第十一話 ロデックさん
「キノさーん。開設したら三人でギルドの業務をするんですか?」
俺は冒険者ギルド出張所で、カウンターに魔物の皮でできたヤスリをかけながら聞いた。壁際ではレイナが、派遣されてきた女性職員と依頼票ボードの取り付けをしている。
今日俺とレイナは内装手伝いの依頼を遂行中というわけだ。
「俺はしばらく居るけれど、定期便が運行されれば冒険者ももっと増えるだろうからね。コルポ所長とギルド職員一人では手が廻らないよ。村人からの依頼も多いから村人から助手を雇うんだ。既に村長の息子さんが決まってる」
「そうなんですね」
コルポさんは今、外出中だ。
村からの要望と冒険者ギルドの利益が一致してここに出張所が出来るのだが、今までと変る部分が出てくる。
例えば酒場で行っていた依頼をギルドが引き継ぐ。もちろん酒場の親父さんは了承しているそうだが、依頼していた人達は今度は冒険者ギルドに来ないといけないなど関係者の調整や告知も必要だ。
「ところで、リョータは何をしているのかな?」
「えっ、カウンターを滑らかにしてます」
カウンターの縁に手をかけた時にささくれでちくっとするなんてのはよくない。冒険者ギルドの美意識に欠けるではないですか、こういう見えないところも大切だと説明する。
もし可愛いギルド職員さんが着任したとしよう。ちくっとなったら大変ですから。ということをはあえて言わなかった。
「たしかにトゲが刺さるといらってくるわね」
レイナはよく理解してくれたようだ。
さすが、おれの、よ、よ、よ、嫁っ。まだ正式には違うし、いうの恥ずかしいけど心の中で練習しとこう。
レイナは俺の嫁、レイナは俺の嫁。
まさか二次元キャラ意外にこのセリフを言えることができるなんて!
「そ、そうなのか。ありがとう」
キノさんにも理解していただけたようだ。
そうして俺が顔を赤くしながら、美しいファイアレッドウッドの一枚板に磨きをかけていると、冒険者が入って来た。
「こんにちは。何か依頼はないかな?」
ロデックさんだった。
「こんにちはロデックさん」
「ロデック、依頼を受けに来たのか?」
俺とレイナが挨拶すると彼はにこやかに頷いた。
「やあ二人とも。今日は手伝いかい。お疲れさま。うん、依頼を受けたいんだ」
ロデックさんって人当たりはいいけど、こんなに依頼に熱心な人だったかな。
「無茶を言うなよロデック。まだまだ仮開きもしていないんだぞ。依頼は酒場で受けてるから。昨日はたまたま村の……ああ、そういえばまだ正式な依頼じゃないけど、村長が遠出してくれる冒険者を探していたな。なんでも山の一部が嵐で崩れてて――」
「私が行くよ」
早っ。即答だ。
「どうしたんだロデック。張り切りすぎじゃないか?」
もうすこしゆったりとしたペースで依頼を受ける人だったんだけどな。
「ははっ、こんな素晴らしい開拓村に来たんだ。冒険者として皆さんの役に立とうと思ってね」
「それは冒険者ギルドとしては嬉しいが、ペースが早いんじゃないか。わかってるとは思うが、体と装備の管理には気をつけてくれよ。この村ではまだまだ万全な整備は望めないからね」
「ああ。わかってるさ、大丈夫だよキノ。それで、村長さんの依頼は?」
キノさんは呆れたように小さくため息をついた。
「はぁ。依頼内容はまだ詰めてないんだぞ……単独ではなくパーティ依頼になると思う」
「そうか。決まったら依頼を受ける。何人かに声をかけとくから頼むよ。そうだ、リョータとレイナはどうだい?」
「えっ。あ、ありがとうございます。でも、依頼内容によっては俺ではついていけないかもしれないんで……」
俺は無難に即答を避けた。
「君達二人はいいコンビだぞ。うん。また決まったらってことでね。では頼んだよキノ」
快活な笑顔を見せて俺達に手を振ると、ロデックさんは出張所から出て行った。
「どうしたのかしら。冒険者として立派な心がけだけれど」
「内容も報酬も聞かずに変だよね」
ベテラン冒険者は依頼内容の確認を怠らないものだけどなあ。
「冒険者が村人の役に立つのはギルドとしてもいいことだが……」
キノさんが同意するように呟いた。




