第5話 リョータの悩み
数日後、レイナが薬草と素材の査定を受けている間、俺はギルドホールの片隅で待っていた。
依頼された薬草が即効でゲットできたので昼過ぎにはギルドに戻ってきたのだ。
壁にはたくさんの依頼票が貼ってある。
それをぼんやりと見ながら考え事をしてた。
俺は未だに帰還方法どころか、この世界に来た原因もわかっていない。
冒険者ギルドの資料やアンファングの図書館で調べてもいる。
魔法ギルドに行ってみたりもした。
魔法ギルドは魔法や魔道具の研究開発や販売を行っていて、魔法を有料で教えてくれたりもする。
俺は転移とか召喚とかの魔法について教えて欲しいと依頼した。もちろん有料である。
応対してくれた薄青いローブ姿のやつが「え。魔力が少ないし生活魔法しか使えないのか。そんなんで高位の魔法を知りたいとか馬鹿じゃないのか。使えないじゃないか」と言われた。
正論過ぎて腹が立ったが、だとしてもそれを使われたかもしれないわけで。使われるほうに魔力は要らないわけだと思ったら、ますます腹が立って。
「うるせー! 知りたいもんは知りたいんじゃー! それにな。使えない未知のものだからこそ憧れるってこともあるじゃないか! 地平線の遥か向こうを目指すのが男子じゃないか、ロマンだろ!」と自分でもよくわからない感じに言い返したら、「うん、なるほどロマンか」と、なぜか妙に納得していろいろ教えてくれた。まあこれが俺とパルセルとの出会いなわけだ。
ギルドの蔵書を調査してくれた結果、「召喚の魔法」というのがあった。
これは特別な契約をした精霊を呼び寄せる魔法だ。だが、契約をしていない物は召喚できない。
魔法というより魔法を使った儀式に近いかもしれない。
かなり複雑な呪文で高い魔力が必要だが、今ではごく一部の精霊使いがその技を伝えるのみで滅多に使われていない。
精霊使い。エレメンタラーか!
かっこいいぜ。
あれ、もしかしてこれってさ、異世界人の俺が精霊の住まう土地に行くと、もうたくさんの精霊がわんさかと、たぶんいせかいのはどうにめろめろになって、契約してぇーって群がってきて、そいつら実は超強い精霊だったりして、俺最強になってしまって、綺麗な精霊達とあんなことやこんなこともできて、おおおおお!
これは行くしかない!
いざ行かん精霊の集う場所へ!
「パルセル! 精霊の居そうな場所ってどこ?!」
「え? そこらへんにいるじゃん?」
なんですと?
「み、見えるのか!」
「見えるという感覚じゃないんだけどな。まあ、俺は少し精霊魔法使えるから」
はいはいエレメンタラー目の前にいたー。
なんかこういうの多いんですけど。
うぬぬ。
いいんだいっ。
超強いエレメンタルなんていらないもんっ。
むしろ俺には強いメンタルが必要なんだからな!
……自分で言ってて落ち込む俺だった。
そんな感じで当初の目的をたまに見失いつつも調査は続けていたんだが、まったく手がかりがなかった。
諦めかけていたら、なんと童話や伝承の中に手がかりがあった。
手がかりとよべるか微妙だけど。
俺がたまにこっそりと行く居酒屋『昂ぶる雄牛亭』に来ていた吟遊詩人さんが、他の宿泊客のリクエストで語りだしたのが英雄譚や勇者の物語だった。
やっぱいるんだね勇者!
邪悪な神を勇者が倒す話とか魔王を勇者が倒す話があった。
詳しく聞きたかったのでエルドを払って教えてもらった。
内容は違うが、祈りを捧げると勇者が現れたという共通点がある。
もしかして、それって勇者召喚ってヤツじゃないだろうか。
それが異世界からの召喚だったら。
この小さな手がかりでも俺は嬉しかった。
それからギターみたいなウクレレみたいな楽器を持ってたので、音楽に飢えていた俺は「なんかこんなかんじでじゃんじゃか鳴らして歌ってみてほしい」とあーだこーだ言ってたら、なんかいい感じになってきた。
吟遊詩人さんは「こ、これは新しい」と弾いていた。
もしかして新しい音楽で大儲けルートきましたかっ!
いっそもう俺がプロデュースでアイドルグループでも作っちゃうか!
