第10話 指名依頼
「リョータ。おまえにレイナの指導を頼みたい」
「え?」
俺は首をかしげる。
ここはアンファング冒険者ギルド支部長室だ。
なぜか俺に指名依頼だそうだ。
「レイナに素材採取の指導を頼む」
髭面でごっつい熊獣人のおっさんが繰り返す。
めちゃくちゃ強そうだ。
「ちょっと何言ってるかわかりません」
俺が告げるとルナちゃんが慌てて言った。
「にゃっ。リョータさん。グリンド支部長の依頼ですよっ。何言ってるんですか。あっ。わたし、ギルド支部長のこと説明し忘れてたにゃ。ごめんにゃさい。えっと、えっと、とにかく偉い人なんですにーっ!」
ふぅーっふぅーぅっと声を上げるルナちゃん。
可愛いがだいぶ興奮しているなあ。だけどギルドの支部長さんなんて初めて会ったんだもの。
「どうして俺なんですか?」
採取の指導なんて困るよ。
おっさんは今すぐお前を食って冬眠しよかーみたいな目で俺を見ていたが、にやりとして言った。
「ちゃんとしたギルドからの指名依頼だ。レイナに採取の実地研修をして欲しい。期間は2週間。報酬は大銀貨2枚でどうだ?」
20万エルドか。大金だ。でもあのレイナさんを?
「できたら他の人に……あ、そろそろ市場へ食材を探しに行かなくては。料理人の血が騒ぐぜっ」
俺はソファから立とうとした。
「待て」
「はい」
さすが支部長、マテウスさん並に眼光鋭いぃ。
俺はソファに再び着席した。
「大銀貨3枚なら?」
「夕方の仕込みに遅れるので本日はこの辺で……あのどうしてそんなにレイナさんを?」
ギルド長ってそんなに世話好きなのかな。俺は今までまったく放置なんだけど。
「まあちょっとな。リョータとは宿の部屋も隣同士なんだってな。そういえばカラハが面白いことがあったって……大銀貨3枚とランクアップだ。それで頼まれてくれないか。ギルド支部長として頼む」
ひいいっ。カラハさんナニ話したんですかぁぁぁ。
「リョータさん。おもしろいことってなんですか?」
ひいいぃ。
ルナちゃんそこは興味持たないで!
もちろん俺は速攻全力で言った。
「ギルド長にそこまでされて断れませんよ! はい、引き受けます。よろこんでー!」
支部長に頭を下げられては仕方ないではないか。
30万エルドにランクアップとまで言われたら断るわけにもいかない。
けしてルナちゃんの質問をごまかすためではない!
「よろしく頼むぞ」
「はい!」
俺達はがっちり握手をした。手が痛え!
「あの。ところでどうして俺なんですか?」
他にもたくさん冒険者はいるし、素材買取担当の人はほとんどが元冒険者だ。彼らの方が先生として上だと思うんだけど。
「ああ。キノとマールの推薦だ。おまえは素材の扱いが丁寧だし、話し方も乱暴じゃない。はじめはギルド職員に指導をと思ったんだがな、反発されると返ってややこしくなる。それにちょうど同じ宿だと聞いたんでな」
なるほど。
キノさんとマールさんが推薦してくれたんだ。ちょっと嬉しい気分だ。
それにしてもあのレイナさんに講習か……
「あの。期間中はレイナさんに条件を付けたいんですが」
俺はギルド長にあることを提案する。
「うむ。許可しよう」
ギルド長は即答だ。
「大丈夫ですかにゃ……」
ルナちゃんが心配そうな目で首をかしげていた。