第16話 リョータ失職する?!
「えっ、閉店?!」
2週間マッハ亭に行けなかったので、ギルド帰りによって「予定通り来週から出られます」と伝えた俺に衝撃の通知が。
マッハ亭閉店。
なんてことだ。どうしてだ。
すごく繁盛してたのに!
どうしよう……まさかの収入減確定だ。
「すまないリョータ。義父母がブルメットの町でレストランをしているんだが、常連さんから連絡がきたんだ。そろそろ店を継いだ方がいいのじゃないかって。そのレストランで私は料理人として基礎を学んだし、妻とも出会った大事な場所なんだ。だから前から約束していたんだよ。いつか店を継がせてくださいって」
「急な話でごめんなさい。これだけ繁盛していてすごく迷ったの。でも、いつかあの店に帰ろうって決めていたの」
俺はイメージする。
下町の小さな洋食屋さんでお祖父さん息子さん孫が料理を作って、常連さん達も何代も通うようなそんなお店。うん。いいなあ。
「そうですか。それなら仕方ないですよね……」
あれ、でもやばい。料理人としての俺はどうなるんだ!
あ。いや俺冒険者だった。
「本当に申し訳ない。もちろんリョータの考えてくれたメニューはそのレストランでは出さない」
ハンバールさんはそう約束した。
料理人としてそれは仁義に反するんだろうな。
「いえ。いいですよ。じゃんじゃん作ってください」
「えっ、いいのかい?」
皆は驚いていた。
「あの料理は僕が考えたものじゃないです。つまり僕も人から教わって、それを伝えただけです。食材に合わせて工夫したのは皆さんじゃないですか。せっかくですから、もっと作ってください。他の人に教えてもいいですよ。それから、できればもっと米を使った料理を作ってみてください!」
確かにレシピを独占したほうがいいのかなって思うけど、もしかしたら異世界の料理人さんが異世界の食材で新しい米料理を作ってくれるかもしれない。
「わかった……ありがとう。焼飯とオムライスはブルメットに行ってもメニューとして研鑽を積ませてもらうよ。もっともっと美味しくしてみせる。新しい米料理にも挑戦する。料理人として誓うぞ!」
「はい」
うん。頑張ってね、そんなことより俺の収入どうしよう。
「でも。リョータの料理が食べられなくなるの残念だわ。もっと作って欲しかったな」
おおペミナよ。遠くに行ってしまうのですね。
そうなるとなんだか惜しい。
閉店までにフラグをたてられるのか、俺。
そうだ頑張るって決めたんだ。よしフラグをたてるぞ!
君だけのために料理を作るよとかなんとかいうセリフはどうだろう。
「ポッ君もすっごい残念がってた。リョータ君の料理もっとたべたいって」
「ポッ君?」
誰ですかそれ。
「ほら、うちで働いてるポクンターだよ」
とハンバールさん。
えらい略したなー。ポクンターさんはこの店で修行している料理人だ。
29才って言ってたかな。真面目で大人しくて、俺にも優しくしてくれていい人だ。
「娘とポクンターさんは結婚するのよ」
「リョータには言っていなかったっけか」
「えっ。知りませんでした」
フラグが一瞬で折れた!
というか立つ前に、立ってないのにへし折れたっ。
ペミナさん、あなたはヒロイン候補じゃなかったのですね……っていうか、ペミナさんって19歳じゃなかったか。
「えへへ。ポッ君。ブルメットに来てくれるっていうから」
幸せそうなペミナさん。
「それは、お、おめでとうございます。いやあびっくりしたぁ」
「ポッ君ってば、私が初彼女なんだってさ。もうすっごい優しくしてくれるんだ」
ご丁寧にポッ君の話でポッって顔を赤らめるペミナさん。
おうおうおう10才差カップルなんて有りな例がまたきたよ。
ていうか、そこはポッターって略すんじゃないのか。
おのれポッター!
貴様はその名前で魔法使いにはならぬのか!
「リョータさんをこれまでと同じ条件で雇ってもらうようにお店を探すわ。あなたほどの料理人ならどこでも大歓迎だわ」
「新しい勤め先は責任持って話をつけるから安心してくれ」
いえ、その。俺料理人じゃないんだって。
そうだよ本業を頑張らないとだめなんだ。
「お気持ちは嬉しいですが、俺は冒険者が本業ですので大丈夫です」
意地を張ってそう宣言する。
「「「えっ、そうだったの?!」」」
見事にハモりで頂きましたー。
ありがたいんだかなんなんだか。
とにかく閉店ありがとう営業は頑張るけどさ!
厨房に居たポッ君におめでとうを言いに行ったら、すごく照れていたけど幸せそうだった。
ぐぬぬ。おめでとう。
俺は思案中だったいくつかのレシピのメモを渡した。
結婚祝いってことにしといた。
えらい恐縮していたけれど、彼なら奥さんと一緒に役立ててくれるだろうよ。けっ。ここでリア充め爆裂しろと言ってまた別の異世界に行ってはたまらないからな。それだけなんだからねっ。
お幸せに。
お土産に米を貰った。
帰り道、俺は収入の計算をする。
今後はどのくらい稼げるだろう。
週に5日間、素材採取をこなすとすると約5万~10万エルドの収入だが、毎日取れるとは限らない。
天候にも拠るし、他に採取をする冒険者だっているのだ。
俺が採取で回っていたのは比較的安全な森の端っこだ。
魔物少なめでいい薬草が採れるとなれば場所は限られる。
いくら広い森だと行ってもかちあうこともあった。
そして俺から学んだ知識でレイナが採取をすると、俺の採取場が被る可能性が高くなる。
となると俺の収入はさらに減る。
もっともレイナの今の実力からするとさっさと森の奥へ行きそうだ。
俺は今後もっと魔物と戦わないといけない。
冒険者が簡単な採取だけを仕事にすると退治されない魔物が増える。
すると魔物に襲われる人が増えるし、増加した魔物が安全だった場所へ現れて危険になる。
それでは依頼者も冒険者もギルドも立ち行かなくなってしまう。
どうせ採るならもっと危険な場所でレア素材を狙うべきだとゾラさんも言っていた。
冒険者ならもっと冒険したり、魔物を退治しなくちゃいけないのだ。
ダイアードッグ一匹すら楽に倒せなかった俺だけど。
ランクを上げて、自由にあちこち行ける様にならないと、手がかりも探せない。
よし。気を引き締めよう。
装備を揃えるお金もいるんだ。
アルバイトが無くなって収入減になるんだ。無駄遣いをやめよう。
怖くても頑張るって決めたもんな。
「頑張れ俺!」
俺は気合を新たに歩く。
これからは無駄遣いをしないようにと思ったけど、やっぱり晩酌用に串焼きは買ってしまった。
今日はトロンボの肉だって言ってた。
トロンボってなんだろうってつい買っちゃった。




