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第12話 リョータの教え

「えっと。これは採取しません」

俺とレイナは朝の森を探索している。

小さな青い花を見つけたが、俺はそう言った。

「リョータさん。何で採らないんだ?」

前ならケンカ越しの口調だったが、今はちゃんと話せる。

「まだ育ってないからだよ」

「育っていない?」

「うん。ギルドの2階の資料によると、これくらいまでに葉が成長した時が一番いい状態なんだそうだ」

俺は手の平で大きさを示す。今見つけたのはまだまだ未成熟だ。

「そうか……でも、これだって売れば幾らかにはなるだろう。それに次また見つけられるかどうかわからないじゃないか」

「それはそうだけど。今摘んでも、いい素材にはならないでしょ。もったいないじゃん」

「もったいない?」

「せっかくもっと育つのにさ。それにさ、この野草だって生きてるんだよ。それを人の勝手で摘まれちゃうんだよ。せめて大事にしないとね。草花といえどもせっかくの命だもの。それを貰うんだから」

「……そんな風に考えたことなかった」

まあそうだろうなあ。とっても日本人的な考えだもんな。

レイナはじっとその野草を見ていた。


俺はこっそりと近くの木に目印をつけて置く。

育ってから採集だ。抜かりは無いぜ!


「見つけた!」

充分育った薬草を見つけて嬉しそうに採取用ナイフを手にするレイナ。

「やったね! でもちょっとまった。これはいきなり切っちゃだめだよ」

「え? そうなのか?」

こいつは根もついてる方がいいんだ。

買取額も上がるし、持ち帰るまでの状態もよくなるんだ。

俺はヘラを使って丁寧に掘り出していく。

「こんな感じでやってみて」

「わかった」

レイナは鎧が汚れるのも気にせず、真剣な顔で腹ばいになってヘラを使っている。

うむ。

倒木でちょっと湿った陰で土も柔らかめの所ね。

この薬草に合ったいい具合の場所だ。

俺はこの薬草が生えやすい場所をこの3ヶ月で既に何箇所か覚えている。

ここも目印して要チェックだ!


「はーい。この薬草は全部取らずに茎を三分の一ほど残して取りましょう」

今度は群生していた薬草を摘む時に、茎を三分の一ほど残した。

「リョータさん。なぜ全部採らずに残しておくのはどういう理由からなんだ?」

ちゃんと理由があるってことわかってきたみたい。

「うん。いいところに気が付いたね! この種類はまたすぐ生えてくるんだ。また採れるから、全部採って枯らしてしまうより、残しておいたほうがいいってわけさ」

「そうなのか。薬草ってすごいのだな!」

笑った顔がステキだった。

「あ。それなら、この場所に目印でもしておけばいいかな。さっきの場所も自分だけにわかるように目印をつけておくとか」

ぎっくぅっ。

「そ、そうだな。それはいい案だ」

レイナ鋭いぜ。


そんなこんなで10日ほど立ちました。

「この生育条件でこの薬草がここに群生しているわけだから、今度は向こうの沢のほうを探してみたいのだがどうだろう?」

レイナが提案してくる。

「う、うん。そうだな。行ってみよう」


そして探すこと半コク。

はい、目指す薬草ありました。

「やはりこのあたりに生えていたな。狙い通りに見つけると嬉しいものだ。ふむ。気候や季節や温度などの環境を考えて行けば効率よく素材が集められるということか。これは魔物も同じだな。なるほど動植物は密接に関わりあっているのだから。それらを踏まえて臨めば、よりよい収集が可能かと思うのだが。どうだろうかリョータさん」

「お、おう。よく気がついたな。その通りだぜ!」

ぐっジョブと親指を立てているが、俺は内心叫んでいた。

ノォー!

そういう知的発見披露は俺の役目じゃないんですかぁぁぁ。

だってだって、小説とかだと、異世界の知識を持ち込んで大成功。なんてすごいヤツなんだと大絶賛。キミは天才Daaa! ってなるパターンじゃないんですかぁぁぁ。


でも仕方ないか……

焼飯もそうだったけど、採取だって元世界の知識と何事も丁寧に真心こめて仕事する和職人の感じでやってみたら上手くいった。

でも、それだけでは長年この世界に居た人の知識や経験には対抗できないって解ったんだ。だって料理の味付けだってハンバール夫妻という本職の料理人に手伝って貰ってこそだった。長年やってきた人の技量にすぐに勝てないのはあたりまえだよな。

レイナだってこの世界に生きて来た知識がある。


「えっとさ。生物ってのはさ、共生と食物連鎖で繋がってるんだ。共生は蜂が花粉を運んだりとかね。食物連鎖ってのは食べたり食べられたりが鎖のように続いていること。動物の死体や糞を養分に育ったりする植物を食べた動物がまた他の動物に食べられて、それがまた死んで養分にとかさ。助け合ったり、命がぐるぐる巡回してたりするんだ。それを参考に採取をするといいよ」

俺は全力で長ゼリフを喋った。

くらうがいい。これが俺の最後の知識。

ラスト俺kakkeeeだー。

生物に関して詳しい知識はもう特に持ってない!


「共生と食物連鎖か……自然ってすごいな。うーん。リョータさんは物知りだ。すごいな!」

「ま、まあな」

ああ。こんな美人に尊敬の目を向けられて賞賛されるのって気持ちいい!

「ふむ。魔物だって共生や食物連鎖に入るものもいるな……ああ、そこから外れてしまった存在が本当の魔物なのかもしれないな」

ぽつりとレイナが言った。

ええええ。言ってることがなんだかカッコいい。

そういうセリフは異世界トリップ者の俺が、なんかもっといいタイミングで言うもんじゃないの?

超強いモンスター倒した後に「フッ。命の輪に還れ」みたいな感じで。


「どうしたのだ。リョータさん」

俺がそんなことを考えていると、レイナが俺の顔じっと見ていた。

ふう。

紫の髪に紫の瞳、美形で腕の立つ騎士だもんな。

俺が言っても様にならないか。

「なんでもないよ。さあ。もう一回りして今日は帰ろう」


その途中で俺達は、ある薬草を見つけた。


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