齢で奴隷持ち。貴族のボンボンとも違うみたいだし・・」


 なにやらぶつぶつと言っているのはこの際スルーする。しばらく経って鑑定の結果が出たようだ。もちろん本物。ラナブラックが予想した通り、あのキマイラには多額の賞金が掛けられていた。さすがにそれを今すぐこの場所で支払うというわけにもいかないため、亮は奥に案内される事になった。


 今まで対応した二人の職員と別れ、また別の職員に奥へ案内される。ハナが付いてくる事もあまり歓迎されなかったが、そこは口外しないことを命令する事で我を徹した。ただの奴隷ではない。ただの獣人ではないのだ。


 この先はこのギルドの重役の部屋なのだが、ここのギルド長は滅多に人前に顔を出さないのだという。本来、ランクBの冒険者であれば入る用事さえない。それが何故か彼に限り、ギルド長の方から会いたい旨を告げられたそうだ。ますます厄介事になりそうだと、亮はため息をついた。


「ギルド長、リョウ様をお連れしました」


「ご苦労。君は下がっていい。リョウ君とやらは入ってくれ」


 ドアを開け、中に入る。亮の勝手な予想とは違い、部屋の主は腰まで伸びる金髪を束ね、キッと鋭い視線を向ける女性であった。しかしその頭には、


「犬の耳?まさかあなたも!?」


「ああ。見ての通りの獣人だよ。そこの牛の嬢ちゃんもフードを脱ぐといい。少なくともこの部屋には獣人を嫌う者はいない」


 不安げに亮を見上げる彼女に対し、一つ頷く事でようやくフードを脱いだ。その頭を直接撫でながら、彼はギルド長の言葉を待つ。


「ほう、赤毛か。嬢ちゃんは良い戦士になれるな」


「それでギルド長さん。私を呼んだ訳は?」


 感心した様子のギルド長だが、それを悠長に待てる余裕は亮にはなかった。出来れば早く町から出たいのだから。


「受付で聞いてないかな?褒賞金を直接渡すには不可能な程だから、ギルドの預かりとしてほしいというお願いだよ。

 もう一つはSランクとして君を認定すると言うことかな。こればかりは他人に任せられないからね」


「・・はい?」


 話の前半はわかる。多額の貴重品を持ち歩く必要が無くなるのは、寧ろとても助かることだ。だが後半に関してはわからない。今日こそ冒険者として登録した自分をSランクと認定する?


「混乱するのも当然だ。けど、伊達や酔狂でこんな事を言うほど落ちぶれてもいないよ」


 亮の反応は予想済みだったのだろう。ギルド長は淡々と話を続ける。


「確かに君の様な件は数えるほどもない。前代未聞と言っても良い。だが一人でキマイラを撃破する実力はSランクとしか言いようがない」


 まぁ尤も、大騒ぎになるのは必定だから隠す事を勧めるがね。と彼女は肩を竦めてみせる。


「Sランクの特典やギルド預かりの金銭については後で受け付けにでも訊いてもらうとして。最後にもう一つだけ、君に忠告したいことがある」


「忠告ですか?」


「そう。この子の事だ」


 指差されたハナがビクリとして亮にしがみつく。安心させるように撫でながら話の続きを促した。


「我々獣人が『人間』からいい感情を持たれていないのはわかっただろう?しかも悪いことに『人間』は、この世界の七割を占める種族だ。差別をしない特別な『人間』は千人に一人居れば良い方だろう。

