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魔剣と世界と命とを  作者: 豊後要
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冒険者ギルド

投稿時期がまちまちですが何とか続いています。


よろしくお付き合いください

 ふと何かが動く気配を感じて目が覚める。薄目を開けると、腕の中にすっぽりと収まる赤毛が見えた。


 目線を外に移せば、まだ薄暗い。明け方だろう。ハナという抱き枕は程よい温度で、ゆっくりと亮を眠りの世界に誘う。


「むにゃ・・お兄ちゃん・・」


 そんな寝言を聞きながらの、至福の二度寝。自分がどんな体勢か考える間もない。朝起きて、顔を真っ赤にする事になるのだが。


 次に目が覚めたのは明るくなってから。何かの気配を感じて目が覚める。とはいえ動く気配ではない。目前に迫っているような、息を潜めてこちらを伺っているような、妙な気配。


 目を開ける寸前に唇に柔らかい物が触れる感触。驚いて目を開けるとハナの顔が目と鼻の先にあった。


「・・おはよう、お兄ちゃん」


「おはよう、ハナ。何してたの?」


 大体の予想はついていたが、改めて訊ねる。性格が悪いようにも思えるが、確認はしなければならない。


「え?な、何?何の事?」

 ハナは視線を反らしとぼけようとしているが、その顔は真っ赤であり亮が予想した通りの事をしたのだろう。相手が相手なら彼の顔も真っ赤になる場面ではあるが、ハナは子供にしか見えない。


「まあいいけどね。これからはイタズラしたらダメだよ?」


「い、イタズラじゃないもん!お兄ちゃんのバカ!」


 ムキになって怒るハナ。そういう様子こそが子供だと言われる所以なのだが、子供の頃にはわからないものだ。


『主、流石に今のはどうかと考えます』


 ハナがベッドから出て、着替え始めたところでラナから思念が届く。


(それはどういう意味?)


『彼女の行為は本気の想いからきている、と言う意味です。子供扱いについては仕方ありません。実際まだ子供ですから』


 本気の想い。そんな物はこの世界に来る前でも無縁の物だった。少なくとも、彼自身に持たれた覚えはない。


 だが話を聞く限り、ハナに対してフォローが必要だろう。そう判断した亮は自身とハナが着替え終わるのを待ち、声をかけた。


「ハナ、さっきはごめん。ちょっと話があるから聞いてほしい」


 ハナは未だにそっぽを向いているフリをする。だがフリだけだ。先に謝ったのが良かったのか、口の端が嬉しそうに上がっている。


「君が成長して大人になって、それでも僕を想ってくれるなら僕も考える。

 申し訳ないけど、『今はまだ』君を一人の女性としては見れないんだ」


 ハナはフリを止めて真剣な表情で亮を見る。


「そんな僕だけど、それでも好意を持ってくれるのかい?」


 流石に少しショックを受けたようで、ハナはしばらくの間考え込んだ様子だ。


 亮は亮で、こうまで言って自分を嫌わない事はないだろうと思っていた。もちろん嫌われる為に言った訳ではないが、好意を断るような台詞なのだ。そうなっても仕方がない。


「ありがとう。はっきり言ってくれて」


 しかし戻って来たのはお礼の言葉だった。驚いた彼にハナはニッコリと笑う。


「確かにちょっとショックは受けたけど、別に私の事を嫌ったという訳じゃないし、私の事を考えて言ったのはわかるから」


 思わず手を伸ばし頭を撫でる。それが気持ちいいのか、頭をすり寄せてきた。


「だからリョウ様。今の言葉、忘れないでね。大人になったら、『今』じゃない私になったら、ちゃんと考えてもらうから」


 思わせ振りな口調でそう言うと、亮から離れて出かける準備を始めた。今日は買い物や旅人としての登録がある。ハナの扱いを見れば、早々に町から出てしまいたい所である。


 亮も支度を終えて町に出る。日が上って少し経っても、通行人の数は多い。時間の概念が大まかなこの世界では、教会の鐘だけが時間を知る合図。その鐘も時間がマチマチというのだから程度はわかるだろう。


 魔物の跡に残っていた紅い宝玉。これが売却できそうな店を宿の主人に尋ねると、やはりというべきか冒険者ギルドを紹介された。


 冒険者は魔物退治や遺跡の探索、町の雑用で日々の糧を得る者達の事だ。成功すれば一攫千金を得られるが、失敗すれば自分の命を落とす。ハイリスクハイリターンな職業。


 冒険者ギルドはその統括組織。魔物の退治や雑用等の依頼を受け、各冒険者に割り振る仕事をしている。全世界にまたがる冒険者の統括ということで、超国家的な一大組織でもある。


『冒険者になれば、身分の保証ともなります。少々の義務はありますが、メリットの方が大きいでしょう』


 何よりやりたかったことが一ヶ所で行えるのだ。利用しないテはない。


 宿から程近い場所に冒険者ギルドはあり、ハナをあまり人目に付かせたくない亮としては助かる。町の規模からすればかなり大きな建物だ。西部劇でよく見る酒場のような雰囲気を受ける。


 多少緊張して中に入ると、中にいた者が一斉に彼の方を向く、事もなかった。ワックスが塗られた床板はきしむ事もなく、汚れはほとんど見られない。酒場と言うよりは役所等の受付を思わせる。


