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第7話 深夜

ふと夜中に喉が渇いて起きてしまった。

酔いは残っていなかった。

解毒の魔法で酔いが覚めるので、寝る前にかけていたからだ。

あんまりすっきりしてしまうとせっかくのアルコールがもったいないし、酔っていたかったから唱えるのは一回だけにしておいた。


水差しから水を飲むとカーテンを少しあけて窓の外を見る。

まだ町は暗かった。

魔法の外灯がぼんやりと光っている。

「緑色になってるから0コクは過ぎてるな……」

外灯の魔石は最初は青白い光で、0コクから2コクくらいまでが緑色になるからだいたいの時間がわかるようになってる。

なんだかへんな時間に起きてしまった。

もう少し寝るか。

起きたら朝の稽古は何をしよう。

どんな依頼を受けようか。

そう考えて昇格試験のことを思い出す。


ランクCへの昇格試験は魔物討伐と素材採取依頼が一定数達したら受けられる。素材採取は得意だし、コボルトやゴブリンなら倒せる。解体も何とか。

冒険者のルールについての筆記試験は簡単だった。

魔物と戦うのも低ランクの魔物なら大丈夫だ。

けれど商人護衛依頼の達成が俺には出来なかった。

達成以前に対人戦闘での技量不足と判断されて、依頼を受けることも許されなかった。


なぜ護衛依頼が重要視されているかというと、比較的安全な土地でも魔物以外に野盗が出ることがあるからだ。物資や財産を奪おうとする無法者たちがいる。


商人は冒険者ギルドと同じで商人ギルド証でお金を預けることも可能だ。

しかし限度がある。500万エルドまでだ。俺には充分だと思うんだけど、大商人になるとこれでは額が足りないので100万エルドの大金貨や1千万エルド貨に変えて「預かり所」に預けるそうだ。


商人は大掛かりな隊商を組む時もあれば、馬車一つで村々を回って商品を売買することもある。買い付けの資金を持参していることもあるだろう。

移動市もあるけどあれは主街道だけだ。

商人が国内を行き来することで村や町の生活や経済が成り立っている。その彼らの安全を護ることはとても大事だ。

護衛依頼は冒険者とギルドにとって重要な仕事で、だから護衛依頼をこなせて始めて冒険者として認められる。


護衛というのはなかなか大変だ。

俺もゾラさんのパーティーに見習い兼荷物持ちで参加させてもらったけど、常に警戒していなければいけなくて精神的につらかった。

野営する時も周囲を探知する魔道具はあるんだけど範囲は狭いし完全じゃない。交代で見張りをしたりする。

昼も夜もいつ何がどんな風に襲ってくるかわからないのに即応が求められる。

襲ってくるのは魔物かもしれないし盗賊かもしれない。

そう。時には、知恵があり悪意を持って攻撃してくる人間と戦わなくては成らない。


俺は低級魔物相手ならなんとか戦えるようになったが、対人戦になると全くだめだった。

人相手だと武器も防具も違うし、フェイントや魔法も使ってくるわけで俺は混乱してしまう。

それに、俺の心に迷いがある。


盗賊は返り討ちってのが原則だ。

盗賊が捕まった場合はほとんどが死罪で、良くても重犯罪奴隷となって過酷な労役刑となる。

そう。この世界には奴隷制度があるんだ。

大っぴらに売買されているわけじゃないけれど、借金返済の為に労働奴隷となる人も居たりする。奴隷というとめちゃくちゃこき使われて虐げられてるのかと思ったら、そうでもないらしい。普通に衣食住と無茶な命令はされないようになっている。


奴隷制度があるって聞いて、美少女奴隷を買ってエッチハーレムダー!

なんてことをちらっと夢見ていたのが懐かしい。

いくらご主人様でもそういうのは無理にしてはいけない決りだそうだ。

よかった。不幸な少女が性奴隷にされるなんてないんだね!

