第一話 やはりアンファングの方が俺は好きだッ!
「ジュラーハって大きな町なんだなあ」
「ええ。とても賑やかな町ね」
城壁の中にはアンファングのように石造りの町が広がっていた。
俺とレイナはアンファングを離れて、ベレンナム領の町ジュラーハに来ていた。レイナは西方の出身だからアンファングに来る時にこの町に立ち寄った事があるそうだ。
「俺はやっぱりアンファグの方がいいな」
ろくに知りもしないでこの町に失礼かもしれないけど、俺はアンファングの方が好きだ。
「なぜ?」
レイナが小首を傾げる。
「だってレイナと出合った町だから……あ」
言ってからけっこう恥ずかしいセリフだったことに俺は気がついた。
「リョータさん、こんな往来で突然何を……」
レイナも顔を赤くした。
おお。こんな言葉が偶然でも出てくる俺ってもしやイケメンになれたんじゃないだろうか。
「ええー。お二人とも。仲が良いのはとてもいいことですが。ギルドで依頼を完了してからにしましょうね」
ロデックさんが苦笑しつつ言った。
彼はアンファグ冒険者ギルド所属のA級冒険者だ。ベテランの戦士で今回のパーティリーダーを勤めている。
「そうっすよ、見せ付けてくれるっすね」
「うふふ。知らない町で二人で過ごすのもなかなかいいものよね」
「気分も変るからのぅ」
他のメンバーも口笛を吹いたり、はやし立ててくる。
「……ったく」
ロデックさんと同じベテランのカルドンさんだけは、そっぽを向いていた。
「す、すいません!」
俺は謝った。
そうだった。二人で観光に来てるわけじゃないんだ。
町に入って気を抜いてしまったけれど完了報告をするまでが依頼なんだ。
きっと「家に着くまでが遠足です」みたいなもんなんだろう。
恥ずかしい思いをさせてごめんとレイナに謝ったら、レイナも一緒に皆さんに謝ってくれた。「うちの亭主ったらもうすいません」みたいな感じだったので、その扱いに俺は少し嬉しくなってしまった。
「冗談ですよリョータ。町に入ってるんですから。仲良くていいことです。ねえ、みなさん」
ロデックさんの言葉に続いて他の冒険者達も口々に、気にすんなよ、からかっただけだってと言ってくれる。
「そうっすよ。町に着いたんだ、思う存分いちゃつくがいいっす!」
「俺もいちゃくつきにいくかあ」
「あんたの場合、正しくは女に金を巻き上げられに行く、でしょ」
「う、うるせいやい」
無事に町に着いたこともあって皆さん陽気だが、カルドンさんだけはやっぱり明後日の方向を向いていた。
「さあ、ギルドに行きましょう!」
ロデックさんの先導で俺達は冒険者ギルドに向かった。
ジュラーハの冒険者ギルドは三階建ての立派な館だった。
アンファングのギルド館と比べると小さく見えるが、充分大きな建物だ。アンファングのが大きすぎるんだ。
中はカウンターがあって、壁沿いに依頼票が張ってあって、ちょっと休める喫茶スペースがあるのはどこの冒険者ギルドでも同じだが、残念ながら受付嬢に猫耳女性は居なかった。
やはりアンファングの方が俺は好きだッ!
今回の依頼はベレンナム領内の探検調査だった。
アンファングで依頼を受けて、森を探検しながらいくつかの村を経由してジュラーハに入ったのだ。
依頼を完了して報酬を受取り、魔物退治の報酬や素材を買取してもらう。後日には踏破部分の情報が纏められ地図も作られる。これぞ冒険者って感じの仕事だった。
取り決め通りに報酬を分配するとパーティは一旦解散だ。
一週間後に再合流して、ここからある村への護衛依頼に参加する予定だ。それまでは各自で自由に過ごす。もちろん俺はレイナとこの町を満喫するつもりだ。
「それでは皆さん、お疲れさま」
ロデックさんは冒険者歴も長く人当たりも良い戦士だ。
他の冒険者達とは初めて組んだけど、依頼中は特に揉め事も無かったんだが……
「おい、ロデック。昆虫系魔物の素材買取額が、お前の予想より下だったぞ。やっぱり手前の村で売っとくべきだったんじゃねえか」
カルドンさんがロデックさんに向かって言った。
この人もロデックさんと同じく古株でAランク冒険者なんだけど、何かとロデックさんに文句を言う。
みんなまたかという顔をしていた。
難癖ではないし、間違ったことを言っているわけでもない。ロデックさんに意見できるのはベテランだけだから貴重な存在なのかもしれないけど。
「それは確かにそうだけど。相場のことはわからなかったんだよ。それに、今回はここで解散だからこの町で換金することになってただろう」
ロデックさんは特に嫌な顔もせずに説明する。
カルドンさんはぶつぶつ言っていたが、納得したのかさっさとギルドを出て行った。打ち上げをしようという誘いを「収入が予想より低かった。もったいない。パーティは解散してるから俺は行かない、じゃあなみんな」と断って。
「みんな、ごめんな。悪いやつじゃないんだけどな」
ロデックさんがフォローする。
うん。パーティを組んでいる間も我侭な行動をするわけでもなく、レンジャーとしての腕も確かだった。
「いいっすよ、ロデックさん。なんていうんすかね。その。大雑把な人が多い冒険者にはちょっとめずらしいっすよね」
槍使いのホー君が言う。
そうなんだよ、なんか調子が狂うんだろうね。他のメンバーも頷いていた。
そんなことがあり、そのまま解散になってしまった。
打ち上げがないなんて……はやくレイナと二人っきりになれて、結果オーライだぜ!




