第19話 死線
ゾラさんの剣の腕はBクラスの人の物ではない。
マテウスさんのように洗練された剣ではないが力強く正確だ。
一方ジェイグさんは素早く動いて相手に剣を突き入れる。
二人は互いの背を庇いあうようにして戦っている。
俺が二人の戦いを見れたのは少しだった。
俺は俺で別の剣士と切り結んでいたからだ。
走竜を狙いに来た剣士一人を相手に、俺はなんとか相手の攻撃を防いでいる。
ゾラさんとジェグさんの戦いを見る余裕はないが、加勢に来ないということはまだ続いているのだろう。
俺がこの剣士を倒すしかないのか。
この期に及んでまだ俺は躊躇している。
それがまずかったのか、相手の剣で腿を少し斬られた。
まずい――
「リョータさん伏せて!」
グリアスさんの言葉に俺はとっさに従った。
べきんっっと音がして剣士が吹っ飛んで地面に転がった。
スピードタイプの灰色走竜なのに見事な攻撃だった。
グリアスさんが操って強烈な尻尾の一撃を見舞わせたのだ。
「ぼ、ぼくだって戦える。昔の僕じゃないんだ」
声は震えているが、グリアスさんが力強く言った。
「大丈夫かグリ。リョータ」
敵を切り伏せてゾラさんがやってきた。
ジェイさんも。
「グリアス……」
「ジェイグっ。ジェイグだろ! ぼくだよ、グリアスだよ」
グリアスさんはすぐにわかったらしい。
ブラウオリゾンのメンバーがついに揃ったんだ。
一人はギルドのお尋ね者で。
一人は商人になっていて。
一人はずっとBランク冒険者だけど。
「一頭分の薬を外してここに残す。全員とにかく村へ逃げ込む」
ゾラさんが決めた。
グリアスさんとジェイグさんがすぐに行動する。
彼らの眼前に薬をちらつかせてその間に逃げる作戦だ。
ポーションでもあれだけ反応してたんだ。
これはいい案かもしれない。
そう思った俺が次に見たのは樹の陰から現れた一人の剣士が、何かを唱えながら剣を振りかぶるところだった。
あの構えって――
そして同様に隣に立ったローブ姿の男から真っ赤な炎の球がこちらに向かって放たれようとしている。
「シールド!」
俺はワンドの発動語を叫ぶ。
煌く透明の幕が展開する。
火球や炎槍ならこの対処で問題ない。だが。
「エアショットと火球だ!」
ゾラさんが盾を構える。
風の魔法と火魔法は合わさると威力が増す。
膨れ上がった炎が飛んでくる。
音を立ててシールドが砕けた。
爆炎が二人を飲み込む。
走竜も一騎、炎に包まれていた。
俺は余波を食らって吹っ飛ばされた。
解呪禍薬を積んだ走竜を巻き込むような攻撃は避けていたはずだが、数が減ったから走竜一頭分の積荷があればいいと纏めて俺達を攻撃してきたのか。
ポーションを。
ベルトパウチを探るがなかった。
そうか。2本とも使ってしまったんだ。
予備の補充をする前にこの緊急依頼に出てしまった。
油断した俺のミスだ。
体のあちこちが痛い。
ステータスウィンドウを出した。
28才
体力 25/72
魔力 25/30
状態:左腕骨折。左大腿部裂傷。焼けど。
筋力 13
器用度 14
敏捷度 12
生命力 13
魔力 5
<ウィンドウカスタム>
半分を切った体力の表示が黄色くなっていた。
ヒールをかける。
魔力が20になって体力が27になる。
裂傷は完全にはふさぎきれていないし、骨折とやけどの痛みもあるが、ヒールではこれが限界だ。
立ち上がると背中が黒こげになったジェイグさんが、ゾラさんに覆いかぶさっているのが見えた。ゾラさんもあちこち火傷している。
グリアスさんは走竜から振り落とされていた。
その走竜は首や尾を振ってあばれている。
もう一匹はどこかへ駆けて行ってしまったようだ。
戦えるのは俺一人。
敵は魔呪禍病でかなり弱っているとはいえ、魔法使いと剣士を含めてあと4人か。
「全員殺せ。薬を奪って逃げる」
レルドが命じると、ゆっくりと剣士が来る。
風刃より劣るがエアブラストを放ったほどの魔剣士。
俺は人を殺すのが怖かった。ずっと避けてた。
だからCランク試験に落ち続けた。
やつらの真っ赤に染まった目が怖い。
俺を殺そうとしている。
その殺意がたまらなく怖い。
薬を奪って生き延びようとしているこいつらが怖かった。
殺されるのが怖かった。
死んだら終わりだ。
ゾラさんも殺される。
グリアスさんも。
もう二度と会えない。
ゆびきりの約束も。
レイナと話すこともできない。
カラハさんにもギルド職員の皆にも。
人の命を奪おうとしている者達が生き延びて、俺もゾラさんもグリアスさんも薬を待っている人も。
ここで死んだら何もかも終わってしまう。
人殺しを怖がった俺だけが死ぬのならいい。
だけど、命を救う依頼を俺は受けたんだ。
依頼を受けたら完了しなくちゃいけない。
戦うんだ。
戦え。
何か。
何か無いのか。
俺に出来ること。
死ぬ前に、殺される前にできること。
俺が使えるものはなんだ。
この剣だけか。
ならば剣を振るうために。
守れるものがほしい。
俺を、俺の後ろにいる人たちを。
待っている村人の運命を守れるものが。
戦う方法が。
俺には――
俺の頭に小さな火花のような思いつきが湧き起った。
考えている時間は無い。
それを出してカスタマイズした。
通用するのかわからないけど、一瞬でも隙が出来ればいい。
それに賭けた。
魔剣士の剣が振りかぶられて俺に叩きつけられる。
ぎぃぃぃぃんっと甲高い金属音が響いた。