 奥にはやはり役所に有るようなカウンターが設けられ、その向かいには職員らしい女性が暇そうに話していた。見た限り四人いるが、その内一つには仕切りがあったので部署が違うのだろう。


「あの、冒険者の登録をお願いしたいのですが」


 とりあえず広い方の受付に向かい、最初の用件を伝える。


「はっはいっ!冒険者の新規登録ですね!?」


 何故か彼以上に緊張した様子で応対する受付。他の職員からの視線がさりげなく集まっている事で判断すると、もしかしたら新人なのかもしれない。記入用紙を慌ただしく出してくる様子を見て、どことなく微笑ましくなる。


「では、こちらの用紙に必要事項を記入してください」


 そう言われて、確認した事項は名前と職業、年齢程度である。出身地など書けるはずもない亮にとっては助かるのだが、受付がザル過ぎないだろうか。


 ちなみに普通に日本語を話しているように聞こえ、書いているように見えるがこれらは全てラナブラックによる翻訳である。この剣がなければ会話にも苦労する所だった。


 閑話休題。


「は、はい!確かに承りまひた!少々お待ちください!」


 記入が済んだ用紙を受けとると、その職員は奥へ入っていく。それを見届けて、隣に居た女性が微笑んで声をかけてくる。


「慌ただしくして申し訳ありません。あの子はまだ研修中でして」


 どうやら思った通りの状況らしい。それに加えて亮が初めて応対する相手だと聞けば怒る気もしない。軽く首をふって構わないことを伝えると、先輩らしき女性は明らかにほっとした表情を見せた。


「お、お待たせ致しました!こちらがリョウさんのメンバーカードです!

 申し訳ありませんが、この円の中に血を一滴垂らしてください。それで本人確認となります」


 魔法によって比較的簡単に容姿が変えられる世界である。確かに血による本人確認は信憑性が高い。昨日の奴隷商でも、血による契約を行ったので不思議に感じることもない。


「・・はい。ありがとうございます!良き冒険者ライフをお過ごしください!」


「えっと。冒険者になるにあたって注意事項等は?」


 話が早いのは助かるが、必要な部分まで省略されてしまうと戸惑いしかない。「あっ!」という声が上がったということは、恐らく忘れていたのだろう。


「も、申し訳ありません!」


 さらに焦った様子の女性だが、こちらにも事情がある。隣から聞こえた再教育が要るわね、という呟きに涙目になってしまったが、それは無視させてもらう。


 説明によれば冒険者にはランクがあり、実力やギルドへの貢献度で上下するらしい。CからA、そしてS。S以外には+と-が付き、十階級となる。通常はC-からだが、その時点での実力が適応される時もある。実際、登録したばかりであるリョウのランクもBだ。聞く限り珍しくはないらしい。


「ギルドは基本的に冒険者の行動を拘束することはありませんが、ランクがB-以上の冒険者には強制的に依頼を受けてもらう場合があります。これを拒否するとランクの降格、悪ければ剥奪という事態にもなりますのでお気をつけください」


 その他細々とした規約はあったが、冊子を用意してあったのでそれを読むことにする。また基本的に困ったらギルドへという鉄則さえ覚えていれば、それだけでも大丈夫らしい。ギルド職員でも規約を完全に把握している者はほとんどいない。


「他に何か質問はありますか?」


「では一つ。以前魔物を倒した際に遺した物があるんです。ギルドでなら換金できると聞いたのですが?」


「はい。衝立がある、そちらの窓口です。改めてお並び下さい」


 一番端にある、今も四、五人が並ぶ窓口だ。頷いて礼を言うと、その列に並び直す。


 説明を受けている間、ハナは手持ちぶさただったようだ。それでも文句を言わないのは精神年齢が高いのか、自分の立場に遠慮しているのか。目深に被っているフードの上から、「もうちょっと待っててくれ」と頭をポンポンと触る。頷いた動きを感じ手を離した。


「お待たせ致しました。次の方どうぞ」


 そうこうしている内に亮の番が来たようだ。前に座っていた受付嬢は彼の顔を見て席を立つと、先程の登録をお願いした新人を連れてきた。


「大変失礼で申し訳ありませんが、研修にもうしばらくお付き合い願えませんか?」


 どうやらそういう事らしい。「鑑定なんて私にはまだ無理です!」という新人の声は、亮が頷いた事で無情にも無視されることになった。


 さすがに時間がかかると言うことで、衝立を動かし売却の窓口を広げる。少し年嵩の職員がそこに座り、元々売却担当だった職員は後ろから新人の様子を観察している。


「うぅっ。そ、それでは売却される物をお願いします」


 少しイジリが過ぎたかもしれない。半べそをかきながらも仕事を行おうとする新人に対して、若干申し訳なく思いながら彼は紅い宝珠を取り出した。


「これはキマイラを倒した際に残っていたもので」


 ガコンッ!という大きな音。下げる間もなく職員が立ち上がったせいで、椅子が倒れた音だ。


 音と行動にびっくりして後ろに居る先輩を見るが、やはり驚きで目を見張っている。


 それでようやく、彼は自分がとんでもない事をしたのだと自覚したのだった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


誤字脱字、感想などいただけると豊後は小躍りして喜びます。

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