プロローグ ラヴェンダの橋
アンファング城塞の西門を出て、外に広がる城外町を北西に行くとレーヴェヴォール川の流れに出る。徒歩で四半コクほどの距離だ。
レーヴェボォール川はアンファングの西側を大きく囲むように流れている。水量の豊かな美しいその川は、周辺に点在する多くの町や村の水源にもなっている。
そこには古い石橋が架かっている。
魔法によって架けられたという橋の欄干には神々や英雄達、魔獣の見事なレリーフが彫り込まれ豪壮な美しさを見せている。
古にはレーヴェボール川はアンファングの西を守る自然の堀であり、境界線でもあった。橋には関所が設けられ多くの兵士が守っていた。
戦いも遠くなった今では、離れた所へ新しい大きな橋が架けられている。大街道へ直結していてアンファングへの出入りも便利なため、多くの人が新しい橋を利用する。橋は重要施設であるため古い橋の兵士詰所は残されているが、その規模は小さくなった。しかし、その古橋を渡る旅人はいる。ぜひともその美しい橋を渡れと薦める人も少なくない。
西方から来た者は巨大な城塞都市を真っ直ぐ前方に見ながら橋を渡り、アンファングに着いたのだと実感する。アンファングからは橋と澄んだ川の流れを眺めに町の人達もやってくる。西方へ旅立つ者は橋を渡れば冒険者の町を出るのだと感傷を込めて振り返る。
その橋にはアンファング橋という簡素な正式名称があるのだが、人々は時に別の名で呼んだ。
アンファングを出た冒険者が英雄として還った時は凱旋橋。
生き別れた兄弟がこの橋で偶然再会した渡らず橋。
因縁のある二人の冒険者が決闘を行った時は再会橋と。
川霧とともに不思議な魔物が橋上に現れた頃はないたヌルルの橋など。
一つの名前が生まれては忘れられて行き、アンファング橋に戻る。そしてまた新たな名で呼ばれることを繰り返した。
そして。長らく元の名に戻っていたこの橋に、新しい呼び名が生まれた。
人々はその橋を「ラヴェンダの橋」と呼ぶようになった。