と思ってたら、「まあ建前はそうだけど実は……」とオースチン君っていう冒険者仲間が教えてくれた。

彼は農家の三男で、冒険を求めてアンファングに出てきた。

冒険者仲間。

うん、いい響きだ。

まあそのオースチン君はとっととCランクになって今は別の町に行っちゃったけど。

そのオースチン君曰く。

ご主人様の性的欲求を叶えた方が高く買ってもらえるから借金は減るし、給金も上がる。それによって決まる労働期間が短くなる。

奴隷=生涯身分ではなくて、あくまで労働奴隷なわけだが、主の欲求を叶えるという前提があれば購入時の待遇もよくなるわけで、さらに子供を生んじゃうと奴隷から開放されて第二婦人やら側室扱いになるわけで、つまりはそういう話もままあるのだそうだ。

うん。異世界世知辛いよ。


オースチン君は俺が言うのもなんだけど、見た目がとっても残念な青年だ。

彼の目標は冒険者として身を立てて奥さんを貰うか、奴隷を買って仲良くなって奥さんになってもらうということだったっけ。

どうしているかなあ。元気で冒険者しているかなあ。


奴隷制度って俺にはちょっと受け入れがたいけど、俺が彼に良し悪しを言うことはできなかった。

オースチン君にとっては嫁さんゲットはものすごく重要なことである。

「まるでオークのようだからオークチンだな」と呼ばれているくらいの容姿なのだ。気はいいヤツなんだけどなあ。

彼を見て「なるほど噂どおりだな、オークチンか! わっはっは」と笑った虎獣人のおっさんと俺は大喧嘩をした。

結果は俺が一方的にヒールと治癒軟膏のお世話になったとだけ言っておこう。ぐすん。


それはさておき。

俺も冒険者として頑張りたいけど、それには対人戦闘。

「はぁ……」

俺はため息を付く。

最大の難関は、この世界のルールに従うこと。

対人戦闘の肝は殺意だ。

襲ってくる人間を殺せるかどうかってこと。

殺人。

これは俺には荷が重い。

なまっちょろいのかもしれないけど、人殺しはしたくない。

そういうところをギルドの判定員さんは見抜いてる。

だから落とされる。

このまま俺はDランクのままなんだろうか。

別の仕事を探したほうがいいのだろうか。


そんなことを考えていて、レイナが連れて行ってくれたレストランを思い出した。

美味しかったなあ。あんな食材があるとは。

もしかしたらもっと美味しい食材がこの世界にはあるのかもしれない。

探しに行くにもDランク冒険者では無理か……

移動市で別の街に行って帰還方法の手がかりを探そうにも、職とお金が無いといけない。


俺は何となく隣の壁を見ていた。

レイナは眠っているのだろう。

俺のためにミツ茸の料理を探してきてくれたレイナ。

魔物を屠る時の冷静な剣の技。

俺が喜ぶとそれを喜んでいた彼女の優しさ。

ほんとうに嬉しかった。

うん、レイナのことを考えたら益々眠れなくなってしまった。


俺は薄闇の中でごろごろと寝返りを打ちながら考える。

悩みというか懸案事項が俺にはいくつもある。

まずは、俺が何故この世界に来てしまったのかが解らない。

帰還方法も不明。

探し出す為の職とお金を稼ぐには冒険者ランクをCに上げる必要がある。

だが、Cランク昇格には対人戦闘の技量と覚悟がいる。

つまり依頼人を護る為に襲撃者を殺すこともしなければならない。

それからレイナのこと。

俺は彼女に自分が異世界人だと隠したままでいるが、それでいいのか。

でも告げても信じてくれないかもしれない。


「前途多難というか、なんというか……」

異世界ってもっと単純だと思ってたなあ。

チートでハーレムで、困難があってもいい感じで解決していくと思ってた。

やはり異世界だろうと人生は甘くないな。

もっと、頑張らないと。

そう思いながら気がつけばまた隣の部屋の壁を見ている。


いつの間にか外灯の色が白く変わっていた。

時刻は2コクを回ったんだ。

寝ようか、どうしよう。微妙だな。


「……こういうときは……とりあえず筋トレでしたよね」

俺は腹筋を始めることにした。

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