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第六話 ある朝の小さな波紋

「今まで以上に冒険中は気を引き締めて行こう。依頼遂行中は冒険者同士だ」

翌朝、俺はレイナに言った。

「ええ。気を抜かずに依頼に集中しましょう」

レイナが頷く。

「でも依頼のないときは恋人同士だからね!」

「……リョータさんったら」

おお、なんと甘い会話なのだ。

昨日はいきなりの逆プロポーズだし、知らない冒険者達からも祝福してもらった。「居合わせた人たちにかっこよく酒を奢る」作戦もできたし、とてもいい日だった。

宿屋に帰ってレイナの詳しい話を聞くよりも俺は、一刻も早く姫騎士を堪能するほうを選んだ。その選択に微塵の間違いも後悔も無い!


そんな素晴らしい朝を打ち破る声がした。

「おはようございます団長殿」

俺とレイナの泊まっている「洞の中のまどろみ亭」は、多くの宿屋と同じく一回は食堂になっている。軽く体をほぐしてさあ朝食と思ったら、食堂にジョシュアがいた。


「おはようございます。で、ジョシュア殿はなんでこの宿屋に居るのですか?」

朝の挨拶をしてから聞いてみた。

呼び捨てはまずいと思うが、おそらくレイナを連れ戻しに来たこいつに様付けもしたくないので、レイナが団長殿って言われてたから殿をつけてみました。

ちなみに貴族と言っても国によっていろいろらしい。

何百年も続いた名門貴族と厳しい身分制度の国もあれば、エルストラ王国のように冒険者が取り立てられて騎士爵を得る国もある。


「もちろん団長殿に話を聞いてもらうためだ。昨日はあのような騒ぎになってしまって話などできなかったからな」

それはそうだけど。あのような騒ぎって俺にとっては素晴らしいお祝い事なのに失礼な。

「それからキサマだ。冒険者風情が団長殿と結婚など言語道断だ! ならず者どもが、思い上がりも甚だしい!」

だんだん声が大きくなってきた。するとどうなるかと言えば、ここは冒険者が主に泊まっている宿屋なわけで。


「おいおい聞こえてるぜえ。冒険者がなんだって?」

「どこのおぼっちゃん騎士だよ」

「朝から俺らに喧嘩売ってんのかい」

そもそも君は昨日ギルドで買取希望しとったやないかい、冒険者と同じことしてたやん、と俺がツッコミを入れる前に冒険者達から声が上がっていた。

だが凛とした声がそれを制していた。

「ジョシュア。表に出ろ。冒険者とリョータさんを侮辱するならば私が相手だ」

涼やかな紫の瞳でジョシュアを見据えている。

本気や。このおひとは本気なんや。

魔物を一刀両断する時と同じ目だもの。


「団長殿?!」

ジョシュアは驚いた顔で硬直していた。

俺は感動していた。

俺なんかのために即座にここまで言ってくれるなんて。

「ジョシュア。ここは国元ではない。エルストラ王国だ。ここは冒険者達の王国なのだ。他国の位など意味が無い。ここでは身分を誇る必要などないのだ」

「団長殿……」

レイナは優しく微笑んだ。

「冒険者は素晴らしい職業だぞ。新しい未知を冒険する。魔物を倒し、人々を助ける。薬草を採取する。それらが領民のためになるのだ。位を鼻にかけてふんぞり返っている貴族などよりも世のために働いている。何より私も今は冒険者だ。そしてそのことに誇りを持っている」

美人が華やかな笑顔で諭すのっていいなあ。

俺だったらたいていよくわからない言葉で終わっちゃう。


「団長殿……私はまだまだ未熟で、おっしゃる意味も全て理解はできません。しかし、団長殿が冒険者に敬意をお持ちなのは解りました。お詫び申し上げます」

ジョシュアは目を閉じると頭を下げる。

以外に素直だった。

周りの冒険者もレイナの涼やかな態度と冒険者を称えた言葉に機嫌を治していた。むしろ、冒険者達の王国ってかっこいいなおい、とか言って喜んでいる。冒険者って単純だなあ。

心の中で拍手している俺もだけど。

彼らは食事を終えると、俺やレイナに手を振って食堂を出て行った。


「団長というのもやめなさい。私は騎士をやめて国を出たのだから。ただのレイナでいいわ」

今は食堂には俺達だけだけど、ずっと団長団長言われても困るよね。

「それは……ではレイナ殿でよろしいですか団っ……レイナ殿」

「仕方ない。それでいいわ」

俺がさっきジョシュア殿って言ったやん?

それはあかんのですかい!

しかも団長殿っていいかけ言い直すなんて、なんてお約束なことをするやつなんだ。


「昨日は話が出来る状態ではなかったので、ここに伺いました」

確かにそうだった。宿に帰る俺とレイナにジョシュアが着いてきて、また日を改めると言って去った。まさか朝早くから来るとは思わなかったけど。

「改めてお願いいたします。どうか話を聞いてくださいレイナ殿」

二回目はからは、団っ、て噛まないのかっ。

「私が国を出ることは現当主と話はついていたのだ。私は騎士団から退いた身。国に帰るつもりはない。それに、今のわたしには……リョータさんがいる」

俺をみて微笑むレイナ。

騎士風のしっかりした話し方から、自然にこんな表情をする。

俺はこくこくと頷いた。


ジョシュアは何やら考え込んでいたようだったが、決心したように顔を上げた。

「レイナ殿を探すよう望まれたのはリリア様です」

3人だけとなった食堂でジョシュアは声を小さくして言った。

その言葉の効果は大きかった。

レイナの顔色が変った。

「リリアから……」

「はい。こちらを渡して欲しいと」

そう言って腰に着けていたベルトポーチから、一通の封書を差し出す。

伸ばしかけたレイナの手が止まった。俺の方を見て手を戻す。

「それを受取ることはできない」

リリアさんが誰かはわからない、けれどレイナにとってとても親しい人だろう。

そして手紙の内容は俺にだって想像がつく。

「国に帰ってきて欲しい」だろう。


「冒険者の朝はしっかりと朝食だ! ご主人、朝の食事を頼みたい! ジュシュア、私はリョータさんと朝食をとるので、席を外してくれ!」

レイナが席を立って大きな声で言った。

「レイナ殿っ」

ジョシュアの声にもレイナは立ち止まらず、自ら食事を頼みに厨房の方へ声をかけに行ってしまった。

「団長殿……」

ジョシュアが呟く。

俺はジョシュアと残されてどうしたらいいのか途方にくれたが、なんとか今日と明日を凌げは、予定していた依頼でこの町を出る。

わざわざ遠くまで旅をしてきて気の毒とは思うが、このジョシュアともそれでお別れだ。とりあえず、また団長殿って言ってるぞというツッコミはしないでおいた。

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