異世界だからISK44とかどうだろう。
と思ったけど、周りの人から絶不評だった。当の吟遊詩人さんも含めて。
これはあれか。昔はロックなんかうるさい、音楽じゃないって言われてたそうだが、そういう感じなのか。こちらの人たちには新しすぎたのかも。
ちょっとだけしか聞けなかった懐かしの音楽に近い調べに、俺は満足しながらも、その結果にがっかりするのであった。
それはさておき。
俺はどうしてこの世界に来たのか。
まずはまったくの偶然である可能性。
例えばあの時の地震が、次元の地震だったとしよう。原理も理由も不明だが異世界が重なり合ってぶつかってそれが地震となって次元に裂け目が出来た。
となると、俺の帰還は偶然待ちだ。
あんな現象は聞いたことは無いが、昔から起こっていたのだろうか。あったとしても余程のレアな現象じゃないだろうか。
となると、自然に元の世界に帰るのはもっと激レアになるのか……それに巻き込まれた俺って、むしろ俺が激レアキャラ?
ゲームでレアキャラ全然引いたことがない俺がなってるのもどうかと。
何よりこれが偶然だと俺にはまったく帰還の手立てが無くなってしまう。
次の可能性は俺が何らかの召喚魔法でこの世界に来た場合だ。
魔法が不完全だったのか、イレギュラーが発生したのか、俺はあの森に出現したと仮定しよう。
おかしなステータスウィンドウもあるし、俺としてはこっちであって欲しい。それならまだ召喚した人がいるということだから、「こらー送還しろよ、お願いします」って言いに行ける。
よくある一方通行で送還無理だとつらいけど……
召喚だとして、その理由がわからないのも困っている。
吟遊詩人の語るような「魔王が出たー。倒してきてくれー」という話だったらどうしよう。
ちなみに情報通でロックの嫌いな吟遊詩人さんは今のところ魔王が出たとか勇者が現れたとかいう話は聞いていないという。
なんで召喚されたのか謎だ。
理由がわからないので召喚したヤツに会うのは怖いが、そもそも誰が召喚したかもわからないのだ。
俺自身がアンファングを出て、もっと探さないといけないんだろうなあ。
しかし大きな壁がある。
うん、俺が今眺めているのは依頼表のたくさん張ってある大きな壁なのだが。
そこに張ってあるものが俺にとっての壁なのだ。
それは――
Cランク以上の冒険者にしか受けられない依頼。
「護衛依頼」だ。
「おまたせリョータ!」
レイナが戻ってきたので、俺は慌てて壁から離れた。
「ううん。手続きありがとう。レイナ、腹減ったよ。昼食食べに行こう!」
俺は言葉だけはせめて威勢良く応えた。
それに昼食誘うなんざ朝飯前だぜ。
いや、昼食だから朝飯後だけれども、とにかくご飯に誘ってみたぜ。
探索は一日かかると思っていたので保存食を食べてもいいけど、せっかく早めに帰ってきたんだか美味しい物が食べたい。
「ああ、今日は行き会い場所があるんだけど。いいだろうか?」
「行きたい場所? うん、もちろんいいよ」
いったいどこだろう。
「では、いこう!」
ご飯食べる前に道具屋にでもよるのかな。
そう思って俺は素直にレイナについて行った。
うっわ、なにこれ!
「すごい! すごい美味さと香りだ!」
俺は叫んでいた。
出された肉と茸のステーキから立ち上ったあの秋の味覚の香り。
夢ではないかと思いながら頂いた。口に含んだ。
その瞬間に俺は叫んでいたのだ。
これは、まさしくマツタケだった。
いや、それ以上だった。
「はは。気に入ったようだな。すごいだろ! ロコロコロ肉とミツ茸の特性ステーキランチだ。この時期だけ限定の、究極肉汁に香り最高味至高と滅多に食べられない取り合わせなんだぜ!」
獣人の店長さんが教えてくれた。
「すごいです! 感動しました!」
俺はとあるレストランで料理を頂いていた。
レイナが行こうと言ったのはこの料理店のことだったのだ。
この入店した時からこの香りに俺は圧倒されていた。
まさかこんなことがあるなんて、と。
出てきた肉と茸に期待度は最高潮に達していた。
そして食べた瞬間。
ああ。この口の中ではじけるような肉汁の美味さよ!
