第十三話 ビントくん
「ねえ、リョータさーん。もっとすごい魔獣いない? ジャイアントキラービーとかワイバーンとかさあ」
買取カウンターにいるのは先日ハルデンさん宅で一緒にスイカの種飛ばしをしたビント君だ。
「もっと強い魔物の討伐部位がいいなあ」
唇を尖らせて、ゴブリンの討伐証明部位である耳とレイナの見つけた素晴らしい薬草を前にそう言う。
「無茶言うなっての。そんな魔物が村の近くにいたらヤバイじゃないか」
そのレベルの魔物なら村を滅ぼせる。
「あははっ、それもそうか。でもさあ。どんなすごい魔物なのか実物を見てみたいんだ」
俺はワイバーンを超至近距離で見たことがあるわけだが、もう一度見たいとは思わんぞ。そんなことを考えている間にビント君は、コルポ所長と一緒に買取査定をしてエルドを渡してくれた。
「でもさあ、つまんないなー。せっかく冒険者ギルドにいるのにさ。ロデックさんのパーティはこないだロックエイプを倒して来たんだよ」
ロックエイプは岩場に住む巨大な猿の魔物だ。とにかく頑丈で倒すのに苦労する。
ビント君の目標は冒険者としてこの村を出ることだ。
長男は近隣の村で徴税などの仕事を手伝っている。村長職修行みたいなものらしい。やがてはその長男さんが次のエリネルト村の村長となる。いや、町長かな。
次男のビント君は村を出る条件として数年は冒険者ギルドで手伝いをすることになったのだ。
「魔物討伐も大事だが、薬草ってのはとても大事なものなんだぞ?」
ぜひとも俺が薬草の有難さを語らねば。
俺とレイナを結びつけてくれた大事なものだからな!
「知ってるよう。でも、薬草は襲ってこないじゃん。やっぱり冒険者ならどーんと魔物を倒していこうよ!」
なるほど、そういう意味でつまらないってことね。
誰にでも物怖じせず冒険者達はけっこう面白がってるからビント君の評判はいい。種飛ばし大会で俺に勝ってから、ちょっと生意気な気がするけれども。
それにだ。そんなこと言うと襲ってくる薬草に出会いそうじゃないか。
「とにかくロックエイプは俺じゃあ無理だよ。倒すなら魔法使いと組まないと」
ワイバーンなら倒したことが――正確には倒した一団に居たのだが、それは言わないでおこう。実際ステ盾で防いでいただけだしな。突進してくる魔物にはいいけど、他の魔物だと俺では攻撃力が足りない。
「そうだね。リョータさんは無茶はしない方がいいね。レイナさんが一緒にいるから、大丈夫だろうけどさ」
「ぐぬぬ。なんだその何気に正しい戦力分析は」
俺とレイナの実力を理解してるところが可愛げがないというかなんというか。
ハルデンさんちで会って、それからもギルド開設を手伝って接する機会が多かったから、俺に対して気安いってのもあるんだうけどね。
「ねえねえ。剣を習うならロデックさんかな? それともジョシュアさんかな」
ジュシュアとはあの青年ストーカー騎士である。
諦めて帰るのかと思いきや、彼は村で剣術指南を始めたのだ。
正式な騎士剣法と礼法を教えるということで、こんな村にそんな需要ねえよと思ったら、意外にあったらしい。
キノさん曰く、冒険者にとって騎士に取り立てられるのは出世の一つである。腕の立つ冒険者を家臣に取り立てて、領地の村を任せてなんてこともあるそうだ。
ジュシュアは剣の腕は見事だし、騎士団では剣の教導もしていたそうだ。村での評判も教え方がわかり易く上手だ、数回のレッスンが高くない料金で習えるとあって、ちょっと習ってみようという人が多いらしい。
「うーん。習うなら……基礎から騎士に習うのがいいと思うよ」
推薦するのは癪だが、ビント少年の未来がかかってるからな。
「へえ。てっきり冒険者のロデックさんを推薦すると思ったよ」
ビント君は意外そうに言った。
「そりゃあ、俺も心情としてはそうだよ。冒険の技術は冒険者に習う方がいいからね。でも、騎士の剣法は技としてよく練られているし、騎士の家に生まれた子供は幼い頃から剣を学ぶんだ。だから成長に合わせた鍛え方もあるそうだよ。体を考えたら今のビント君には良い教えになると思う」
冒険者は年齢がいってからなる人もいるし我流って人も多い。冒険者に習うメリットも、もちろんあるけど。ビント君の年齢なら、せっかくなのでジュシュアの剣を覚えた方がいい気がする。
「なるほどね。ありがとうリョータさん!」
敵に塩を送った感はあるけど、学んだことが彼の命を護るわけだからな。
そして塩でスイカを思い出した俺はレイナと共に村の食堂へ向かった。
ハルデンさんによって、水瓜に塩をかける食べ方は村中に広まった。甘さアップと塩分補給にちょうどいいというわけだ。食堂でも頼めば少し分けてくれるので、誰でも塩を振った水瓜が食べられる。
なんていい夏なんだ。
あとは浴衣っ。浴衣があればいいのにっ。




