第12話 J
まったく油断した。
彼は顔を顰めた。
傭兵の一人を連れてシィーニに来ていた。
エルストラ王国に入国してからは森林の中で魔物と遭遇することが多く、予想よりも早く消耗品の補充が必要になったからだ。
記憶にあるよりも魔物の数が多い気がするが、街道を避けて行く以上は魔物に遭遇する可能性が高いのは仕方ない。
本来なら街道を使ってもっと手早く移動する方が楽だ。
そもそも密入国者だろうが野盗だろうが、広すぎて取り締まりは難しい。こんな風に町に紛れ込んでしまった方がかえって安全なくらいだろう。
だが、主街道は避けると決めていた。特にアンファングに近い場所では。
不思議なのはレルドが大人しいことだ。文句を言いながらも人里を避けている。
いつまで我慢が続くかしらねえが……
彼は雑貨屋で注文を終えると荷物が纏まるまで店横の陰に身を潜めた。
すると、なぜかふらりと冒険者風の若者がやってきた。通行人かと思ったら突然目の前に座った。
俺が居ることに気がつかなかったのか?
つい周囲を警戒しようと外に出ていたのが仇になった。
こいつのホームタウンはどこだ。
冒険者ギルドの掟は知っているのか。
若者はまだまだ駆け出しの冒険者のようだが、彼は内心穏やかではなかった。
そこに座った理由を聞いて彼は思わず眉を顰めた。
この新人冒険者はブーツの具合を見るために、手近な所へ座っただけだった。
なるほど。品は良いのに手入れがなってない。部品が外れかかってる。
どいつもこいつも――
靴は大事だろうが。
ついそう言っていた。
すると帰ってきた言葉。
「冒険者にとってブーツは大事な装備ですよね」
ブーツは大事な装備。
熟練の冒険者なら口にしてもおかしくないことだが、その言葉に彼はどきりとした。
彼自身も言うが、それはかつての友であり仲間だった男がよく言っていた言葉なのだ。
ふと、その時のことが思い出される。
もう一人、友人がいた。彼も仲間だった。三人で冒険者として生きた日々を思い出す。
だが俺には懐かしく思い出す資格がない。
とにかくこいつをさっさと追い払おう。
彼はそう思い言った。
「おい。それをかせ」と。
ブーツを直してやるとそいつは礼を言って喜んで去っていった。
ああいう頃が俺にもあった。
昔のことを思い出してしまう。
やっとレルドの部下が出てきた。
自分の分の荷物を受取り歩き出す。
ふと、ここからアンファングまでの距離を思う。
15年も前か。
あいつらがまだあの町にいるとは思えない。
道で会ってもわからないかもしれない。
だが、一時も早く離れるに限る。
シィーニの町を出た。
彼は北の森を西に抜けて行くつもりだった。
ちょうどいい道を幾つか知っている。
荷を背負いなおすと、彼は後ろも見ずに歩き出した。




