第五話 小分けしていた小銭がたくさん入った袋が役に立つ時
ギルド近くの居酒屋のテーブルに俺とレイナとその青年は居た。あの後ギルドで話し続けるわけにも行かず、場所を移動したんだ。
カルドンさんの次に俺とレイナと青年の買取が終わってからだけど。
貴族や騎士が利用するのに相応しい店など知らないのでギルド近くの店に入ったが、この世界ではクリーンやクリエイトウィータ、毒消しなどの生活魔法があるのでどこも衛生状態は良い。
広い店内には客がたくさんいる。主に冒険者達で飲み食いにがやがやと騒がしいけれど、かえってこちらの話に注目する者もいなくてちょうどいいかもしれない。
まずは自己紹介をした。
俺はアンファング所属の冒険者リョータと名乗り、青年はジョシュア・ボルツと名乗った。遠く西方にある王国の貴族ボルツ家の二〇才。騎士団の上級騎士だそうだ。
で、その騎士団の団長がレイナだったと。
ということはレイナも由緒ある貴族の令嬢ということになるのか。
きっといいところの出なんだろうとは思ってたけど、まさか貴族で騎士団の団長まで勤めていたとは。
なぜレイナを探しに来たのだろう。
普通に考えれば、それほどの身分ならば国に帰るよう家族に頼まれ連れ戻しにきたか、王宮か騎士団から召喚されたかだろう。
そのそも騎士団を辞めた理由を俺は知らない。
どうしよう。もしも退団になった理由が国元で解消されたとしたら?
俺は不安になった。
レイナも俺の方を見ていた。
詳しい事を俺に話していなかったことを気にしているのだろう。
冒険者同士、過去はうるさく聞かないのがルールだけど、さすがに驚きの経歴だ。そういえば俺の時はぶん殴られたんだっけ……
しかし貴族か。身分制度など無い世界に生まれた俺だ。そもそも馴染みが無い。学歴と年収と容姿で階級付けられた方がまだわかるっちゅうもんだ。
「リョータさん。黙っていてごめんなさい」
レイナはあらためて俺に、かつて騎士団長をしていたことを説明した。
王族を守る近衛騎士から第二騎士団の団長に就任したこと。名誉職に近いものであったこと。その後に退団してアンファングに来たこと。騎士団を辞めた理由は後で話させてほしいと。
レイナがあまりにも不安そうな顔をしているので俺は慌てて言った。
「ううん。ぜんぜん謝る必要ないよ! 騎士団に居たって聞いていたし。近衛騎士だったり騎士団長だったのはびっくりしたけど……えっと、王族じゃなくて良かった。そう、さすがに王女様とかだとさあ。出合いの時の事件がまずすぎるよね。その後の関係もっ」
俺の口からはそんな言葉が出ていた。
レイナとジョシュアもあっけに取られた顔をしていたが。
「あははっ。確かにそうね。リョータさんらしいわ……ふふ。ありがとう」
よかった。いつもみたいにレイナが笑ってくれた。
そして俺は閃いてしまった。
王女様ではないが貴族の令嬢と言えば姫と言ってもいいのではないか?!
いや、間違いなくいい!
ということはレイナは姫騎士ということに。
HI・ME・KI・SHI!
来たコレ!
俺は姫騎士とあんなことやこんなことまで既にいろいろしてこれからもおおおおお、やばいですすごい興奮してきました!
この興奮を改めて味わいたい!
いい感じに微笑み会う俺とレイナ。
俺の方は若干邪悪な笑みかもしれんけどな。
「おまえはいったい何者だ? 従者として雇われた者ではないのか?! 団長殿、こいつとどういう関係なのですか!」
驚いた顔でレイナを見ていたジョシュアが立ち上がって叫んだ。
何者なんだってさっき名乗ったやないかーい。
Cランク冒険者のリョータですどうぞよろしくお願いします、って丁寧に。
レイナも立ち上がり言った。
「ジョシュア。無礼な口は許さんぞ。今の私はアンファングの冒険者だ。リョータさんは冒険者として私の大切なパートナーであり、そして、その、リョータさんは……わ、私の恋人だ! 将来結婚をする相手だ!」
こうはっきりと言い切るところがさすがレイナだなと思う。
言い切った後で、ぼっと火がついたように顔を赤くするところもいい。
ちなみに俺の顔も真っ赤になっている。
こ、恋人。け、結婚をする相手ですか。
そ、そうだったのか。ちゃんと口に出したことはなかったけど、もちろんそのつもりだったので嬉しい。国に帰らずに一緒に居てくれるんだ!
「こ、恋人。け、結婚をする相手ですか」
いや、ジョショアよ。それ今俺が心の中で言ったから。
「まさか……」ジョシュアが信じられないというように俺とレイナの顔を交互に見ている。「どういうつもりだっ。そのようなこと許されんぞ!」
ジョシュアは俺に掴みかからん勢いだ。
「ああ?! どういうつもりだと?!」
俺も立ち上がって怒鳴りつけた。
ジョシュアがびくっとなった。
これくらいでびびってんじゃねえぞ、俺は初対面がドア蹴破られて突入だったんだぞこのやろう。その後に驚くべき恥ずかしいことが起こったんだからな。
だがそれよりも俺は今、レイナからもっと驚かされたんだ。
「俺は今、実質的にプロポーズされたんだぞ」
まさかの逆プロポーズだ。
俺が家族をもてるのか。幸せすぎて頭がくらくらする。
俺はレイナの手を取った。
「……リョータさん」
恥じらいと不安に少し潤んでいる紫色の瞳がとても綺麗だ。
「ありがとうレイナ。もちろん俺もそのつもりです。ずっと一緒に居てください!」
「はい。リョータさん!」
俺とレイナは喜び合い抱き合った。
ああ、なんて嬉しいことがあるんだろう。
突然、拍手が湧き起った。
え?
「あついぜー。お二人さん!」
「ひゅーひゅー」
「見せ付けてくれるわー。私なんて私なんて」
「おめでとう!」
店員さんや周りのテーブルの見知らぬ客達が手を叩いたり、床を踏み鳴らしていた。席を立って怒鳴っていたので、何事かと注目を集めていたのだろう。
そこに俺とレイナの熱い言葉と抱擁があったので拍手で祝福してくれたんだ。
あれ、よく見たらカルドンさんが一人で飲んでた。そっぽを向いて嫌そうな顔でテーブルを叩いてくれてる。
「ありがとうございます! ありがとうございます」
俺とレイナは周囲に礼をして手を振った。
半分は冷やかしや面白がってのことなのだろうけど、周りの皆さんが喝采で返してくれた。ジョシュアは呆然としている。
おお、今こそこいつを使う時だ。
俺はいつかやろうと思って小分けしていた小銭がたくさん入った袋を取り出した。まさか本当にこいつが役に立つとは!
「ウェイトレスさん。これで皆さんにエールをお願いします!」
大金は別の袋に入れてあって、この袋には銀貨と銅貨で五万エルド分入っているのだ。
全財産を出すことなく、かっこよく酒場に居合わせた人々に奢る。
これをやってみたかった!
冒険者達から歓声が上がる。
そして俺とレイナにたくさん祝福の乾杯をしてくれた。




