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魔剣と世界と命とを  作者: 豊後要
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邂逅

拙い文章書きですが、最後まで走り続けたいです。

感想など戴けると豊後は小躍りして喜ぶので、よろしくお願いします

 声に導かれるままに進む。どうやら泉の中心に生えている、大樹の辺りから聞こえてくるようだ。声だけでは大体の方向性しかわからないが、大樹という目印があれば話は別である。


 そして事実、少しずつその声は大きくなっていた。それでも風が吹けば聞こえ難くなる程の小さなものではあるのだが、進む方向に間違いがないという判断にはなる。


 雑草を押し分け、枯葉を踏む感触はやはりとてもリアルである。素肌をなでるそよ風は心地よく、なかなか自然の中に入らない彼にとってはとても新鮮な感触である。


 といったところで気が付いた。今更ではあるが彼は全裸であった。上着はもちろん、下着や靴もない。鞄や財布といった持ち物もすべて消えており、これが人前であったら通報される可能性が高い。森の奥地で人が居らず、雑草がクッションとなって足に怪我をしないのが不幸中の幸いである。


『・・・・・・』


 大樹にある程度近づくとかなりの大きさのものだとわかる。神社などならご神木と言われても信じるほどのものだ。幹の太さは大人が四人、大きく手を広げれば何とか囲めるほどだろうか。高さは四階建てのビルにも匹敵する。


 落ち葉から判断すると広葉樹なのだろう。その葉は青々と茂り、枝葉は方々に伸びている。テレビCMに出てきそうな大樹である。


 泉を回り込んでわかったが、彼とは反対の岸には大樹へと続く道があった。そこだけ地面が盛り上がって橋のようになっているのだが、少々不自然さも感じてしまう。あまり泳ぎの得意でない亮にとっては助かることなのだが。


『・・・・・・』


 『橋』の先には大樹。そしてその根元に黒く細長い物が立て掛けられている。木の陰になっているにもかかわらず、その一部が脈動するように光っている。声はその光と同時に発せられているようだ。


 近づくとそれが剣であることがわかる。ファンタジー物の小説やゲームでお馴染みの剣である。漆を塗ったような艶のない黒地に、緩やかに波打つ三本の斜線が銀色で描かれた鞘。黒い布で巻かれ、先端には翠の宝玉が埋め込まれている柄。鍔はそれほど大きくないがやはり黒く、中央には紅い宝玉が埋め込まれている。


 ファンタジー物が好きな者なら喜び勇んで手に取るだろうその見事な剣を、亮はしかし手に取らなかった。臆病なのか慎重なのか彼自身にはわからない。だがまず辺りを見渡し、剣の持ち主が居るのではないかと探してしまうのは性格なのだろう。


『我が主・・・』


 脈動する光に同調するかのように言葉が流れ込んでくる。それは耳ではなく頭に直接響いてくるような感覚。不快というほどではないが、唐突な刺激にはやはり驚いてしまう。


『数万年の無為の果て、ようやく目通り叶うことを嬉しく思う。我が主』


 先ほど見回しても誰も居らず、同じように響いてくる謎の声。それを今目の前にある剣からのものだと判断するのに、さほど時間はかからなかった。


「この声は、そして私を呼んでいたのはあなた、目の前の剣なのですか?」


 それでも確認せずにはいられない。常識がひっくり返るようなことばかり起こっているのだ。夢であると思った方がよほど自然。当然、彼もそう考えた。


『然り。されど今は主の夢ではない。れっきとした現実』


 が、目の前にある剣がその考えを真っ向から否定する。まるで心を読んだかのようなタイミングである。


『確かに我は主の心を読める。だが心の奥底に隠しているものをわざわざ暴いたりするようなことはせぬ。いわば思念の送受信を行っているに過ぎない』


 ファンタジー物によくあるテレパシーに似たようなものなのだろうか。


『なら、私の考えも口に出さなくても伝えられるのですね?』


『然り。見事な思念なり、我が主』


 試みに行ったものが簡単にできてしまった。実際に出来てしまったことで空想の世界もなかなかバカにできない、とこの場にあわない事を考えてしまう。


『我はこの世界に生み出された覇を約束せし剣。銘はない』


『あ、私は岸本亮です。極々一般的な学生・・だと思っています』


 言葉の終わりが少々自信なさげなのは仕方がない。一般的な学生が異世界へのトリップなどするはずはないのだから。


『そんな私を何故選んだのですか? 私の知る限り、あなたのような剣は持ち主を選べるはずですが』


 意志を持つ剣、インテリジェンスソード。それは持ち主を選び主人を栄光へ導くが、さらにその先には破滅が待っている。そういう悲劇的な物語を知っている亮が警戒するのも無理はない。


『至極当然の疑問なり。無礼を承知で言えば、そなたよりも腕の立つ者、知識のある者はいくらでも居るだろう。だがその者達には我が思念が届かなかった。

 数万年の内でそなた一人のみだったのだ。我が思念を受け取り、反応してくれた者は。それ故、そなた以外に我が主足りえる者は居ないと判断したまでのこと。

 そなたは選ぶことができるというが、我にとってはそうではなかったのだ』


 納得のできる説明である。選択肢が元々なかったのだ。それで亮はその剣に対して興味がわいてきた。その中には数万年を無為に過ごしたという状況に、同情する気持ちも含まれている。


『あなたを手にする前に、お聞きしたいことがあります』


『伺おう』


 最低限、亮にとっては必要なことである。それは絶対に剣を手にする前に聞いておかなければならないこと。


『あなたは持ち主を操ることができますか?』


 その返答如何によっては触れる事も憚られる。触れた瞬間に剣の言いなりになり、その意のままに動く人形になってしまう可能性すらある。


『出来る。命の危険が迫った時など緊急の事態では肉体を操り、その危機から脱しようとするだろう。

 精神を操ることも確かにできる。だが過剰な操作は自重するつもりだ。それによって我が主が不幸になることなど望んでいない』


 あっけなく重要な事を説明する剣。返答の内容そのものは彼にとって喜ばしい事ではなかったのだが、返って亮はその信用度を高めた。


 意志があり知識があるのなら、口先でいくらでもこの場を誤魔化すことができるはず。それをしなかった事で好意を持ったのだ。それこそが剣の考えだったとしたら諦めるしかない。疑いだせばキリはないのだ。


『わかりました。私はあなたの主になりましょう。っと、もう一つありました』


『我を生み出したこの世界と我が主に感謝しよう。そしてもう一つとは?』


『口調を崩していいかな? これから一緒に行動するのに、いつまでも敬語じゃ堅苦しいし』


『無論。気を遣わねばならぬのは我が方よ』


 いくらか気の緩んだ思念が入ってくる。笑ったのかもしれない。それなりに冗談も通じるようで何故か安心した亮だった。

お読みくださって、ありがとうございます。

誤字脱字、感想などもよろしくお願いします


H27.11月 加筆修正いたしました

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