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第3話 武器と防具の店にて

パルセルに魔法を習ったと思ったがよくわからなかったその後で『通称。輝け! 楽しき憩い亭』に戻ってレイナと至福の朝食を過ごした。

早朝練習が長くなったので、少ししか一緒に過ごせなかったのが残念だ。

レイナは今日はルナちゃんや女性冒険者達と冒険者ギルドで勉強会兼昼食会らしい。

いわゆる女子会というやつか。


俺は武器と防具の店に出かけた。

宿から歩いて4半コクほど。つまり30分くらいの場所には商店街がある。

武器屋防具店などが並ぶ通り。剣と盾が描かれた看板の下に「武器防具ドランブイエ工房」と書かれている店に入る。


「こんにちは!」

武器と防具がずらりと並んでいてる。

どれも埃一つ無く綺麗に陳列されて、店内は明るく清潔だ。

「おう。なんだ小僧か。何の用だ?」

そう言って出迎えてくれたのは皮の前掛けをしたドワーフの女性だ。

身長はドワーフ男性と変らないが顔は髭もないしけっこう可愛い。もし俺が三頭身ぽっちゃり体形が好きだったら随分と喜んでいたことだろう。

ちなみに普通のドワーフ女性はこんな乱暴な口調ではない。あらっぽいのはユイエさんの個性だ。


「お嬢。お客様にその態度はよくありませんぞっ。リョータ様。ようこそいらっしゃいませ」

そうして丁寧にお辞儀するのは執事っぽい服を着た細身のドワーフ男性だ。

「こんにちはシルドさん。お世話になります」

職人気質のドワーフの女鍛冶がユイエさんで、ドワーフらしからぬ細身で丁寧な口調がシルドさんだ。

「ああ。鎧の手直しだな」

ユイエさんが俺の鎧を見て言った。

「はい。お願いします」

そのために今日は朝から鎧を着っぱなしだったのだ。

鎧の具合を見る場合は朝から着けて、そのまま店に来いと言われている。

「しゃーねーなあ。よしっ、一丁見てやるか」

ユイエさんがそう言うと、シルドさんがすっと踏み台を差し出す。

ユイエさんが踏み台に上る。

着たまま見てもらうには、身長差があるからだ。


「いてっ、そこ痛いです」

「わかってる」

ユイエさんはあちこち叩いたり動かしたりして防具の調子をみている。

「お嬢! お客様には丁寧にと言ってるではないですか。リョータ様、すいません」

「わかってるって」

ユイエさんは鎧をさらにあちこち動かす。

「いててっっ」

この横暴防具屋めー。と思ったら。

「よし。おまえ体型が変ってきたな、ちょっとは筋肉もついてきてる。微々たるもんだけどな。それで合ってない箇所が出てきたんだ。鎧を修正するぞ」

おお。俺に筋肉?!

たしかに体は随分と締まってきてるからな。

筋肉。そんなもの女性と同じくらい無縁と思われた俺に、筋肉がっ。

異世界に来た俺が鍛錬したらマッチョになれそうですか?!


「しっかし、これじゃまだまだ板金重甲冑は無理だな」

それってフルプレートメイルじゃん。

ミスリルでもすごい重さになるんじゃないだろうか、ぜってー無理だって。

「しょうがねえ。ブーツはちゃんと手入れしとけよ。今回は胸当てをもう少し良いのに変える。バランス取る為に背部もだ。肩周りと各部を調整で、そうだな5万エル――」

「その場合ですと8万8千エルドのところ、割引して8万エルドでございます」

すかさずシルドさんが淀みなく言った。

いいコンビだなあ。きっと5万エルドは原価なんだろうな。

「ではお願いします」

ここで値切ったりしない。

ギルドのキノさんの紹介だし、だいたい相場より普通か少し安いからだ。

俺は鎧を外してシルドさんに渡した。

前金の4万エルドを払う。残りは受け取った時だ。


「あっ」

そこで重大なミスに気がついた。

「どうした?!」

「いかがいたしましたか?」

「いや。あの、ですね……」

俺は二人に説明した。

それを聞いたユイエさんがげらげら笑い出した。


鎧を預けたら帰りの服装が鎧下だけになる。

鎧の下にチェーンメールを着る人もいるが重いので、俺のは布製だ。

それで外を歩くというのは、いうなればシャツにステテコで歩いているようなもんだ。

やっちまったー。

この懐かしい思いは、プールの授業に家から海水パンツをはいてきたはいいが、替えのパンツを持ってこなかったことに気がついた時の気分だ!


布製鎧下だけで歩くのはおかしな格好だが、往来を歩けないわけじゃない。少し寒いだろうが仕方ない。

そしたら気を使ってくれたシルドさんが「あっ。それでしたら帰りはこれを上に羽織ってください」ときっちり畳んだローブらしき服を渡してくれました。すいません。

「ありがとうございます、おかりします」

俺はありがたく受取った。


「ところで小僧。おまえランクはどうなった?」

う。痛いところを。

「Dのままです」

俺はランクC目前で足踏みしている。

「そうか。あんま無理すんじゃねえぞ。鎧を着る冒険者なんだからな。ランクも身の丈にあってないとな!」

えーと。

「うんうん。鎧だけに身の丈に合わす……って、誰が上手いこと言えと!」

俺はツッコミを入れた。

何で俺は異世界でドワーフのボケにノリツッコミを入れているんだろう。


「お嬢。なんて巧妙な喩えでしょう」

シルドさんはすごく感心している顔だ。

「だろっ。わははっ」

ユイエさんも得意げだ。

やっぱりこの二人変ってるなあ。

でも、無理するなって言われて嬉しかった。


「おーす。邪魔するぜー」

ドアが開いて新しいお客さんが入ってきた。

重そうな鎧を着た獣人の戦士だ。

「おう小僧! よく生きてたな」

「お嬢! お客様にその態度はよくありませんと何度言えば……これはグルグ様。お久しぶりでございます。ようこそいらっしゃいませ」

この人誰でも小僧扱いなのかい。

「まったく。俺はもう5年は通ってんだぞ。いつになったら小僧じゃなくなるんだよ」

ぶつぶつ言ってるが怒っている様子は無い。常連さんでいつもこんな感じのやり取りをしているんだろう。

久しぶりというし邪魔しては悪いな。俺の用事は終わったし。

「では、鎧直しお願いします。シルドさん。これありがとうございます。クリーンして返しますね!」

「いえいえお気遣いなくそのままでけっこうでございます。ご来店ありがとうございました」

「小僧! 明日の昼には出来上がってらあ!」

「はい、では明日に」

そう言って俺は借りたローブを手に店を出る。

歩き出すと外は少し寒い。

「ふう。身の丈かあ……」

ドランブイエ工房への感謝の気持ちと共に俺はローブの下は鎧下で帰るのであった。


でもシルドさん。

貸してくれたこれ。

歩き出して羽織ってから気がついたんですが。

なんでこのローブはドワーフ用のなんですか?

あ、そうか。

武器と防具屋の店にローブなんてないもんな。

これはシルドさんの私物なんだろう。執事服を汚さないための作業着みたいなものか。

感謝はしますが……

小さくて身の丈にまったくあってないんですけど!

というか袖丈も合ってませんし!

子供服着た大人みたいになってるし、むしろおかしな服装になってます!


「もし巡回の衛兵に見つかって不審者使いされたら。謎の魔物が吐いた液体を浴びたら、このローブだけ洗濯したみたいに縮んだんですって言い張ろう。ぜったい言い張ろう……」

俺はそう決心すると、アンファングの通りを足早に歩くのだった。

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