 何が言いたいかと言うとこれからもこの子は、いや君自身も差別の対象になり続けると言うことだよ。君にその覚悟はあるかい?」


 不安そうに亮を見上げるハナ。一瞬だけ撫でる動きを止めて、そんな自分に唾を吐きたくなる。覚悟など既に決めていたはずではないか。


「大丈夫とも、問題ないとも言えません。ですが覚悟はできています。ハナもあなたも確固とした自我を持つヒト。それは事実ですから」


 口にして、改めて決意できた。誠心誠意説明して説得して、それでも理解すらしてもらえないなら・・。


 ギルド長はしばらくの間そんな亮の目を見つめていたが、やがてクツクツと笑いだした。


「いいね。覚悟に満ちた良い目だ。君になら、Sランクになった冒険者のごく一部にしか依頼しない事をお願いできそうだ」


 数少ないはずのSランク冒険者。そのごく一部と限定するような依頼である。厄介事以外の何物でもないだろう。




 ギルドを出て次の目的地に向かって歩く。その道すがら考えるのは、ついさっき言われた依頼の事だ。


「獣人達を差別から解放しろ、ねぇ」


 ギルド長から告げられた依頼はやはり厄介事以外の何物でもなかった。


「ハナ。もし差別されなくなったとしたらどうする?」


 まずは身近な獣人であるハナに尋ねる。彼女はしばらく考える素振りを見せて微妙な表情をした。


「いきなり解放されても、よくわからない。差別されることに慣れてしまってるから」


「うん。問題はそこなんだろうね」


 他人がどれだけ頑張っても、本人達が動かなければなかなか差別はなくならない。結局は現状に停滞してしまうのだ。


 ラナを含めて相談するため、人目のない場所で人化させる。とても亮一人で判断できる問題ではない。


「話はわかっております。ですが主の仰る通り、現状での解決は難しいでしょう」


「やっぱりか。でもその言い方だと何か方法がありそうだね?」


 そう。ラナは完全に無理だとは言わなかった。『現状での』とわざわざ付けるからには、何か方策があるのだろう。


「はい。はっきり言うと、前例を作ってしまえば良いのです。幸い、こちらにはその良い見本があるのですから」


 いつも亮がしているように、ラナがハナの頭を軽く撫でる。ラナにとっても可愛い妹といったところなのだろう。


「ラナ姉様」


「ハナ、そういう事です。だからあなたは無理矢理にでもやりたいことを見付けるのです。もちろん、主を護ることも疎かにしてはなりません。できますか?」

 いつの間にかラナがハナの姉ということになっているらしい。特に実害はないので亮は何も言わないが、二人の間に百合の花が咲きそうな雰囲気ではある。


「やります!やらせてください!」


「わかったよハナ。ならその為にも必要な物を揃えないとね」


 ハナの決意を嬉しく受け取りながらラナと相談していた通り、ハナの持ち物を揃えることになった。幸い資金は豊富にできたのだ。


 キマイラにはかなりの賞金が掛けられていた。国の他にも、魔導研究所や冒険者ギルド等の組織までかなりの数だ。それぞれの額は小さくとも、数が集まれば結果的に額は増える。それが金貨一万枚となっていても不思議はないだろう。


 現代日本で言えば、一億円もの額だ。ちなみに銅貨一枚で百円、銀貨一枚で千円、金貨一枚で一万円程度の価値がそれぞれある。ギルドで直接支払いは出来ないと言われても納得の額。日本の地方銀行でも難しいだろう。


 その賞金はギルド預かりとして、メンバーカードにポイントという形で預金されている。カードさえ提示すれば額の範囲内で購入することが可能なのだ。身分証とキャッシュカードを兼ねる大切な物になってしまった。


「まずは武具屋かな。その後にちょっと見てみたい所があるんだ」


「娼館ではないでしょうね?」


 真面目だった雰囲気が吹き飛ぶ。その台詞を聞いた途端にハナの機嫌も悪くなった。二人からのジト目に耐えられず、流石に目線を前に向けた。


「なんでそうなる。そりゃ興味が無いと言えば嘘だけど違うよ」


「お兄ちゃん、興味はあるんだ・・」


「こればかりは仕方がありませんよ、ハナ。主も男。男は隣にどんな美人を侍らせていても、他の女性に目を向ける罪深い生き物なのですから」


 更に細くなるハナのジト目と、ラナから向けられる諦めにも優しさにも思える視線。そうそう耐えられるものではない。


「だから違うって。行きたいのは馬車屋。これから移動にいつも魔法を使うわけにはいかないでしょ。

 それに荷物も、今は大丈夫でも人数が増えてきたらどうしようもない」


 今は二人分でハナが持てる程度だが、これから先どうなるかわからない。いつまでも持たせるのは可哀想という気持ちもある。


「余計な出費は歓迎できないのですが」


「いや、むしろ必要経費でしょ(ハナをあまり人目に晒したくはないんだ。ここは引いて欲しい)」


「確かにそうかもしれませんね。畏まりました」


 言葉の後に思念を送って裏の理由も説明しておく。それを理解して歩きながら一礼するラナに、感謝の念を送っているとどうやら武具屋についたらしい。


 いかにもそれらしい剣と盾が描かれた看板を前に、亮は好奇心を抑えられずにいた。

誤字脱字、感想などよろしくお願いいたします

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