なにより、なんだよこの香り。
松茸みたいだけど、もっと芳醇だ。
異世界すげええ。
松茸みたいのがさっそくあったなんて!
というか、マツタケよりももっと香りが強いんだけど、清々しさも感じる。
そして食感もいい!
「おお。まるで実りゆく山の恵みを現したかのような複雑で濃厚なこの素晴らしい味と香り。この食感。そしてこの肉ときたらあふれ出る脂の甘みがあいまって、おいしすぎる。香りまで美味しいなんて、なんという素晴らしい料理なんだ! 店長さん最高です!」
異世界すげえぇぇ。
香りマツタケより上で味シメジより上ってすげえ。
「わはは! よっぽど気に入ったんだな! 嬉しいぜ!」
そういって上機嫌で彼は厨房に戻っていく。
「ありがとうレイナ! こういうの食べたかったんだ! すごいよレイナ!」
俺は大興奮だった。
あちこち食べ歩いたと思ったけど、まだまだ知らない食べ物あるんだな。
しかもこんなに美味しいなんて!
ああ、この香りがたまらないぜ。
「良かった! こないだ、香りのいい茸の話をしていたから」
すごく嬉しそうなレイナ。
俺は驚いていた。
あの時、森でした話を覚えててくれたんだ。それでこの店に連れてきてくれたんだ。
「ありがとう……」
美味しい物も嬉しいけど、レイナが俺のことを気にしてくれていたことがとても嬉しかった。
俺は深々とレイナに頭を下げた。
「ぐ、偶然こういう料理があると知っただけだぞ。そんな礼などしなくていいんだからなっ。どんないい香りなのかよくわからなくて少し手間取ったけど……た、たいしたことじゃないからな、あたまをあげてくれっ」
レイナは顔を赤くして照れている。
そうだった。いい香りの茸ってだけだったもんな。
この世界にはなかった味覚かもしれなかったのに。
探してくれたなんて。
「レイナ……すごく美味しいよ。ほんとにありがとう」
俺、感動で泣きそうです。
というか、元の世界を思い出しちゃった上に、マツタケ以上だし、美味しいし、レイナの優しさと、もう諸々合わさって泣いてしまいました。
「りょ、リョータ。泣くほど美味しかったのか。よかったぁ。きっとリョータが好きなのはこれだろうと思ったのだ。喜んでくれて嬉しい」
レイナは泣いている俺にびっくりしたようだが、美味しさに感動していると思ったのだろう。
すごく嬉しそうな顔で笑っていた。
あかん。
この笑顔は俺には刺激が強すぎるよ。
「ほらほらリョータ。泣いてないでこっちの野菜も食べて」
俺に野菜の皿も勧めてくる。
「ありがとう。頂くよ!」
涙を拭いて齧ってみたらなんだよ見かけは緑色だけど、うわああ、サツマイモみたいだ。
ほくほくして甘くて美味しい。俺の知らない美味しい食物がまだまだたくさんあるんだなあ。
「これも美味いよ、レイナ!」
「ふふ。ほんとうだ。美味しいな」
レイナも笑顔だ。
どうしよう。二人で美味しいと言い合いながら食事をすることって、なんて素敵なんだろう。
レイナってどうしてこんなに素敵なんだろう。
「ほらっ、料理を絶賛してくれたから内緒でおまけだ。もう一皿づつ二人にサービスだ」
店長さんが笑いながら皿を持って来てくれた。
おお。やったね!
「ありがとうございます。いただきます!」
「ありがとう」
俺とレイナが礼を言うと、店長はにやりと笑って言った。
「いいなあ。こんな別嬪さんが彼女だなんてうらやましいぜ」
「かかかか彼女?!」
えっ、そ、そう見えるのかな俺達。
「ちちちち違うぞ!」
真っ赤な顔で全力で否定されてしまったよ。
う、なんだろう、ずきんと胸が痛んだ。
これはいったいなんだろう。
「がっはっは。そうなのか、頑張れよ、にいちゃん!」
女性と一緒に食事をしてこういう状況になったら、男はどうするべきなんだろう。
ドアの着いた俺は妄想的には無敵なのになあ。
デートのマニュアルが載ってる雑誌が売ってたら10万エルドだって出すのに!
俺はただただ「美味いよレイナ」と彼女に感謝しつつ、ロコロコロ肉とミツ茸の特性ステーキランチのお代わりを頂いたのだった。




